ケリーの章 ⑯ 待ちわびていたプロポーズ
翌朝9時―
朝食を食べ終えたヨハン先生は上着を着込むと言った。
「それじゃケリー。僕は出かけてくるからね。ローラさんによろしく伝えておいてくれるかい?」
「はい。それでヨハン先生…今日は一体…」
けれど、私はそこで言葉を飲み込む。ヨハン先生が何処で何をしてくるかなんて尋ねる権利は私にはないのだから。
「どうかしたのかい?」
私が途中で言葉を切ってしまったからだろうか。ヨハン先生が首をかしげた。
「い、いえ。何でもありません。それでは行ってらっしゃいませ」
「うん、行ってきます」
ヨハン先生は笑顔で出て行った。
パタン…
扉が閉ざされ、1人きりになってしまった私はため息をつくと洗濯をする為に中庭へと出た―。
****
青空のもと、洗濯を干しているとローラさんが一番下のアメリアを連れてやってきた。手には大きなバスケットを下げている。
「ケリー。遊びに来たわよ」
ローラさんが手を大きく振った。
「こんにちは。ローラさん」
「ケリーお姉ちゃん。こんにちは」
アメリアが飛びついてきた。
「いらっしゃい、アメリア」
アメリアの頭を撫でながら、ローラさんを見た。
「すごい荷物ですね」
「フフフ…今日は腕によりをかけて御馳走を作ってきたのよ?オリバーが食べたがっていたけど、あげなかったわ。だってこの料理はケリーの為に用意してきたんだから」
「ローラさん…」
ローラさんの優しい言葉に胸が熱くなった。アゼリア様が私にとってお姉さん的存在ならローラさんはまるで私のお母さんみたいな存在だ。アゼリア様を失ってしまった私の心の隙間を埋めてくれたのは、まさにローラさんと言っても過言ではなかった。
「ありがとうございます、丁度洗濯物を干し終えたところなので中に入りませんか?お湯を沸かしますのでお茶にしましょう」
「ええ、そうね。ケリーの淹れてくれるお茶は美味しいから好きだわ」
「私も好きー」
ローラさんの真似をするかのようにアメリアも言った。
****
「このお茶、ピンク色で綺麗だね〜」
アメリアがローズヒップティーを飲みながら笑みを浮かべた。
「ええ、綺麗でしょう?アゼリア様もこのハーブティーが大好きだったのよ?」
ローラさんがアメリアに教える。
「ねぇ、私の名前ってそのアゼリア様って人の名前に似せてパパがつけたんだよね?」
アメリアがローラさんに尋ねる。
「ええ、そうよ。アゼリア様はね、パパにとって大切な妹の様な存在だったの。それでアメリアって名前を貴女に付けたのよ」
ローラさんがアメリアに名前の由来を説明している。
「アメリアも今年4歳になるのだものね?後2年もすれば上のお姉ちゃんやお兄ちゃんたちみたいに小学校へ行くようになるわね。学校へ行ったらお勉強頑張るのよ?」
私は貧しくて小学校を途中でやめてしまった。あまり文字も読めず、計算も苦手だった私に勉強を教えてくれたのは他でもない、アゼリア様だった。
「そう言えば、ケリー。看護婦になる為に勉強していたでしょう?今も頑張っているの?」
不意にローラさんが尋ねてきた。
「あ…そ、それは…」
私は言葉をつまらせた。そう、私はもっともっとヨハン先生の役に立ちたくて…看護学校入学を目指し、密かに勉強をしていたのだ。けれど…ヨハン先生は私を…。
気づけば目頭が熱くなっていた。
「ど、どうしたの?ケリーお姉ちゃん!」
アメリアが驚いて私を見上げた。
「ケリー。やっぱりヨハン先生と…何かあったのね?話してくれるわよね?」
ローラさんがじっと私を見つめてきた―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます