第53話 閑話 高校とバカと同居と②



「ちょっ!頭をあげて下さい!僕は当然の事をしたまでで、そんな事しなくて良いですから!」


 慎二がそう言うと、渋々だが2人共頭を上げてくれた。


「前田君がそう言うなら……」

「慎二君はねこういう子なんだよ?人を助けるのが当たり前だと思っているからお父さん達もあんまり大袈裟に捉えないであげて欲しいの」


 由比ヶ浜先生の言葉に同意する様に慎二も頷いていた。


「ですね、由比ヶ浜先生の言う通りなんで普通に接して下さい」


 由比ヶ浜先生の御両親も納得してくれたみたいだし、お礼も言われたからもう帰ってもいいかな?


 慎二がそう思っていた時、誠司さんから申し訳なさそうに話しかけられた。


「前田君、今回色々助けて貰った手前言いづらいのだけど、君に頼みたい事があるんだよ」

「頼み事ですか?内容にもよりますが僕が出来る範囲なら受けますが」

「その……」


 誠司は言いづらいことなのか少し言い淀んでいた。


「何を言い淀んでるのあなた?早く言いなさい!」


 そんな口籠っている、夫、誠司にキツイ言葉を浴びせる妻、千尋。


 千尋さん、ポワポワしてる人だと思ったら以外と怖い人なのかも……怒られない様気を付けないと……


 そんな事を思う中、千尋に「早く言いなさい!」と言われ急かされたからかようやく内容を教えてくれた。


「千夏の事なんだがね、婚約をしたいと言ってくる人間が沢山いてね、私達は出来れば自分が好きになった人とお付き合い、もしくは結婚してもらいたいと思ってる…が……今回の様に千夏目的で強引に非道な行いをしてくる人間もいるとわかったんだよ」

「まぁ、人それぞれ全員が良い人だとは限らないですからね、今回の「田村亮二」の件が良い例でしたね」


 慎二の口から「田村亮二」と聞くと誠司と千尋の2人は疲れた様な表情になってしまった。


「そうなんだよ、そんな時千夏を守ってくれる人で信頼をおける人間がいないかと思っていた中……君が出て来たんだよ、前田君!」


 慎二にはその発言で少し雲行きが怪しくなってきた様に感じた。


「えぇ!?僕ですか?今回は助けましたが、僕はただの学生に過ぎませんよ?」


 うっ、なんか嫌な予感がして来たよ。 


「それでも君は身を挺してまで千夏を守ってくれた、だから仮でも良いから前田君が婚約者になってくれるとありがたい」

「婚約者!?それこそ学生の僕には荷が重いですよ……」


 やっぱり変な流れになっちゃったよ、どう断ろうか……


 どう穏便に断るか考えていた慎二に千尋も頼んできた。


「お願い前田君…娘を……千夏ちゃんをどうか守ってあげて欲しいのよ、先ずは仮で良いから」


 ………今「まず」はって言わなかった?


「えっと、本当に仮の婚約なんですか?今変な言葉が聞こえたような……」

「仮の婚約よ?」

「ああ、当然だ、君はまだ学生だから婚約なんて早いだろう?」


 2人は真顔で頷いていた。


「まあ、そうですね、でも……」

「そこを何とか、どうか頼めないだろうか!」

「前田君、私からもお願いします!」


 誠司がそう言うと今度は両親2人して土下座までして来た。


「わあっー!土下座もしないで下さい!考えますから!」


 土下座はやめて貰ったけど婚約か……まあ仮ならいいかな?助けると思って承諾するか。


 そんな軽い気持ちで婚約の件を引き受ける事にした。


「婚約の件僕がやりますよ、また変な人に由比ヶ浜先生が付き纏われても困るので」

「本当か!?……ありがとう前田君!いや、良かったよ、断られたらどうしようか思ってたからね、千夏を守ってやってくれ」

「仮でも婚約者なんですから守るぐらいはしますよ」


 慎二が婚約者の件を引き受けて今後の話を聞こうと思っていたら……慎二の耳に聞こえてきた千夏と千尋のおかしな会話に違和感を持ってしまった。


「千夏ちゃん良かったわね!これで前田君と結婚出来るわよ!」

「お母さんありがとう!私幸せになるよ、そして沢山の子供も産むからね!」

「孫の顔は見たいけど、まだ気が早いでしょ?先ずは結婚式場を決めないと!」

「そうだった!でも着る物はどうしよう……日本人なら白無垢も良いけど、ウェディングドレスも良いんだよね〜」


 いや、2人して何の話してるのさ!仮の婚約の話なのに何処から結婚なんて出て来たのさ!?


 慎二がおかしい親子の会話に抗議を入れようとした時、誠司から千夏達に「落ち着け」という言葉が投げかけられた。


 指摘をしてくれると思ったら……


「お前達、今は前田君がいるんだからそういう話は後にしなさい!私もその時は混ざるから」


 違ーう!そこを止めて欲しいんじゃない!会話を止めて欲しいんだよ!?それに何後で変な会話に混ざろうとしてるのさ!止めなくちゃ!


「いや…ちょっと待って……」

「よし、これからの話をしようか!」

「いや…だから……」

「さあ、時間もかなり過ぎたし次の話に行くわよ!」

「その………」

「慎二君?所でさもう婚約もしたんだから私の事、名前で呼んでよ!ほら言ってみて!サンハイ、ち・な・つ!」

「‥‥‥‥」


 誰も聞いてくれねぇー!?それに今は由比ヶ浜先生の名前呼びなんてどうでもいいよ!


 慎二が抗議しようとしても誰も聞いてくれない為諦める事にした。


「………私の名前は?ねぇ言ってよ?」

「‥‥‥‥」

「早く!」

「………千夏さん……」

「やったーーー!慎二君が私の名前呼んでくれたー!」

「そうですね、良かったですね」


 なんかもうどうでも良くなって来たよ、、


 名前呼びが嬉しかったのか興奮してしまった由比ヶ浜先生改め千夏さんが落ち着くまで待った後、誠司さんがこの後の話をしてくれる事になった。


「前田君、今後の流れなんだけどね、千夏との婚約は高校卒業までの3年間をお願いしたいと思っているよ」


 3年間か……まあ別に期間はいいか。


「わかりました、その3年間が過ぎたらどうすれば良いですか?」

「君の好きな様にすれば良いさ、千夏の事を好きになったなら本当に付き合えば良いし」

「まあ、先の事なんで……考えときます」

「考えないで今すぐに……」

「ほら千夏ちゃん!慌てないの!」

「うん、ごめんなさい」


 うんうん、これが普通の親子の会話だよね!さっきが少し異常だっただけだよね!


 流石にもう終わりでしょと思い立ち上がろうとしたが、誠司さんから「後一つだけあるから聞いて欲しい」と言われたので聞いてみる事にした。


「婚約の事は今話した事で全部なんだけど、千夏が住む場所をどうするか決めているんだよ」

「ん?このマンションにそのまま住めば良いのではないのですか?」

「ここだと婚約の話を持ち込んで来た男達が居場所を調べて、またいつか「田村亮二」みたいな男が現れるかも知れないから何処かに住む場所を移したいと思ってるんだよ」


 なるほどね、ここに千夏さんが住んでるのを特定されている可能性があるからか。


「なるほど、新しく住む場所の目星は付いてるのですか?」


 そんな事を言ったら3人共慎二の方に顔を向けて来た。


「………なんで僕の顔見てるんですか?」


 別に僕は変な事言ってないよね?


 慎二がどうしたのだろうか?と思っていたら由比ヶ浜家の皆さん方から衝撃な事を伝えられる事になる。


「前田君、君は今1人暮らしと聞く、そこで折り入ってお願いしたい事があるんだ」

「まあ、1人暮らしですけど……何を僕がやれば………まさか!」


 待って、待ってよ!婚約と来て千夏さんが住む場所を移す……それに僕が一人暮らしか確かめて来た…同居するとか?……無いな。


 そう慎二は考えたが現実は残酷だった。


「多分今前田君が薄々考えているだろう事で合ってると思うよ?」

「え?ちょっと何を言ってるか……」

「千夏を君の家で住まわして欲しい……言い方を変えれば同居して欲しい」

「いや、それは流石に無理でしょ!?大事な娘さんが男と一緒に住むんですよ!」


 これは本当に無理だよ!一緒に住んだとして世間の目が絶対キツい!


「前田君…いや慎二君……君になら娘を任せられる」

「慎二君お願いよ、千夏ちゃんと一緒に住んであげて欲しいの!」


 なんか名前呼びになった上にまた頭下げて来てるんだけど……今回ばかりはちょっと……


「慎二君お願いします!私を貴方の家に住まわせて下さい、家事とか得意なのでなんでもやるから!」


 真剣な表情で千夏も慎二に伝えて来た。


「ちょっと……これは考えさせて下さい」

「時間はある、ゆっくりと考えてくれ」


 時間があると言われても……千夏さんを守る為別に何も疚しい気持ちとかは無いから僕は大丈夫だけど、何も多分起きないと思うけど……クラスメイトとか知り合いにバレたらヤバイよ!


 と、色々頭の中では考えているが、また由比ヶ浜先生を狙ってくる輩も現れる可能性がある為仕方なく承諾する事にした。


「わかりましたよ!住んで良いですよ!ただし千夏さんと一緒に住んで世間とかに何か言われる様な事があったらお願いしますよ!」

「そこは任してくれ!根回しはしとくよ」


 誠司がそう言ってくれたので信じる事にしてみた、そんな中また母娘は何やら盛り上がっていた。


「良かったわね千夏ちゃん!念願の彼との生活が出来るわよ?」

「うん、本当に良かったよ!これから色々と頑張らなくちゃ!」

「そうよ?慎二君は恐らく草食系?とかいう人だから千夏ちゃんが既成事実でも作って逃さない様にするのよ?」

「う、うん、恥ずかしいけど夜のお相手も頑張ってみるよ!」


 なんかまた規制されそうな事言ってるんだけど、、流石に冗談だよね?もうツッコまないからね?


 念の為誠司さんの顔を見てみたら、苦笑いで返されてしまった。


「‥‥‥‥」 


 何その苦笑いは……まあ僕が気をつければ良いだけだよね?今後の僕がどうにかしてくれるか……


 慎二は同居生活を今後の自分に丸投げして考えるのを辞めた、結局自分がどうにかしなくてはいけないのに。

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