鉄と風

@riku2000

鉄と風

無機質な鉄の塊が目の前に置かれた。


わたしは思わず時計に目をやろうと頭を動かしてしまった。


誰にも気づかれないほどの小さな音でアラームが鳴る。



「これ、どうにかならないの?」



遠くに見えるクラムチャウダーの入った鍋を思い切りひっくり返したくなる。


でも、またアラームが鳴ることを想像して、わたしの手は素早く動きを止めた。


この怒りでクラムチャウダーさえ沸騰させられそうだ。



「鉄って、痛いくらいに体を押し付けたらどうなると思う?」



ねじ込むように、強く。


鈍い痛みが皮膚の上で踊り始めた。



「もし僕が鉄だったら、じっとそのまま冷たい風に撫でられたいんだ」



彼はそう言ってたっけ。


わたしは暖かい風になってあげられるのに。

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