第223話 選ばれなかったものの力。
「レーヤヴィヤ姫の
カシャン。
城を囲む外壁、その裏手。
大げさに肩をすくめながら、独特の金属質な足音とともに僕たちの前を歩く。
「王国正規軍である騎士団は国防の要、いわば盾だ。もうすぐ予定されている大規模魔物掃討作戦でも、冒険者身分である君たち〈
カシャ――
「つまり、こうして無理やりにでも機会を設けなければ、力をしめすことなどできないということだ」
――そして、少し開けた場所でその足音が止まり、振り返る。
白銀騎士シルヴァナ。ちょうど逆光に照らされて、その口もとがただ弧をえがいていることしか見えない、僕の決闘相手が。
「でも、だからって、飲みほした回復薬を瓶ごとぶっかけるなんて、ちょっとひどいよ! シルヴァナさん!」
「うん。おかげでノエルの一張羅がだいなし」
「この花、慎んでお返しします。わたしのノエルにいさまを貶めるようなかたから受けとるつもりなど、毛頭ありませんので」
「両姫さまがたが去られたと同時にこの行い、これが本当に騎士としての君の流儀だと? 返答次第では、私の相手もしてもらうことになるが?」
「お、おねえちゃん……!」
ひとり奥に立つシルヴァナへ向かって、少し下がって僕のうしろに立つ女性陣から、いっせいに糾弾の言葉と視線が投げかけられる。
だが、それを受けてシルヴァナは、さらにその口もとの弧を深く深くつりあげた。
「はは……! これは、とんだ
シルヴァナの手が腰の剣に添えられ、ゆっくりとその白銀の刃が引きぬかれていく。
「まずは、この決闘を終わらせようじゃないか。闇の勇者ノエル・レイス」
「……ああ、そうだね。白銀騎士シルヴァナ・ゴルディール。さっさと終わらせよう。こんなくだらない時間の無駄は」
応じて僕も、青と黒に光る闇の聖剣を引きぬいた。
「「「ノエル……?」」」
「にいさま……?」
「ふふ……! 無駄かどうかは、終わってからにしてもらおう! いくぞ! 騎士剣術、【
「ああ、すぐにね! 【
こうして、たがいの魔力のぶつかりあいとともに、僕とシルヴァナの決闘は幕を開けた。
……困惑にゆれる少女たちの声を背に。
「はああああっ!」
「うおおおおっ!」
何度も何度も、激しく刃と刃を奔らせる。
……たしかに強い。その洗練された剣技。生まれもった光属性の膨大な魔力。王国騎士団副団長をこなすだけはあるだろう。だが、“威圧”を持たない以上、
だから、やっぱり最初に思ったとおり、
「ははははは……! 思ったとおり、実に、実に醜いな……! 闇の勇者……!」
「……は? いきなり、なにさ?」
何度目かの衝突の直後、二歩三歩とうしろに下がり距離をとったシルヴァナが突如声をあげて笑いだす。
「こうして本気で剣を交えれば、いやでも
シルヴァナが抜き放っていた剣を鞘にもどした。
「その不遜なる思い上がり、いま正してくれよう……! 光の聖剣に選ばれなかった私がそれでも王国の敵と戦いぬくために編みだせし、我が奥義で……!」
亜空間収納の展開。ゆがんだ空間から、その左手がきらめくなにかをつかみとる。
「ま、まさか……!? おねえちゃん、本気で……!? だめっ! ノエルさん! 逃げ――ううん、全力で受けてぇっ!」
「さあ、その身で存分に味わえ……! これが魔王にさえとどきうる力! 副団長シルヴァナ・ゴルディールが奥義!」
「くっ……!?」
ぞわり、と強烈な悪寒がはしり、僕は手にもつ聖剣の光を最大限に吹き上げた。
悲鳴のようなステアの絶叫が響く中、シルヴァナが手にしたなにかを放り投げ、同時に駆ける。
空間がゆがみ、僕の視界がいくつもの鈍く光る銀色に染まった。
「【
直後、たて続けに起きた轟音と衝撃があたりを支配した。
「う……!? あ……!?」
カランと手にした聖剣をとり落とし、うめきながら僕は糸の切れた人形のように力なく地面に倒れ伏す。
「
かすみはじめた視界の中、その姿を見上げる。ひざをついたシルヴァナの手がのばされ、ぐいっと強引に僕のあごが持ちあげられた。
「う……。く……」
「無様だな。敗者。だが、極めて不本意かつ不敬ではあるが、一度だけ告げよう」
そして、もうろうとする意識の中。目と鼻の先。まっすぐに見つめたシルヴァナのその紅をさした唇が動く。
「いいかげん、その
「シ……ル……ヴァ……?」
つかんだ手を離され、今度こそ完全に意識が落ちる間際に見たその顔は真剣そのもので――わずかに涙に濡れているようにさえ見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます