第18話 ボクたちの年末年始(後)
1月4日。
須藤家一同が春日家にやってきた。
初めてのことだ。
昨年末、おばあちゃんが須藤家のご両親と電話で話した結果、この新年顔合わせ会が実現したらしい。
彼方は別として、初めてうちを見たご両親と日向お姉ちゃんはなんだか呆然としているみたいで、ボクが迎えに出たら3人がうちの門の前で口を開いて立っていた。
ボクも少しだけおめかしして彼方たちをお出迎えしている。3が日よりもおめかしに気合が入ってるのは内緒だ。
「明けましておめでとうございます。ご足労頂いてありがとうございます。こちらへどうぞ。」
おすましして挨拶し、玄関から庭を横切って家へ向かって先導していると、後ろから須藤家のみなさんがこそこそ話す声が聞こえてきた。
「彼方、あんた、双葉ちゃんのお家って、こんな・・・。」
「母さんには何度も説明したのに信じなかったんじゃねーかよ。」
「たまげたなあ・・・。」
「お父さん、きょろきょろしないで。ちょっと恥ずかしい。」
須藤さんちの反応は、3が日の間の来客たちと比べると、とっても心が休まる。
ちょっと笑っちゃいそうになるけど、失礼だから我慢我慢。
おすましモードのまま、正式なお客様をお迎えするための応接間へご案内する。
「すぐに祖父と祖母を呼んできますね。」
お手伝いさんがお茶を持ってきたのと入れ違いで2人を呼びに行く。
須藤家は予定していた時間通りにやってきたので、2人も準備はできていて、1分もお待たせさせずに応接間に集まった。
「明けましておめでとうございます。初めまして。」
おじいちゃんからのお正月の挨拶から始まって、自己紹介が行われる。
パパとママはタブレットからリモートで参加だ。
ボクと彼方はそれぞれの家族に会ってるけど、お互いの家族が会うのはこれが初めてなので、緊張するような、家族ぐるみのお付き合いになって嬉しいような、なんとも言えない気持ちだ。彼方とのお付き合いが正式なものになったみたいで嬉しい、の割合が大きいかも。
自己紹介が落ち着いたあたりでおばあちゃんが話し出す。
「今日お集り頂いたのは、彼方君とうちの双葉が正式にお付き合いを始めたとのことなので、顔合わせの意味が大きいのですが、須藤さんからご相談も少しあられるということでしたので、そちらからお話ししましょうか。」
「は、はい。先日、彼方が双葉さんから頂いたクリスマスプレゼントについてでして。」
え。
ま、まさか「双葉使用券」がバレた?!
慌てて彼方を見ると、真剣な顔でボクの顔を見ていて、目が合うと無言で頷いた。
えええ!
こ、この場でアレを発表されるの?!
む、無理ぃ!!
「こちらの、婚姻届につきまして、彼方から相談を受けまして。」
あ、ああー!
そっちかあ!
「彼方が言うには、好きな時に出していいと言われた、とのことですが、彼方と私たちは悩んだうえで、春日家の方で保管して頂けないかと考えています。」
おじいちゃんとパパは驚いてたみたいだけど、ママは「ひゅーひゅー」とか言ってる。ちょっと恥ずかしい。
「その書類は私が双葉から相談を受けて押印したので承知していますが、彼方君のことは信頼していますし、決意表明的な意味合いで考えていました。まあ、時代によっては結納だ婚約だという話になるんでしょうが、もうそういう時代ではありませんので、本人たちに任せるつもりでいます。」
「はい。彼方も私たちも、同じような認識です。ただ、彼方は、もう少し真面目にこれと向き合うことにしたみたいなんです。」
ん?どういうことだろ? 年齢的にまだ提出は無理だよね? だからうちに預けるの? なんで?
彼方のお父さんから彼方に目線でバトンタッチして、彼方が話しはじめる。
「俺、いや僕は、双葉さんと結婚するつもりでいます。将来のことをお約束できる年齢でも立場でもありませんが、必ず、2人で幸せになります。この書類には僕の側の分も記入して、父に頼んで印鑑も押しました。これを春日家の方たちに預かって頂いて、僕の決意を知って頂きたいと思いました。」
彼方の真剣な顔が見える、声が、聞こえる。
意味が徐々に頭に伝わって来て、ボクの胸が熱くなって、心が震える。
彼方は立ち上がって、深く頭を下げた。
「双葉さんを、俺に下さい!」
涙が溢れてくる。
あ、ああ、かなた、かなたぁ。
足が震えてる。彼方に飛びつきたいけど、立てないよ・・・。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
顔を両手で押さえて泣き顔を隠す。
「・・・彼方君、腰を下ろしたまえ。」
ちょっと呆然としていたおじいちゃんが再起動して彼方を座らせる。
おじいちゃんは、おばあちゃんに確認を取った。
「正直、話についていけてないんだが、双葉がクリスマスに記入済みの婚姻届を彼方君に贈って、今回、彼方君が自分の分を記入して、私たちに預けに来た、という理解で合ってるかな?」
「ええ、そうみたいですね。」
「そうか・・・。」
おじいちゃんはゆっくりとソファの背もたれに体を預け、目を閉じた。
パパがタブレットから何か喚きだしたが、すぐに音が途切れた。ママが音声をミュートにしたらしい。ナイスママ。
「それでは、この書類は私が預からせていただきますね。」
「お、おい。」
何気なく書類を受け取ったおばあちゃんに、おじいちゃんが声を掛ける。
「大丈夫ですよ。私と双葉の目を信じてくださいな。」
「う、うむ・・・。」
やっぱりおばあちゃんには逆らえないんだなあ。
須藤家のほうにも、春日家の権力者が誰か、もう分かっちゃったろうな。
おばあちゃんは、彼方にいつもと変わらない優しい声で話しかける。
「彼方君、双葉とのこと、真面目に考えてくれてありがとう。ちょっとアレな子だけど、私たちの大切な孫娘なの。彼方君にも、末永く大切にしてもらえたら嬉しいわ。」
アレってなんだろう・・・。
「はい! 全力で大切にします! 今後もいろいろ教えてください!」
彼方が座ったまま、頭を下げる。
彼方に大切にしてもらえるなら、もうアレでもいいや・・・。
おばあちゃんは手をポンと叩いて、上品に笑いながら締めくくった。
「じゃあ、少し落ち着くために、当事者2人はふたりきりにしてあげましょう。大人同士でのつもるお話しもあるしね。日向さんもおばあちゃんの話し相手になってくださる?」
「は、はい!」
なんだろう、おばあちゃんと日向お姉ちゃんはすごく気が合いそうな気がする・・・。いいことのはずなのに、「混ぜるな危険」って言葉が浮かぶのはどうしてだろうか・・・。
それはともかく。
「あの・・・彼方・・・離れ、行こ?」
彼方の近くに行って、袖を軽く引っ張る。
さっきの感激の余韻がまだ残ってるからちょっと恥ずかしい。
「お、おう。」
ミュートが解除されて騒ぎだしたパパときゃーきゃー言ってるママの声を後ろに聞きながら、ボクたちは、2人で離れに向かった。
離れに着いたらドアをきっちりと閉めて鍵もかけた。(大事)
ここまで、彼方と会話は無い。
いつものソファに2人で腰を下ろし、ボクは彼方の腕にしがみついた。
「彼方・・・。」
声を掛けると、ボクの方を向き、肩を掴んで目を見ながら真剣に言われた。
「双葉、俺と結婚してくれ。」
「うん・・・。嬉しい・・・。」
ボクは彼方の胸に顔を押し付ける。
「将来、指輪を買ったらまた言うから。」
「うん・・・。うん・・・。」
ボクの顔を両手で挟んで優しく持ち上げ、触れるようなキスをされた。
気持ちが溢れて、そんなのじゃ我慢できなかったから、ぐいっと押し付けて舌を入れた。
ボクたちは、また長い長い時間をかけてキスをした。
翌日また、顎が筋肉痛になった。
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