ep.14 父親と母親

 アタシのパパは東埼銀行でノンキャリアから準役員に上り詰めたという経歴にあり、典型的な成金志向だ。


 確かにその聡明は顔つきに滲み出ていて、これぞロマンス・グレーというような風貌にある。アタシの端正な顔つきは、この父親からの授かり物だろうと思う。


 母親の方は父親とは釣り合わないような見てくれにあるが、特段不細工というわけでもない。ただ、母親は東埼銀行の監査役の娘という身分にあり、政略結婚の匂いが漂ってやまないが、その実は定かではないし、その実を知りたくもない。


 母親は生粋のお嬢様気質にあり、世間を知らないくせに、やたらと礼儀作法にやかましい。はっきりいって、アタシは昔から母親が嫌いだった。


 幼目おさなめにもその在り方はうとまましく映り、日々「こんなズレた女には決してなるまい」という意志を募らせる具合にあった。反面教師というやつだろう。その意志が今のアタシを形成しているといっても過言ではない。


 一人娘にやたらと甘い父親と、自分のエゴをこれでもかというほどに押し付けてくる母親。いずれも過剰であるが故に、本来安らぎの場であるはずの家庭が、アタシにとってそうではなかった。それは、昔も今も大きくは変わらない。


 今回の招集も父親から近況報告を求められてのことだった。仕事で忙しそうにしているアタシを不憫に思っているようで、結婚相手が見つからないのはそのせいだと考えている節がある。


 自分から「社会勉強をしてこい」といって友人が常務を務めているテンザンへアタシを送り出しておきながら、随分と勝手な話である。


 最近は実家に帰る度に見合いの話を持ちかけられる。露骨にうんざりして見せるのだが父親は怯まず、母親は呆れの目を向けてくる。いつになったら落ち着いてくれるのかしら。そんな声が聞こえてきそうな眼差しを。


 そんな両親には、テンザンを辞めたことも、事故物件再生業なる稼業で生計を立てていることも伝えていない。


 幸い、テンザンの常務と父親の間でいさかいがあったようで、現在は疎遠になっているという。その諍いの原因も、「娘の待遇に対する不満」というものであったというから恥ずかしい限りだ。


 今は事故物件再生業という種類の不動産業を営んでいて、日々霊体との示談交渉に精を出している。そんな報告を行おうものなら、両親は卒倒そっとうすること請け合いだろう。

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