第109話 空白


「まず、僕の力で渚さんとそのお婆さんの「未来を変えられる」のか見てみるのでお婆さんのお名前を教えても良いですか?」

「凄いな「未来を変えられる」かもしれないのか、わかった。僕のお婆ちゃんの名前は汐留千鶴って言うよ、これだけで良いのかい?」


 渚にそう確認を取るように言われたので頷いた。


「はい大丈夫です、ただ、本当に「未来が変えられる」かは見てみないとわかりません」

「分かっているさ…ただ、僕は奇跡を……君を信じたい」


 この力は決して万能じゃない、だから慢心はしてはいけない。


「では、行きます……「汐留千鶴さんの未来を見る」………ぐっ、がっーー!?」

「慎二君!?大丈夫かい!」


 いきなり「未来を見る」と言ったら頭を抱えて蹲ってしまったので慎二の事を心配になってしまい側に寄ったが……


「大丈夫…です……ただ………」

「ただ、どうしたんだい?」


 その後の言葉を慎二は言えなかった。


 だって慎二が今見た未来は何も見えなかったのだから、正確に言うなら頭の中で出てきた物はこんな物だった。


{                  }


 今まで何回か使ってきたがこんな事は初めてだった、結菜達に使った時は文字化けの様な物はあったが何かは書かれていた、なのに今回は完全な……空白だった。


 そんな状況に確認したい事があり、渚の未来も見て良いか聞く事にした。


「渚さん……少し…確認したい事が…あるので……ぐっ…渚さんの「未来を見て」も良いですか?」

「別に良いけど……凄い辛そうだよ?一度休憩を挟んだ方が良いんじゃ」


 渚は辛そうにしている慎二にそう伝えたが………


「やらせて下さい……今知りたいんです……」

「分かったよ……無理だったら止めるからね?」

「はい」


 慎二の真剣な表情に根負けして、慎二の判断で任せる事にした。


「……「汐留渚さんの………未来を見る……とタイムカプセルがある場所」!……ぐっ………がっーー!……がはっ!」


 慎二はそう叫ぶと目を押さえながらその場で倒れてしまった。


「慎二君!?……目が!」


 渚が起こすと慎二の目から血が流れている状態だった為、ポケットに入れていたハンカチで目を押さえてあげた。


「慎二君、本当に大丈夫なのかい?流石に目から血が出る行為なんて正気じゃない、そんな辛い思いを君がするぐらいならやめてくれ!君が傷つくのを目の前で見ていたくないよ……」

「はぁ…はぁ…大丈夫ですよ……見れる物は今見てしまったので………」

「分かったよ、でも今は安静にしてくれよ?」

「はい」





 それから慎二が落ち着くまで少し待っていた、慎二の目から出ていた血は止まったが、未だに頭が痛いのか苦しんでいる姿を見て渚は申し訳ない思いで一杯だった。


「慎二君ごめん、君がこんな風になるとは知らずに無理をさせてしまったね……やっぱり人の力を超えたものは体を駄目にするんだな……未来を見る行為なんて人の出来る範疇を超えてるもんね………」


 渚は慎二に聞かせるように話していた。


 それから10分程経ちようやく慎二も喋れるようになりさっき見た内容を話す事にした。


「まず最初に……渚さんとお婆さんの未来は見えませんでした………」

「………それは、どう言う事なのかな?」

「はい、それは……」


 慎二はそう前置きをして自分が見た内容と何故見えないのかの仮説を話した。


 普通の人を対象にすれば「真実の目」は使える、でもそれには例外がある、その見る対象が「亡くなっているまたはもう時期亡くなる」対象は見えない事がわかった、渚とそのお婆さんは長く生きられないと言っていた為、残酷な事だが亡くなる=未来がないと言う事になり空白の状態しか見えなかった事を伝えた。


「………という事だと思います。それに渚さんの力が使えなくなったのも、使えないでは無くもう役目を果たしたからその力そのものが無くなってしまったのでは無いかと思います」

「そうなのか……だから使えなくなってしまったんだね……それに知っていた事だけど、直接亡くなると言われると来るものはあるな……受け入れていたつもりなんだけどね………」


 渚はそういうと、少し悲しいというか、悔しそうな顔をしていた。


「渚さん達を救えないかもしれない、でも、幸せな最後を迎える事ぐらいは出来る……一応渚さんのお婆さんの手紙がある場所もさっき一緒に見てみたら何処にあるかわかりました」

「本当かい!?」


 慎二の話を聞いた渚は何処なのか聞きたくて慎二の顔を見たが、とても言い難そうな顔をしていた。


「場所は卯辰山公園、石川県金沢市卯辰山山麓に広がる公園です……でもその場はかなり前に土の入れ替えをしている為、タイムカプセルは地層深く埋まっているようです、なので場所はわかるけど、どうやって掘り探すのかわからない状態なんです……」

「そんな………」


 慎二の話を聞いた渚はそんなの無理じゃないかと項垂れてしまった。


(無理だ…これは無理だ……でも諦めたくない…何か何か無いか……1人じゃあこんなの何も出来ない、大きな力を使わないと……一応力を貸してくれそうな人達はいるけど……)


 慎二は渚の様子を見てこんな終わり方で言いわけが無いと頭の中で今出来る事をフルスピードで考え始めた……行き着いた先はある人物に頼んで掘り起こしてもらう事だ、やってもらえるかわからない、でも見つかればこちらのものだ。


「渚さん、まだ諦める時ではありませんよ」

「でも……もうそんなの無理に決まってるじゃ無いか!だってタイムカプセルは地層深くに埋まってるんでしょ?そんなの掘れるわけないよ………」


 渚のこんな姿は初めて見た、会ってそんなに時間は経っていないが本当にこの状況に絶望しているのがわかった、それとともにそれ程までにお婆さんを想っている事が分かった。


「いえ…僕ならやれる……僕達ならやれる、それに伝手ならあります」

「………本当かい?」

「本当です!ただ、渚さんのお婆さんが今どういう状態かわかりませんので教えて頂けると助かります」

「わかった、君を信じるよ………」


 そう言って渚が教えてくれたのは、あと1日、2日がお婆さんの峠だと言う、でもそれまでに見つけられればいい。


 ギリギリだけど……未だ間に合う、最後まで足掻いてやる!


「でも、どうして君はそこまで、傷付いてまで僕達を助けようとするんだい?僕達はまだあって浅い関係なのに、なのに君は……「僕は……」」


 渚がその言葉を慎二に言った時、言葉を被せるように慎二も話しだした。


「………僕は出会った時間なんて関係無いと思います、その人を助けたいと思ったから僕は助ける、だって「人助」が僕の生き甲斐なんだから……」

「君は………」


 渚は何かを言おうとしたが、何を言っても慎二は変わらないだろうと思い、首を振るだけで何も言わない事にした。


「それにこの世に届かなくていい手紙なんて無いんですよ。今は電子機器が開発されてなんでもスマホ一台あれば大体のことが出来てしまう……そんな中、昔の人は手紙に自分の想いを書き、それが相手に届くのを待ち望んでいる、ならば僕は諦めない。絶対に届けてみせる」


 慎二はそう言うとこれからの事を渚に話して一旦別れる事にした、連絡先も交換した為いつでも連絡は出来る、慎二は完全に雄二達から来ていたメッセージを無視していたので、それらに連絡を入れて合流する事に決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る