第17話 生きる術。

「な、な、そんな……! あ、あんたよくもそんなひどいことできるっすね!? やっぱり【闇】属性ってやつは心まで魔物みたいに真っ黒なんっすね!」


 だいぶ高くなった日の光が差しこむ【妖樹の森】の中の開けた広場。


 ……本当にどうしようもないクズだな。この男。


 地面に無様に這いつくばったまま青ざめた顔で見当違いの糾弾をしてくる【猟友会(ハンターズ)】のクズ男に僕は冷やりとした笑顔を向ける。


「はは。おもしろいこと言うね? とてもロココを盾にして後ろから撃った人間の言うこととは思えないよ。息も絶え絶えのロココを気にも留めず、お風呂にも入れないし、ボロ布しか与えず、犬みたいにあつかった人間の言うことともね!」


「ひ、ひぃっ!?」


 語気を荒げたことでようやく僕の怒りに気がついたのか、短い悲鳴を上げるとクズ男はブルブルと這いつくばったまま押し黙った。そのあとは怯えながらちらちらと様子をうかがってくるだけだ。たぶんもうこのクズ男が僕に口を開くことはないだろう。最初からいまのクズ男と同じ態度でいるほかの【猟友会(ハンターズ)】のメンバーと同じように。


「ノエル」


 ちょうどそのとき、パンやハム、腸詰めに夢中になっていたロココが食事を終えたようだ。僕の黒いコートの袖をそこだけ聖水で見違えるように綺麗になった小さな手できゅっと握って引っ張ってくる。


「あ、食べ終えたんだね。どう、ロココ? 美味しかった?」


「うん。とっても。お肉なんてすっごく久しぶり」


「そっか、良かった。じゃあそろそろもっと美味しいものを食べに街に帰ろうか? ロココ、おいで」


「うん、ノエル」


 本当にうれしそうに微笑むロココの顔に、逆にぎゅっと胸を締めつけられるような心地になる。この娘に僕がしてあげられることなら、なんでもしてあげたい。心からそう思った。


 まずはお風呂ともっと美味しいごちそうかな? そんな思いを抱きながら、僕はロココの華奢な体を抱き寄せる。それから、地べたに這いつくばる【猟友会(ハンターズ)】の面々をもう一度見まわした。


「じゃあ、もう僕たちは行くよ。あなたたちはそこで野垂れ死にたいのなら、ずっとそこでそうしてるといい。これでも一応生き残るための術は示してあげたんだからね」


 これは嘘じゃない。大木の上に並べた上級回復薬にしたって、落ちやすいように端のほうに並べてある。これだけの人数がいて必死に木の幹に体をぶつければ、あれで落とせないってことはないはずだ。


 でも、これ以上このひとたちに手間も時間もかけるつもりはない。はっきり言ってロココを虐めた嫌いなひとたちだし、僕の中で一定の線は守った。だから、これで魔物に食われて野垂れ死ぬっていうならそれまでだ。


 なんて思っていると。


「ブッフォォ……! ブッフォ……! ブッフォォォッ……!」


「ブ、ブッフォンさん!?」


 這いつくばっていた【猟友会(ハンターズ)】のリーダー、ブッフォンが豚のように鼻息を荒くしながら、でっぷりと太った体を左右に揺らして、地虫ワームのように地べたをずりずりと這いずりはじめた。

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