第110話 愉悦。※
「は、はだか……って……?」
天高く陽が上り、時刻は昼に差しかかりはじめたグランディル山の頂の遺跡、その一軒の天井をなくした家跡にて。
その自らを見下ろすがらんどうの髑髏【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギスの発言に、泣きじゃくっていた
年頃の少女にとって、もっとも忌避すべきその要求。
警戒をはね上げたステアに、だが【死霊魔王】は動じない。そもそもが余興にすぎないからだ。
ステアの生殺与奪の権利はすでに自らが握っており、その気になれば力ずくでひん剥くことももちろんたやすい。
だが、それではつまらない。せっかく手に入れためずらしい
ゆえに、【死霊魔王】はその言葉をもって彼女を弄する。
「ふぉっふぉっふぉっ。そう身がまえずともよい。ステアよ。おぬしはいまこう考えておるのじゃろう? 儂が好色な【
「う、うん……」
「ふぉっふぉっふぉっ……! それは無用な心配じゃのう! 儂はこのとおりのがらんどう! 生身の肉体への欲望など、最初から持ちあわせておらんよ!」
カラカラと笑う【死霊魔王】は、だがすぐにその声を低く落とした。
「ただのう……。おぬしたちは身のほど知らずにも、力のない分際で【魔王】たるこの儂に挑むという大罪を犯した。ならば、ただで帰すわけにはいくまい? それ相応の罰を与えたあとでなくては、のう?」
「そ、それが……ステアのはだか……なの……?」
「うむ。そうじゃ。おぬしら人間の娘子は衆目に裸をさらすことに強い抵抗を持っておるのじゃろう? であれば、相応の罰になり得るではないか」
「で、でも……」
「……まあ、おぬしがどうしても嫌なら、幼子相手らしく話に聞いた尻たたき百回とやらでもよいのじゃが、ほれ。残念ながら、いまの儂のこの手では……わかるじゃろう?」
「ひっ!?」
なおも渋るステアに【死霊魔王】が見せつけたのは、【屍獣魔王】の死霊を加工してつくりあげた異様に肥大化した異形の腕。
そして、いま一度ステアに思いださせる。いま相対している相手が自らをたやすく葬りさることができる絶対の存在であると。
自らの生命の天秤は、このがらんどうの髑髏の機嫌次第で簡単に傾くと。
「わ、わかった……。ステア、ばつをうける……よ……」
そして、ステアは固く決意を固め、上着のボタンに震える指をかけた。
「うむうむ。いい子じゃ。ああ、あせらずともゆっくりでよいぞ? ゆっくりで、のう」
「う、うん……」
【死霊魔王】の言葉に嘘はない。
ぷちっ。ぱさっ。するり。
ステアに告げたように、その身に生身の肉体への欲望など皆無。
半袖の上着、インナーシャツ、短い丈のズボン、ブーツ、靴下。
下に落とされるたびに徐々にさらされていくステアの華奢な肢体。
このがらんどうの髑髏は、ただ味わいたいだけなのだ。
ふわっ。
上の下着が外れ、年頃の少女としてはやや慎ましやかな胸があらわになる。
そして、最後の一枚に指をかけたところで、ステアは懇願するように【死霊魔王】を見た。
それに対し、がらんどうの髑髏はただその骨の顎を縦に振る。
きゅっと唇を噛みしめながら、頬を真っ赤に染めたステアがうつむき、最後の一枚を引き下ろしはじめた。
その少女の恥じらいを。汗ばむ肌を。息づかいを。ためらいを。後悔を。高揚を。
そして、すべての尊厳を奪われる絶望を。
弱者を玩具にして弄ぶ愉悦をその超越者は至高のものとして、口の中の
……ゆえに、目の前の玩具に熱中する【死霊魔王】は気づかなかった。
「【
「ぐうがぁぁぁぁぁぁあぁぁ!?」
壁越しに自らの背後に忍びよる存在に。
その体の一部をまばゆく輝く迸る【光】に貫かれるまで。
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