第71話 人々の希望に。

「いや、同じだよ。ディシー」


「え……?」


 一歩まちがえば大災害にもなりかねなかった【超大ヒュージ暴食黒粘体グラトニースライム】の事件を未然に防いだ功績で、冒険者ギルドが用意した高級食事処の最高級個室での席。


 ロココをひしっと抱きしめながら、過去に置かれた境遇について自分よりもよっぽどひどい、と涙をこぼすディシーに対し、僕はゆっくりと首を振った。


「僕もロココもディシーも、【闇】属性だから。ひとと違ったから。選べなかったから。いいように使われ、搾取されたんだ。程度の差はたしかにあるけど、そこはなにも変わらない」


「そ、それは……そう……かも……だけど……」


「だから、僕は証明したいんだ」


「証……明……?」


「【闇】属性に生まれた僕たちだからこそ、ひととは違う異質な力を持っているからこそ、できることがあるって」


「【闇】属性のあたしたちだからこそ……できること……」


「聞いて。ディシー。僕はね、【闇】属性の仲間を集めたら、いずれ戦いを挑むつもりなんだ。この世界に君臨する残り6体の魔王に」


「え……!? ま、魔王……!? そ、それってつまり……!」


「うん。僕は、勇者になりたい。……いや、違うな。僕が【光】の聖剣に選ばれるわけないから、そう。英雄になりたい。たとえ【光】の聖剣に選ばれていたとしても、ひとを平然と踏みつけにできるブレンを僕は勇者だとは、人々の希望になる資格があるとは、どうしても思えない。だから、僕が!」


 そこでガタンと席を立ち、ディシーの緑色の宝石のような瞳をひしと見つめる。


「僕たちが人々の希望になりたい。そう。その名のとおりのどんな闇夜でも世界を照らす光。空で僕たちを見守り続ける【輝く月ルミナス】のように」


 そして、すっと手を差しのべながら続けた。


「きっとさ。僕たちのほうがもっと遠くまで照らせると思うんだ。自分たちの【光】にできる影を平気で踏みつけにするあの【光】の勇者たちよりも、ずっと。この世界の【光】の届かない暗がりでも懸命に生きてる生命があるって知っている【闇】の僕たちのほうが」


 最後に一呼吸おいてから、思いのたけをもう一度叫んだ。


「ディシー、お願いだ! 僕とロココといっしょに【輝く月ルミナス】に、人々の希望になってほしい!」


 ふるふると、ディシーがその体を震わせる。そして、汗ばむ僕の手にそっと小さな手を差しのべた。


「うん! いいね、それ! あたし、のったよ!」


 泣き笑いの顔でディシーはそう僕たちの願いに応えてくれた。





♦♦♦♦♦


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