第148話 君は、本当は。

「ふっ! はっ! はああっ!」


 暖かな午後の日差しが降りそそぐ中庭に、舞うように槍斧ハルバードが風を切る音が何度も響く。


「ここにいたんだ。熱心だね。ニーべ」


「ノエルか。ああ。先日の【死霊聖魔女王】との戦いで思い知ったからな。私もまだまだだと。それに」


 軽装の鍛錬着に身をつつんだニーベリージュが額に張りついた紫の髪をかき分けながら、ふっと微笑んだ。


「こうしてまた太陽の下、思いきり汗を流せること。それ自体が私にとっては得がたい幸せだ」


「……ニーべ」


 あの【死霊行軍デススタンピード】の最中に聞いたニーベリージュの事情。


 家族をすべて失ったこと。ブラッドスライン家とブラッドリーチ家の確執。そして、いまはもうその効力を失った装着者を半死人と化す黒い全身鎧【霊死の黒鎧アニメート・コプス】。


 ロココやディシーがかかえたものに、勝るとも劣らないその境遇。

 

「それでどうした? ノエル。私を探していたようだが、なにか用があったのではないのか?」


「あ、うん。用ってほどじゃないけど、ちょっと聞きたいことがあってさ」


「聞きたいこと?」


「うん。ニーべ。さっきはああいってたけど、本当のところどう思ってるの? もう貴族じゃなくなったブラッドリーチ家やほかのひとたちについて」


 ざあっ、と風が吹いた。


 肩までの紫の髪が乱れ、ニーベリージュの表情を隠す。


「あのあと、僕なりに考えたんだ。でも、どこをどう考えても彼らには困難しか待っていない。それこそ路頭に迷ってもおかしくないほどの。そして、部外者の僕でさえ簡単にたどりつける結論に、当事者のニーべがたどりつけないわけがないって」


「…………」


 ニーベリージュは答えない。


「でも、あのときディシーやロココにニーべが答えた言葉に嘘はないように思えた。それに、そんな嘘をつくなんてニーべらしくないって、僕自身も。だから――」


「――こうして直接私の本心を聞きに来た……か?」


「……うん。ニーべ。君は、本当はどう思ってるの? あのひとたちにどうなってほしいの?」


 ニーベリージュが静かに赤と紫の色違いの瞳を閉じる。


「……わかった。答えよう。だが、条件がある」


「条件?」


「ああ」


 そして、ふたたび見開くと同時、その全身を一気にゆらめく青い霊火がとりまいた。


「一合でかまわない……! 私と打ちあってもらおうか……! ノエル・レイス……! 暗殺者としてではなく、【闇】の勇者としての君の力を私に見せてみろ……!」


 残光をなびかせ激しく燃える赤。凪のように静かな光をたたえる紫。


 対称的なふたつの瞳が僕を見つめていた。青くゆらめく【光】を放つ槍斧ハルバードの切先とともに。





♦♦♦♦♦


本作を面白いと思って頂けましたら、是非タイトルページで☆による評価、作品フォローや応援をお願いいたします!


読者様の応援が作者の活力、燃料です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る