貴族に無茶苦茶なことを言われたのでやけくそな行動をしたら、戦争賠償として引き抜かれました。
エパンテリアス
プロローグ 「むしゃくしゃしてやりました」
「何でこうなるんだ!」
小太りの貴族が、金髪の髪をガシガシと乱暴にかきむしった。
更には、別の貴族もやれやれといったようにため息をついている。
そんな様子を見て、キースは心の中でこうつぶやいた。
それはこっちのセリフだよ。
キースのいるエルクス王国は、隣国であり大国のヴォルクス皇国と、1年近く戦争をしている。
勝算など、足し算と昔話を聞ける小さな子供であれば、だれでも分かるくらいには無いものだったのだが。
その戦争を始めたのは、目の前のやつを含む貴族の連中である、ということだ。
最初こそは、まさか戦争を仕掛けられるわけがないと、誰でも思っていたのは同じなのか、皇国もひるんだが、1ヵ月ちょっとで戦況は逆転。
今では、必死に国土を防衛する、と言う状況が続いている。
「どうされます? 先日、皇国と同盟を結んでいるペルガヤ連邦もこちらに宣戦を布告しました。更には、こちらの手段の非道さに反発し、トバード公国も近々皇国に支援に回ると言われていますが」
「うるさい! それもこれも、お前が使えないからだぞ!」
事実を淡々と並べて、今後についての方針についてどうしていくかの話をしたら、一蹴された。
その上で使えない、などと言われた。
……一応、俺が指揮を執った戦闘は、負けていないのだが。
「……申し訳ございません」
とはいえ、何を言っても聞き入れてもらえるわけではない。
一先ずは、頭を下げて謝罪する以外にキースに残された手段はない。
そして、この言葉に望みを託した。
「ただ、もうこれ以上戦争を続けるのは無理かと……。被害状況が日増しに大きくなり、皇国だけが相手でなくなった今、戦争を終える最後のチャンスかと」
「それは我が国に降伏しろと言うのか!?」
「恐れながら、その通りでございます」
「キース、貴様は何を言っているのだ?」
「これ以上人材を失い、国土を失えば、この国が無くなります。まさか、滅ぶまで国民に戦えとでもおっしゃるのですか?」
「当たり前だ! ここで降伏すれば、我々は死刑になるかもしれないではないか! 平民など、我々のようなものために人生をかけるためにあるのだ!」
「……!」
人の発言とは思えないないように、キースは激しい苛立ちを感じた。
この目にいる前のやつらは、眉間にしわを寄せて、冗談ではなく本気で言っている。
「降伏なんてありえませんよ、キース。それにまだ私たちには、”切り札”が残っているではありませんか?」
「……切り札?」
「戦争初期に勝利した際に、捕獲した皇国の兵士たち。あいつらを餌にすれば、さすがの皇国もひるむでしょう?」
「もう我が国は非道であると、多くの国が遺憾の意を示しています。これ以上、戦争相手を増やすおつもりですか!?」
「遺憾の意を示すことは簡単です。でも、実際に戦争に参加するとなれば、大きな労力を伴います。実際には参戦しません」
何を言っているのだろうか。実際のところ、もう2つの国がこちらに宣戦布告してきているというのに。
「そういえば、捕虜にした兵士の中に女どもがいましたな……」
「そうですな。敵国ながら、なかなかに若くて綺麗な身なりをしておりましたな。では、見せしめにその者たちを……」
「おやおや、まだまだ若いですなぁ」
言っていることを聞いて、激しい怒りと不快感による吐き気が襲い掛かってきた。
この状況においても、自分の欲を満たそうとしている。
「キース。今からお前は、収容所から女捕虜を全員ここに連れてこい! そしてそれが終わったらさっさと前線へ行って指揮をとれ! 今度負けて帰ってきたら、命はないと思え!」
「……っ!」
腹立たしさのあまり、返事をせずにそのまま退室した。
足取りも乱暴になり、大理石で反響する音がいつもより大きく鳴り響く。
もう我慢できない。やつらの言う通りにはしない。
キースは激しい怒りで、あることを実行することを心に決めた。
そして、その作戦を実行するために、行動を開始した。
全ては、貴族どもの思い通りに何一つさせまいという一心で。
収容所は、王都中心街から少し離れた位置にある。
戦争初期の数少ない勝利の際に捕獲した皇国の兵士たちを、劣悪な環境で閉じ込めている。
「キース様……」
収容所には、多くの監視兵がいて、こちらに駆け寄ってくる。
「みんな、お疲れ様」
「今日はどうされました……?」
尋ねては来るものの、表情は強張り、何となく想像がついているといった顔をしている。
「貴族たちが女捕虜を連れてこい、とのことだ」
「そんな……」
「もう俺は我慢できない。みんな、協力してくれないか?」
「はい、もちろんです。何でも、命じてください」
監視兵たちすべてが、貴族からすでに心が離れている。
ある程度計算に入れていたが、協力してくれるようだ。
「ありがとう、みんな!」
収容所の中は、お世辞にもいい匂いとは言えない。
戦争が劣勢になり、日増しに捕虜の環境が悪くなっている。
男と女に乱雑に分けられただけで、男たちは何も言わず、女たちはこちらの存在を見ると震えだし、自分の体を腕で抱き寄せた。
この捕虜たちにも、自分たちの身に何が起きるのか予想は付いてしまうのだろう。
「君たちは、このブロックの捕虜たちを、最短ルートの西方から脱出させて。何か聞かれたら、処罰するように言われたと言ってくれ」
「はい!」
「君たちは南ルートでこの者たちを連れて、水路から脱出してくれ。船と操縦者は用意してある。あと、水門に設置されている監視にはもう事情を伝えてある。一緒に合流して、そのまま皇国に逃げ込んでくれ」
「ははっ!」
捕虜が収容されている檻の前で、監視兵たちに役割分担と、事前に布石を打っておいた作戦を伝えていく。
「そして、この女の子たちは、俺が連れて行く。みんな、皇国に着いたら、立場を明かして解放した事実をしっかりと伝えれば、大丈夫だから」
「大丈夫です、キース様。それで皇国に処罰されても、あの貴族どもの命令で死ぬよりはいいです!」
「本当にありがとう、みんな! じゃあ、気を付けて」
「「「はい!」」」
それぞれの方角から、捕虜の開放作戦を開始した。
キースの事前に売っていた置いた策略により、ことごとく監視兵が率いた兵たちは皇国に脱出した。
「あの……。私たちはどうなるのでしょうか……?」
目に光のない少女が、力のない声でキースに尋ねてきた。
綺麗な顔立ちをしているが、捕虜としてすっかり着ている服や髪が汚れてしまっている。
「君たちを皇国に返す。このままだと、君たちは貴族の慰み者になってしまう。それだけはさせない」
国をこんな壊滅的状況にしておいて、さらによく満たさせるようなことは絶対にさせてたまるものか。
あんなデブに従うなど、もうこりごりだ。
敵国の美人を取り逃し、悔しがらせる。
ただ、それだけだ。
キースも監視兵から少し遅れて、女捕虜たちを連行するように見せかける。
周りの人たちが、憐れんだ表情で見つめるが何も言わず、兵士たちも俺に敬礼するだけで特に何も言わない。
そしてある国境付近までやってきた。
人一人幅しかない小さなつり橋で、切り落とすと奈落に落ちてしまう。
そのため、お互いに攻め込むことが出来ないため、防衛する人がほとんどいない。
そして、そのわずかに少ないここの兵士たちも、キースが話をつけている。
「キース様!」
「お疲れ様。相手も、こちらの様子に気が付いたようだ」
こちらの様子に気が付いたつり橋の対岸に、皇国軍が集まってきた。
「まずは捕虜たちを一人ずつゆっくりとあちら側に返す。そして捕虜の安全やスパイ疑惑を払しょく出来たら、君たちもあちら側へ行け」
「キース様はどうされるのですか?」
「俺は残るよ。俺までいなくなったら、貴族たちが何をするか分からない」
「そんな……」
「それなりに責任は取らないといけない立場だ。君たちに罪はない。苦しい時もあるだろうが、頑張ってくれ」
女捕虜の手錠や足かせを外し、一人ずつつり橋を渡ってあちら側へ向かうように伝えた。
「ありがとうございます……」
「あちら側に脱出したら、ここに居る兵士たちもそちらに降伏したいことを伝えてくれ。君たちの言葉で、よりここに居る兵士たちが受け入れられやすくなる」
「分かりました。この御恩、忘れません」
「いや、これはこの国の罪だ。礼を述べる必要はない」
一人ずつ皇国側にわたり、身体チェックなどを受けている。
そして、最後の国境兵士が皇国に迎えられたところを見送って、俺は静かに王都への戻る道を着いた。
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