第82話 【黎明の陽(デイブレイク)】。

『【リライゼン】にお住まい、ご滞在のみなさま! 緊急のお知らせです!』


 独り【魔物大行軍スタンピード】の最前線へと赴いたニーべリージュを揶揄する冒険者の声に失意と悔しさから僕が奥歯を噛みしめる中、冒険者ギルドの外に甲高い女性の声が響いた。


 魔力消費が大きすぎるから、めったに使われることはない街中の各所に置かれた大型の拡声魔力器。それがいっせいに稼働し、その女性の声を伝える。


死霊系アンデッドによる【魔物大行軍スタンピード】の発生が確認されました! なお当【魔物大行軍スタンピード】を以前発生した【魔獣行軍ビーストスタンピード】にならい、以後【死霊行軍デススタンピード】として呼称します! この【死霊行軍デススタンピード】が収束するまでのあいだ、この【リライゼン】の出入りは住人、滞在者を問わず第1級警戒として制限させていただきます! すうぅ……!』


 そこで一度、女性が話すのをやめ、呼吸を整えるのが漏れ聞こえた。そして、再開したとき、その声は明確に上ずって聞こえてきた。


『ですが! みなさま、朗報です! 王都はすでに予言や遠視によりこの事態をつかみ、動いていらっしゃいました! そして早急に事態を打開し、発生源の【死霊魔王】〝玩弄〟のネクロディギスを討伐すべく、あの方々の――【獣魔王】〝蹂躙〟のザラオティガを討伐した我らが英雄、この度正式にその名を定められました【光】の勇者パーティー! その名も【黎明の陽デイブレイク】の派遣がすでに転移魔法により行われております! この【リライゼン】ではありませんが、近隣最大の街【センティア】へすでに到着され、現在冒険者有志による部隊編成をしておいでとのことです!』


 ……なんだって?


「おお! 【光】の勇者が……!」


「【黎明の陽デイブレイク】……! 深き夜の闇をはらう大いなる太陽か……! すばらしい名前だ……! まさしく【光】の聖剣に選ばれた勇者にふさわしい……!」


『みなさま! 必ずや我らが【黎明の陽デイブレイク】は【死霊魔王】を討伐されるでしょう! それまでのわずかな辛抱です! どうか【リライゼン】執政部の政策にご協力ください! そして、どうか我らが英雄の活躍を祈ってください! 我らが英雄【黎明の陽デイブレイク】に武運を! 希望を! そして勝利を!』


 冒険者ギルド中の人間がいっせいに立ち上がり、そして――街そのものが揺れた。



「「「我らが英雄【黎明の陽デイブレイク】に武運を! 希望を! そして勝利を!」」」


「「「我らが英雄【黎明の陽デイブレイク】に武運を! 希望を! そして勝利を!」」」


「「「我らが英雄【黎明の陽デイブレイク】に武運を! 希望を! そして勝利を!」」」



 ギルドの中。さっき【闇】属性の孤高の【英雄】ニーべリージュをせせら笑ったのと同じ声で、本心から冒険者たちが【黎明の陽デイブレイク】を、【光】の勇者ブレンを讃えだす。割れんばかりの歓声が何度もギルドの外からも聞こえてくる。


 その熱狂と対照的に、僕の心は底冷えするほどに冷えていった。


 ……行かなくちゃ。あの男が、勇者ブレンが来るなら、その前に【死霊魔王】に到達して、僕が……!


「ね、ねえ……! ノエルくん……!」


 そう決意を固める中、僕の背中にフェアさんの声がかかる――どこか切羽つまったような、声が。





♦♦♦♦♦


本作を面白いと思って頂けましたら、是非タイトルページで☆による評価、作品フォローや応援をお願いいたします!


読者様の応援が作者の活力、燃料です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る