第33話 冒険者ギルド受付にて。
「だめです! あなたたちの登録は受けつけられません!」
開口一番にそう告げられ、僕は心底うんざりとした気分になった。
ここは冒険者ギルド内にある受付のひとつ。
いくつかあるうちから少しでも良さそうだと思ったお姉さんを選んだんだけど、どうやら無駄だったようだ。
僕とロココがギルド内に入ってきたときからずっと胡乱(うろん)な視線を送ってきていたほかの冒険者たちが「それ見たことか」とでも言いたげにニヤニヤと口もとを歪める。
きっと【闇】属性である僕たちが困っていることがよっぽど愉しいのだろう。常日頃から戦い続けている冒険者たちが魔物と同じ属性(におい)を持つ僕たちを嗅ぎ分けられないはずがないのだから。
でも、別に冒険者はそれでいい。どう思おうがどう振る舞おうが、守られないかわりに基本的に自由なのだから。けど、ギルド職員はそうじゃないはずだ。
「あの。それって僕とロココが【闇】属性だからですか? たしかに【闇】属性はいわれのない差別や胃嫌がらせを受けたりするけど、いくらなんでも登録すらできないなんて――」
「【闇】属性だから? なに馬鹿なこといってるんですか! そういうことじゃありません!」
「――え?」
そう思い食ってかかる僕に受付のお姉さんが三つ編みにした茶色のおさげ髪をぶんぶんと振り乱しながら、それ以上の勢いで声を荒げた。その予想外の反応に、僕は思わず間の抜けた声を上げてしまう。
「あなたたちどう見てもまだ子供じゃないですか! 確かに冒険者には本来、誰でもなれます! それこそ子どもでも……! でも、だからこそです! たとえほかの職員が素通りさせても、むざむざ死なせるために子どもを冒険者になんて私はさせません! あなたたちに働き口がいるなら、もっと安全なお仕事を私が紹介してあげます!」
興奮気味に頬を紅潮させ、懇願するようにまくしたてる受付のお姉さん。真剣に僕たちを見つめるその琥珀色の瞳には一点の曇りもなく、本当にただ心配しているだけなんだということが僕にもわかった。
こんなひとが、いるんだ……。
蔑まれるのがあたりまえの【闇】属性である僕が数えるほどしか経験したことのない混じりっけなしの善意。思わず目の前の純朴そうなお姉さんがまぶしい光を放っているような錯覚さえ覚える。
ただそれはそれとして、ギルドに登録できないのは困る。あんまり騒ぎにはなりたくなかったから、あとでこっそりって思ってたけど、しかたない。
「わかりました。お姉さん。なら――」
「フェアです! 私の名前はフェア! あなたたちみたいな子どもにお姉さんって呼ばれて情が移ったりすると困りますから、ちゃんと名前で呼んでください!」
「――わ、わかりました。フェアさん」
「それと子どもなのに無理してそんなに言葉をとり繕うのもやめてください! もっと乱暴な言葉づかいの冒険者さんなんていっぱいいるんですから! 壁をつくられてるみたいで正直ちょっと悲しいです!」
「う、うん。わかったよ。フェアさん。えっと、じゃあちょっと落ちついて、僕の言い分を聞いてくれるかな?」
「はい、なんですか?」
情が移ると困るとか壁をつくられて悲しいとか、正直語るに落ちてない? と思わなくもない受付のお姉さんのフェアさんの言い分を全面的に受け入れたところ、ようやく興奮状態がおさまったようだ。
これでようやく本題に入れると、僕は一気にたたみかける。
「フェアさんがまだ子どもの僕たちを心配する気持ちは十分わかったよ。でも、もし僕とロココにすぐに死んだりしないっていう十分な実力があるってわかれば、登録を受けつけてもらえるよね?」
「そ、それはまぁ……そう……ですけど……?」
「じゃぁ、これを見てくれる?」
その言葉とともに僕は左手につけた腕輪の魔力式を展開。亜空間収納から目あてのものをとり出した。
「え!? い、いまのは亜空間収納!? 一流の冒険者クラスでやっと手が届く代物をこんな子どもが!? そ、それにこれって――ギ、【大妖樹(ギガントトレント)】の核!? そ、それも全く傷が入っていない完全な状態の!? こんなの、いままで一度も見たことが……!?」
「はあぁぁっ!? 【大妖樹(ギガントトレント)】の核だとっ!?」
「あ、あんな劣等【闇】属性のガキがっ!?」
「ありえねぇ!? なんの冗談だよ!?」
途端に色めきだちガヤガヤと騒ぎ立てるその他大勢の冒険者たちを完全に無視して、僕はフェアさんに向けてにっこりと微笑んだ。ついでとなりのロココもぺこりと頭を下げる。
「どう? これで僕とロココののこと、認めてくれるよね? フェアさん」
「おねがい」
「は、はいっ!? も、もちろんっ!?」
フェアさんはこくこくと何度もうなずいて無事に了承してくれた。そのくりくりとした琥珀色の瞳を驚きで真ん丸にして。
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