第13話 俺たちの恋人生活


 あの初キス乱打翌日の土曜日は一生忘れられない日になった。

 あの日の出来事については、いろいろ恥ずかしいから音声のみのダイジェストでお送りする。



~回想再生~



「・・・このシャチ、こんな形だったっけ?」


「・・・彼方のせいだから。その子に謝って?」


「お、おう、ごめん?」



~~~



「本当は今日、俺からキスするつもりだったんだぞ? 壁ドンしようかとか、雰囲気作りとかいろいろ考えてたのになー。」


「・・・彼方が悪いんだもん。あんなに、ぎゅって何回もされたら、我慢できるわけないもん。」


「・・・バカ。無防備過ぎるぞ。俺だから我慢できてたけど、他の男だったらひどい目にあってたぞ?」


「彼方以外にあんなことしないし、させないし。・・・彼方だったら、どこ見られても、触られても平気だし・・・。」


「・・・おまえぇ、もうほんと、今日は覚悟しろよ・・・!」


「・・・うん。いつでも、かかってきやがれ・・・。」



~~~



「・・・双葉、きつくないか? 大丈夫か?」


「うん・・・かなた・・・かなた・・・かなたぁ・・・♡」



~~~



「・・・彼方、復唱して。」


「・・・なんて?」


「『隠すなよ、俺のお姫様』。はい、りぴーと あふたー みー。」


「隠スナヨ、俺ノオ姫サマ?」


「ちゃんとやって!」


「えぇ・・・。『隠すなよ、俺のお姫様』。」


「・・・はい・・・///。」


「フ、フオォォォォォ!」


「あん♡、かなたぁ・・・♡」




~回想終了~




 そういう訳で、俺たちはもうたちまちソレに夢中になった。

 離れに居る時、服を着ている時間の方が少ない、と言えば分かってもらえるだろうか。

 平日休日、変わりなく、時間が許す限り、俺たちは愛し合った。

 貪りあった。ただれまくった。


 そうしていたら当然、赤ちゃんを遠慮するアレがあっという間に無くなった。

 具体的には、俺が買っていた10枚入りが初日の土曜日に無くなった。

 すぐに買い足したが、俺の小遣いは翌週にあっという間に底をついた。


「あーその。双葉さん、それは?」


「えっと、通販で買っちゃった。えへ。」


 俺たちの前には、にやりマークの段ボール箱が置かれていた。

 このにやりマークの箱でおなじみの通販は「この箱の中身がこれ?!」と言いたくなるスカスカの包装が多いと両親はぼやいていたが、俺たちの目の前にある段ボール箱の中身は「0.02mm」と書かれた小箱がみっちりと詰まっていた。

 ちょっと双葉さんを問い詰めたいところではあったが、総体でみれば「ひゃっほーい」の一言であった。

 俺たちはものすごく愛し合った。


 そうして俺たちの9月は過ぎて10月になり・・・これも当然のことだが、俺たちの中間試験の成績は、過去最低となった。



 実際のところ、うちの両親も双葉のおばあちゃんも、俺たちを叱ったりはしなかった。

 だが、「言われる前に直すが華」が須藤家の方針だ。

 ここで油断しようものなら母が何を命じてくるか、まったく予想ができない。


 過去、夏休みの宿題をやらず遊び惚けていた幼い俺を待ち受けていたのは、8月1か月間の母の実家(バスが1日2本のド田舎)への強制連行と、宿題とは別の漢字書き取り、計算問題の山、さらに時間が許す限りの農業無料奉仕、写経、滝行、etc、であった。

 地獄だった。小学校1年の子供にやらせることじゃないと思う。あのフルコースは二度と御免だ。


 俺は冬休みに発生するであろう地獄を回避するため、双葉と話し合った。

 きっと双葉のおばあちゃんも、うちの母と似た方針だ。あの目と圧は間違いない。

 俺たち2人の時間を確保するため、また最高のクリスマスを迎えるためにも、勉学に励まなければならない。

 「我慢するべきだ」「無理」「ちょっとは自重しよう?」「やだ」という愛に溢れたやり取りを経て、「1時間2人で一緒に勉強したら1回OK」というラインを構築した。


 そもそも成績のいい双葉がどこに進学しても良いように勉強を頑張っていたのだ。

 2人で勉強するというのは互いの学力をすり合わせる意味でも都合が良かった。

 俺は色んな意味で頑張った。(意味深)



「彼方、お前ちょっと痩せたか?」


「・・・ジョギングを始めたんだ。」


 噓ではない。

 ハグウィークから俺は毎日走っていた。

 ほとばしる男子中学生のナニカはそう簡単に発散できないのだ。

 最近は父も仕事が早く終わった日には一緒に走るようになった。


「お、運動はじめたのか。もう少し早く始めてくれたら、同じ部活でやり合うのも楽しかったのになー。」


「双葉と過ごす時間が減るから、はなから部活はパス。」


「ちぇー。」


「つーかお前ら、もう付き合ってんの? 最近いちゃいちゃ度合いが増してね?」


「ああ、そういえば言ってなかったか。9月半ばくらいに告白して、正式にな。」


「マジで?! おめっとう!」


「おー、おめー。」


「やっとか。おめ。」


「サンキュ。」


「おめ。あのテストの点数はそれが原因か。」


「ああ、まあなー。ちょっとはしゃぎ過ぎたわ。期末はちょっと気合入れるつもりだよ。」


「中間までの範囲が厳しいならその辺のノート貸そうか? 中間の範囲がきついと期末に差し障るだろう?」


「あ、それマジで助かる。森下のノート見やすいからなー。」


「アホの村田でも分かるように考えてまとめてるからな。」


「いつも助かってまっす!」


「まあ、それも僕のいい復習になってるよ。その範囲はもうまとめてあるから、明日持ってくるよ。」


「マジ助かる。なんか奢るわ。」


「気にすんな。交際開始祝いだ。」


「サンキュー。」


 というような友人の助けも受けながら、必死で頑張った。


 こうして俺たちはどうにか「勉強するといちゃいちゃできる」という習慣を根付かせることに成功し、12月の2学期末テストは過去最高得点をたたき出した。


 俺たちは憂いなく、恋人となって初めての、クリスマスを迎えようとしていた。

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