第15話 俺たちのクリスマス(後)


 12月24日。クリスマスイブ。

 学校は本日終業式で、担任の説明が終わって解散となった後、クラスの一部の連中は遊びに行くらしく、騒がしく下校していった。

 俺たち5人組は冬休みに遊ぶ約束はしているが、今日は大人しくそのまま下校である。

 俺と双葉はこの後、夕飯までの短い時間だけ、春日家で2人だけのクリスマス会だ。

 まあ明日から休みなのでほぼ毎日会うんだが、それはそれ、ってやつだ。

 今日も2人で手を繋いでの帰り路。

 手には少しだけコンビニで買った飲み物と菓子類。


「有川さんたちと約束とか無かったのか?」


「うん。今日と明日は遠慮してもらった。言ってた通り、明後日は一緒に遊ぶけどね。彼方たちも井上君たちと集まるんでしょ?」


「ああ、その予定だよ。」


「・・・彼方が泊っていけたらいいのになあ。」


「そうしたいのはやまやまだけど、さすがにまだ無理だよ。」


「早く大人になりたいね。」


「そうだなあ。」


 そんなことを話しながら離れへ着いた俺たちは、簡単にクリスマス会の準備にかかる。

 まあジュースを注いで菓子を広げるだけだ。

 いつものソファに隣り合わせで座り、グラスを軽くぶつけあう。


「かんぱーい。」


「メリークリスマース!」


 グラスに口を付けて炭酸飲料で口を湿らせ、クラッカーを鳴らす。

 手を伸ばし、両手で双葉の頬を軽く挟み、口づける。


「かなたぁ♡」


「双葉、愛してる。」


「ボクもぉ♡」


 何度も互いにキスを交わす。

 ついばむやつを数回して、濃厚なやつを挟み、またついばむやつ。

 これだけで、あっという間に時間が溶けていく。こないだ2時間近くずうっとキスしてたせいで、舌の根元が筋肉痛になるという稀有な体験をしたばかりだ。

 大好きな彼女とのキスってのはヤバい習慣性がある。

 今日もたっぷりねっぷりキスをした。双葉の顔が上気して、目が潤んでしまっている。

 しまった。

 気分が高まり過ぎてやりすぎた。


「・・・しよ?」


「・・・我慢する。」


「えー。」


 唇を尖らせる双葉の耳元に顔を近づけて囁く。


「明日までお預けだ。いい子で待てるだろう?」


「・・・はぁい・・・///。」


 こういう言い方で少し強めに言われるのが双葉の弱点だとだんだん分かってきた。

 さんざんクソ恥ずかしいセリフを言わされたからな・・・。その後のご褒美が素敵すぎて言われるままにやっちゃうんだが。

 セリフの恥ずかしさと双葉のとろんとした表情で、俺の羞恥心と自制心にものすごいダメージを受けるのにもだんだん慣れてきた。


 ふにゃふにゃになって俺にしがみついている双葉を剥がさないように注意しながら、足元に置いておいた鞄から包装された細長い箱を取り出す。


「双葉、これ。」


「あ、プレゼント? ありがとう! なんだろ、ぬいぐるみじゃなさそう?」


「ああ、恋人になって初めてのクリスマスだからな、ちょっとカッコつけてみた。」


「えへへ。ね、開けていい?」


「もちろん。」


 丁寧に包装紙を破らないように開けて畳む、双葉の気持ちがじんわりと嬉しい。


「わあ・・・!」


「気に入るといいんだけど。」


 シルバーの細いチェーンに、同じくシルバーで親指の爪くらいの、水滴を象ったペンダントトップ。

 ペンダントトップの雫の形は輪郭だけで、雫の中の先端辺りにきらきらした小さな青い石が控えめに光っている。

 「芽を出した双葉を育む慈雨」をイメージした、などというクソ恥ずかしい選択理由は墓までもっていく所存。


「・・・。」


 無言でアクセサリを光にかざし、見つめる双葉。

 表情を見る限り、気に入ってくれたみたいだ。


「着けるよ。ちょっと貸して、向こう向いて?」


「・・・うん・・・。」


 双葉から受け取り、向こうを向いてもらう。

 少し伸びた髪をかき上げて押さえるしぐさが色っぽい。

 留め具が細くて着けにくかったけど、なんとか手間取らずに着けることができた。

 そのまま後ろからハグする。


「想像してた通り、似合ってる。」


「・・・かわいい・・・雫のかたち・・・。」


 少し目が潤んだ双葉がそっとアクセサリに触れる。


「宝物ができちゃった・・・。ありがとう、彼方・・・。」


「どういたしまして。」


 もう一度、俺たちはキスをした。

 唇を離し、俺の心臓を鷲掴みにするような、満面の可愛い笑顔で、双葉は俺に囁いた。


「この雫のお水で、双葉を綺麗に咲かせてね・・・?」


 あれ、墓場まで持っていく秘密、もうバレてる・・・?

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