24話「色々と順調です」
二日連続で深夜まで酒を飲んでしまったが、今回は慌てることもなく落ち着いて起床することが出来た。
昨日ギリギリだったことも意識して、集合時間の30分前にはミサラの元へと足を運んだ。
「陛下、おはようございます」
「うむ、おはよう」
「おはようございます、キース殿」
「き、キース、おはよ」
ミサラの元には、すでにルナとミーシャが集まっていた。
ルナは特に変わりが無いが、やはりミーシャはちょっと声をぎこちなくかけてくる。
やはり、昨日のことをずっと引きずっているということか。
「キース、ちょっとこちらに来てくれるか?」
「は、はい」
書類に目を通していたミサラが、手招きしてこちらに来るように言ってきた。
「毎日こうやって朝は基本的に集まるのが日課なこともあって、あやつらは集合時間よりも何十分も早く来ることはあまりない。ルナは今日、お主を案内する役割があるから張り切っとるのは分かるが、あのミーシャがこんなに早く来てソワソワと落ち着きが無いのは、やっぱり昨日のことが原因なのか?」
「昨日、レックと別れて屋敷に戻ったら置手紙がありまして、ミーシャから謝罪の言葉がありました。私自身は気にしていないのですが、ミーシャは相当気にしているようでして……」
「……そんなに気にすることか? あやつのことがちょっと分からなくなってきたかもしれん」
「あくまでも文面上から感じた内容ですが、私に嫌われてしまったのではないかと不安になっているのかもしれません。……自分の驕りかもしれませんが」
「いや、多分そうだろう。お主が気にしていないのあれば、声をかけてやってくれんか? これまで見てきた中でも、かなり落ち込んでおる思う」
「もちろんそのつもりです。レックとの関係性も気になるところではありますが」
「それは心配いらん。あやつはどんな女とも別れた後はああなる。ほっとけばよい」
ミサラはさらっとレックのことを切り捨てた。
……みんなレックにちょっと冷たいような気がする。
「それと別件だが……。お主が昨日立てた作戦だが、ペルガヤ連邦やトバード公国からすぐに連絡が来た。お主の見立て通り、エルクス王国はあの二国が提示した賠償金が全く払えていないようだ」
「賠償金未払いはやはり、といったところですね。そのことよりも、陛下があの二国に書類をしたためたのが昨日。日を跨がずに返事がきたので、作戦は順調かと思います」
「だな。ルナにもこのことを先に話したが、こちらのことを意識してくれているとお主と同意見であった」
「……エルクス王国との戦争でこの国が優位に立ってから参戦したぐらいですからね。あの二国の動きは、私とルナの予想通りと言ったところでしょうか。もし私やルナがあちらの立場なら、どこの国相手でも即答はしないでしょう。すぐに返事が返ってくるということは、相手の書類の内容を真に受けていると言っているようなものです。仮に返事の内容が決まっているとしても、考えるそぶりくらいは見せます」
「では作戦をこのまま継続し、さっそくあの二国と交渉作業に入ろうと思うが、お主からも問題はないか?」
「はい。どのラインで手を結ぶかは、陛下の国交目線での裁量でよいかと思います。それか、私はまだ皇国の内情をしっかりと把握できていないので、ルナと相談されると良いかと思われます」
「うむ、了解した。ここは我を信頼してもらうとするかの」
ミサラはニコッと笑いながらうなずいた。
相手が相手なら、この辺りの細かい話をしないといけないのだが、ルナやキースが説明しなくてもミサラはほとんど話を理解している。
こう言った駆け引きは、どれだけその状況における最良の手をいかに早く出すことが出来るのかに懸かっている。
当たり前だが、その駆け引きに関わるそれぞれの役割の人物が全て頭の回転が速いければ速いほど良い。
貴族に対して、自分が必死に考えた作戦が理解してもらえなかったり、認めてもらえなかったりして、ひどい結果になった時とは大違いである。
「よし、我が話したかったことは以上だ。ほれ、ミーシャに声をかけてやってくれぃ」
「その前に陛下、私からも一つよろしいでしょうか?」
「うむ、なんだ?」
「陛下に建てていただいた屋敷、とても快適で感謝しております。しかし、一人でいるとどうしても、寂しく感じてしまいまして。……誰かを呼んだりしても良いでしょうか?」
「お主のために建てたものだから、好きにしてもらって構わん。だが、呼ぶ宛てはおるのか?」
「いえ、それはまだ……」
「なんじゃお主、ロアやミーシャと居て落ち着かないといったそぶりを見せていたにもかかわらず、いざ一人になると寂しくなって今の考えに至ったのか?」
「そ、そういうことになりますね」
察しのいいミサラに、完ぺきに心の内を読まれてしまった。
キースがちょっと恥ずかしくなって小さな声で肯定すると、ミサラが楽しそうに笑い始めた。
「なんじゃお主! ロアやミーシャが居なくなって一人で夜に迎えると、急に寂しくなってしまったのか? 可愛らしいところがあるのぉ!」
そして先ほどから居る二人にも聞こえるように、わざと大きな声を上げた。
「へ、陛下! 声が大きすぎますって!」
「いやぁ、ミーシャはもともと我は可愛くて仕方がなかったが、今の話を聞いて、お主のことも可愛いと思ってしまったぞ! 可愛い部下のためなら、我が直々にくっつけるために一肌脱いでやろうではないか!」
「そ、そんなことしなくても私から声をかけますから!」
今のミサラの言葉を受けてミーシャがどんな反応をしているのか、キースは恐る恐る二人の方を見てみた。
ルナはミサラの大きな声にポカーンとしているが、ミーシャはちょっと顔を赤くしながらこちらを見ていた。
キースと目が合うとハッとしたような顔を見せたが、ちょっとだけ笑みを見せてくれた。
「よしよし、これでお主らもより仲が深まったの~! ロアたちが居たら大惨事だったかもしれんが! まぁ、我はお主がミーシャもロアも面倒を見てくれるなら、特例でなんでも認めてやるから、安心していいぞ?」
「……はい」
自ら声をかける予定だったが、まさかの形でミーシャの不安を取り除くことになった。
若干ややこしいことになったような気もするが、どんな言葉をかけようか迷っていたので、複雑な気持ちになりつつも皇帝の配慮に感謝した。
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