第67話 【腕】。
「我が名はディシー・ブラックリング。我は紡ぎ手。我は世界と融け合いしものなり。いまここに我に許されし切りとられし世界の欠片に我が魔力を以て、新たなる魔の理を刻みつけん……!」
【精霊】というのは便宜的な呼称だ。各属性最上位の魔法使い【
だから、ディシーたち【
「よし! 刻んだ! さあ! いっくよー! 【クロちゃん】! えぇぇいっ!」
……うん。ちょうどこんなふうに。
魔力照明でまぶしいくらいに照らされた倉庫の中。
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
【
「我は刻み、我は
ディシーが力いっぱいに放り投げた【精霊】に刻みこまれた、この瞬間までこの世界に存在しなかった新たな魔法の発動から始まる――一わずか数十秒で終わることになる最終局面が。
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
ディシーの詠唱の終わりとともに、その黒い【珠】は爆ぜ割れ、そこから千本はあろうかという数の真っ黒な細い【腕】が現れた。【腕】はその巨体を覆いつくすようにぶわりと広がりながら、【
『ビィィィィィィィッ!』
自らを脅かす千本の【腕】を【
『ビィィィィィィィォォォッ!?』
だが、そこまでだった。互いにつかみあう【腕】と触手。だが【腕】はさらにそこから爆ぜ割れ、新たな千本の【腕】へと枝分かれし、また【
『ビィィィィィッ!? ビィィィィィィィィィッ!?』
あとは、幾度くり返そうとも同じだった。新たに発生した千本の【腕】を触手でつかんでも、また【腕】はさらに千本に分岐し、いつしか追いつかなくなる。
【
【
そして、時間にしてわずか数十秒後。
『ビィィィィィギャァァァァォォォォォッ!?』
【
『ビィィィィィギャァァァァッ!?』
そのあとは、もはや戦いとは呼べない一方的な蹂躙だった。その巨体を、つかまれた触手を、起死回生とまでにくりだされた巨大な触腕を無慈悲に満遍なく、真っ黒な【腕】が握り潰し、徐々に徐々に削りとっていく。
『ビィィィィィギャァァァァォォォォォッ!?』
ちぎれ飛ぶことすら許さずに、徐々に徐々に無へと還していく。
それはまるで、かつて滅びた国で存在したというもっとも残酷な体を削り殺される刑罰を受ける罪人のようで。あるいはいたずらに幼子にその身をちぎられる羽虫のようで。
『ピィ……! ピィ……! ピィィィィィィ……!」
そして、最後に残ったあわれな一体のただの
魔力照明でまぶしいくらいに照らされた倉庫の中。
あとには影すらも残さずに、こうして【
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