第69話 僕たちは、同じ。

「えへへ……。あたしって、いっつもこうなんだあ……」


 あの【はき違えた自由ノーアウトフリー】の本拠地の倉庫で起きた【超大ヒュージ暴食黒粘体グラトニースライム】の事件の後。


 一夜明けて冒険者ギルドの事情聴取を終えた僕とロココとディシーの3人は、大災害にもなりえた事件を未然に解決したということで、ギルドから準備されたささやかなもてなしの席を囲んでいた。


 場所は前にロココとふたりで訪れた高級食事処の――前よりもグレードアップして最上級の、3人で使うなんてもったいなさすぎるような広々とした個室だ。なんでも前に使った個室よりも5倍ほどの値段がするらしい。


 ちなみにもちろんギルドからは後日正式に別途報酬をもらう手はずになっている。現在はその査定中ということだ。



「おばあちゃんがいなくなって、ひとりになって、旅に出て、それでね……? 何度か、困っているひとたちをあたしの魔法で助けたことがあるの……」


 勝利の祝いといえなくもなかったが、事件が終わってからずっとこんな雰囲気のディシーにそんなことをいえるはずもなく、乾杯の音頭すらないままにギルドからのもてなしの席は静かに始まった。


 ギルドのおごりの高級蜂蜜酒をちびりちびりと口にしながら、ぽつりぽつりとディシーは語りだす。


「最初はね? みんな、応援してくれるんだぁ……。小っちゃい嬢ちゃん、がんばれー! って。でもね? あたしが魔法を使って、あのナントカ粘体スライムみたいに相手を跡形もなく消しちゃったり、血の雨を降らせたりすると、信じられないものを、まるで恐ろしい化物を見るみたいな目で、みんなあたしを遠巻きにするの……。いつもいつも、そうなんだぁ……」


 ……わかる気が、した。ひとはたぶん、あからさまな化物のほうがまだ理解できる。


 でも、僕やロココ、ディシー。そしてあるいは魔物使いモンスターテイマーだったゲスリーのように、自分たちとほとんど同じ姿かたちをしているにもかかわらず、異質な力を持っているほうが理解できない。特に、その力が強ければ強いほど。


「おまけにあたし、普通の魔法ってなんか苦手で、あんまり上手く使えなくて……。【クロちゃん】に刻めば、もっと簡単で効率よくできるのにって、そんなことばかり考えちゃって……。だから、結局だまされてたんだけど、昨日の【最高に自由マックスフリー】とのクエストだって、あんまり上手く戦えなくて、足ひっぱっちゃったんだぁ……。えへへ。ごめんね? なにいってるんだろ、あたし……」


 ……ああ。やっぱり、ディシーも僕やロココと同じだ。


 その【最高に自由マックスフリー】とのクエストで足をひっぱった件は、たぶんあいつらがディシーをイベントの【主役】にするために、力量や戦いかたを測るためにわざと起こしたことだとしても。


 でも、自分を曲げて、我慢してでも、どうにかこの世界に受け入れてもらおうと必死になっているのは同じだ。でもやっぱり曲げられなくて、我慢できなくて、もがき苦しんでいるのも……同じだ。


「ノエル」


 となりに座るロココがなにかいいたいことを秘めた、青い月のような瞳で僕を見上げる。


 ……うん。わかってる。最初からそうしたいと思ってた。それはあの冒険者ギルドで初めて会ったときから変わってない。いや、むしろいまはもっと強く思っているし、そのために全力をつくしたいと思っている。


「【黒元の精霊魔女ダークエレメンテス】ディシー・ブラックリング」


「え? え……? ど、どうしたの、ノエル? 急にあらたまって……?」


「君にお願いがあるんだ。ぜひ僕とロココのパーティーに――【輝く月ルミナス】に入ってほしい」


 緑色の瞳を真ん丸にして、ぱちくりと瞬かせるディシーに僕はそう告げた。





♦♦♦♦♦


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