第99話 熱狂。※

『サア、受ケヨ……! 人間……! 我ガ必殺ノ【死霊滅波デスウェイブ】ヲ!』


 その一発で、戦場は一変した。


 鎧を着た髑髏の巨人、【死霊将軍デスジェネラル】が放った荒れ狂う黒い炎は、抗うすべを持たない冒険者たちを半壊させ、甚大な被害をもたらした。


 数の有利を失った冒険者たちのリーダーたる【光】の勇者ブレンは、だがその性質を一発で看破し、決断する。


「みんな! 聞いてくれ! あの技の撃ち終わりこそが最も敵の防御が薄くなる最大の好機だ! どうか俺たちの準備が整うまで、敵の攻撃をおさえてほしい!」


『ククク……! オモシロイ! ヤッテミロ! デキルモノナラナァッ!』


 そして、冒険者たちは命を懸けた。【黎明の陽デイブレイク】が必殺の一撃をあてるために。


 【死霊将軍デスジェネラル】に刺され、刻まれ、焼かれ、紙くずのように吹き飛ばされる――ただそのためだけの肉壁となって。




「みんな! いま俺はここに誓う!」


 【センティア】の街の北、高く上る太陽が照らすグランディガルド連邦のひとつ、ルドル山の奥地。

 

 数多の冒険者たちの死体が転がった地獄絵図と化した戦場で【死霊将軍デスジェネラル】を討伐した【光】の勇者ブレンの右こぶしが高々と天に向かって突き上げられる。


「必ず俺たち【黎明の陽デイブレイク】の手で【死霊魔王】を討伐してみせると! いまここに集う、ともに意思を同じくして戦う冒険者なかまたちと、俺たちのために命を懸けて、志なかばで散った犠牲者なかまたちの想いとともに!」


 仲間。いまや人類の希望。時の【英雄】となった【光】の勇者ブレンにそう呼ばれることへの高揚。


 【死霊魔王】を討伐した暁には、いずれ叙事詩サーガとしてうたわれるであろう勇者の物語の中に自分たちがいま登場人物のひとりとしているのだという陶酔。


 ――それらの思いはいま、ひとつの熱狂の渦となった。


「武運を……!」


「そうだ! 武運を……!」


「【光】の勇者に武運を! 我らが【英雄】! 【黎明の陽デイブレイク】に武運を!」


「「「武運を! 武運を! 武運を!」」」


 【光】の勇者ブレンと同じように冒険者たちが高々と右こぶしを突き上げる。その中には、つい先ほどまで恋人の死体にすがりついていた少女の姿までも。


「ありがとう! みんな! 俺たちはこのまま最奥のグランディル山へ進み、【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギスを目指す! だが情報によると、ここ以外に2体、近隣のガルデラ山とドラン山にそれぞれ【死霊将軍デスジェネラル】が放たれたらしい! けっしてやつらを街にいかせるわけにはいかない! だから、それをみんなにまかせたい! きっと困難な戦いになると思う……! だが、どうか武運を!」


「「「武運を!」」」



 そして、熱狂的な歓声に見送られながら、【光】の勇者ブレンたちは歩みはじめる。



 いまはまだ知ることはない、ふたつの再会とひとつの邂逅が待つ【死霊行軍デススタンピード】の始まりにして、その終着点――そして、【黎明の陽じぶんたち】自身の終焉の地へと。






♦♦♦♦♦


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