チート無し転生ですが生き残れますか?
宮原陽暉
序章 神と遭遇しました
いきなり神の前に召喚されました。
神は言う。
まあ、驚くのはわかるけれど、まず話を聞いて。
頭の中で声がする。おそらく目の前の神が発したものであろう。
有無を言わさず、話が始まった。
聖神と魔神が管理する世界。
聖神は、聖人族に、魔神は、魔人族に加護を与えた。
だがしかし──聖神は、怠け者。すぐに、加護を与えるのに飽きてやめてしまった。
魔神の加護を受けた魔人族は、魔力を行使して、世界を生きていた。
全く面倒を見なかったら、聖人族は、ただの人族となり、加護──聖力を受け入れる素養がなくなった。むしろ魔神の神気にあてられた世界で生き抜くためか、魔力を扱う素養があるくらいだった。
聖人族は無力なただの人族に。
それに伴い魔力を使える魔人族の呼称は魔族へと変わった。
弱肉強食が色濃く反映される世界で、力無き人族が奴隷狩りにあうのは当然の帰結だった。
隷属された人族。
支配者は魔族。
このままでは、使い潰されて滅ぼされてしまう。そうなると流石に大神に怒られるからマズイ。
でも、聖力を分け与えようにも、すでに受け付けられる人族はいないときたものだ。困った聖神は閃きました。
──他の世界から素養のある者たちを呼べばいいじゃん!
そもそも人族に魔力の素養があるならば、そっちを与えればいいのである。
私天才。
いそいそと大神より召喚・送致術式を盗みとり、魔神より魔力の源である魔宝珠を数個がめてきた。
そして、君たちが呼ばれて飛び出てジャジャジャじゃん!
さあ、人族を救ってくれたまえ、という経緯だよ!
呼び出されたのは自分を含めて六人。
男子高校生。
若いシスター。
マッチョな大男。
女子中学生の双子。
そして僕。
聖力を宿して転移して、魔宝珠に宿る魔力を加工して現地で使えるように人族へ伝授してくれと言われても。
時の神から、
一気に送り込んで、失敗したら怖いから一人ずつ行こうか?
あ、聖力を宿せば人を超越する力を手に入れられるから心配いらないよ。そんな簡単に死なないし、病気にもならない。すぐに死んだらこっちも困るしね。
さあ、どの順番で行く?
じゃあ、君から行こう。
聞いておいて、勝手に選ぶ聖神。
この道具の過去移動の限界は、一千年前ね。
おお、人族最後の国が滅ぼされる前に飛べるじゃん!
さあ行っちゃえ行っちゃえ!
「え、ちょ、ま──」
送り込まれる男子高校生。
さてさて、どう変わったかな?
大きな地球儀のようなものを覗き込む聖神。
お、いいじゃん!
抵抗できてる! まだ国も滅んでないじゃん!
おお、彼は攻撃魔法を作り出したのね。いいねー。伝授先は貴族で、血統が媒体か。貴族無双だな!
よし!
次は君に決めた!
「え?」
問答無用でシスターを送り込む。
ふむふむ。
彼女は回復魔法魔法を作ったみたいだね。生存率が上がったわ。
おお、私を崇めてんじゃん! 伝授先は教会で、祈りが媒体ね。ふむふむ、褒めてつかわすぞー。
神の様子はまるで、戦略シミレーションゲームをやっている子供のようである。
次は君ねー。
「ぬおっ!」
続いて、マッチョな大男が送り込まれる。
おー、今度は民が使える魔法ねー。
これは武技魔法かな?
伝授先が武芸者で、呼吸が媒体ね、面白いこと考えんじゃん。
というか民兵強えー! あり得ねー!
ケラケラケラケラ!
えっと次はー。
震える双子の姉妹。
言葉に出せていないが、態度で必死に離れたくないと訴えている。
ふむ、じゃあ二人同時で。
双子で送り込まれる。
ふーむ、どれどれー?
おお、魔道具のシステム作りやがった! スゲー! 媒体は魔石? うお、魔宝珠から魔石を生み出すサイクルを考えだした? 魔石から使われた魔力はやがて魔宝珠に還り、また魔石となる? 永久機関を作り出したん? 神である私もさすがに戦慄を禁じ得ないな! 戦道具から生活品までなんでもござれ。いやこの破壊力、これもう兵器じゃん。いやいや生活レベルも爆上がりしてる? スゲー!
ん?
あれあれ?
えっと、誰……こいつ、なにしてんの?
えっ、ちょっ、なんで? そんなことしたらあかんやん!
あぁ! 魔宝珠が破壊されてシステムが乗っ取られた!
人族のくせしてテロリストか、てめーっ!
なんてことしてくれてんだよ! 魔石が作られるサイクルが変わっちゃったよ!
え、なにこれ? ……魔物? 動植物に魔力が宿って、倒すと体内で魔石になる? は? ヤバ? 魔物が人襲ってんじゃん! うおっ、魔物強えーッ!
てめーっ、もう大罪人に指定してやるこのやろめー!
おかげで人族の勢力が盛り下がってきてるじゃん!
あ、この大罪人。魔石を喰らって人造の魔族になりやがった! 第三勢力誕生かっ? 三国志リスペクトかっ?
くそう!
次だ! まだ次がある!
残りは自分ひとり。
ついに順番が巡ってきてしまった。
そこに──
大神、魔神、時空神がやってきた。
なにをやっている?
えっと〜これは……つまり……
聖神は汗だくになり誤魔化そうとしたが、誤魔化しきれるはずもなくドン引くほど怒られた。
召喚・送致術式を回収され、残りの魔宝珠を回収され、タイムマシンも回収された。
しょんぼり聖神。
地球儀のもどきで、世界を一望する。
まあ、戦争がひと段落して、小康状態。魔族を滅ぼすまでいかなかったけど、人族も滅びなかったしいいか。大罪人の勢力がきな臭い動きしてるけど、大丈夫だよね?
また昼寝に戻ろう。
「あの……僕は?」
ああ、そっか。
どうしようかな。もうタイムマシンも送致術式もないから、送り込むのも難しいし、そもそも魔宝珠を取られちゃったから、わざわざ聖力を授けて送る意味もないんだよね。
適当に転生システムに流し込んでおこうかな。
穏やかではない言葉が聞こえる。
「あの、元の世界に帰してもらえませんか?」
ん? ムリ! もう元の世界との縁を切り離しちゃったし、あっちではキミ元から存在してなかったことになってるよ。
そんなアホな。
できるのはあっちの世界に転生させるくらい。ここにずっといられても邪魔だし。
マジか。
じゃあ、なにか? 僕は死んだも同然──というかこの神に殺されたも同然ってことか?
じゃあ、転生システムに送るね。
「ちょっ、ちょっと待ってください!」
あんな危険な世界に送り込まれて無事に成長できるだろうか。そもそも死産にならないか? 出産時の死亡率はどれくらいだ? 治安は?
平和な国日本で暮らしていた一般人が生き抜けるのか? 魔族と戦争をしているような世界だぞ。
「お願いです。せめてっ、せめて何かください!」
他の人に与えたチートとまではいかなくても、優遇措置をもらわないと文字通り命に関わる!
えー、めんどい
人の人生めちゃくちゃにしておいて、さらに転生先の保証は全くないのに、めんどいの一言で片付けられるとは、外道かこの神。
「そこをなんとか、後生です。なにか生き抜くための力をください!」
えー。聖力をあげるのは、もう疲れたから、嫌だし。そもそもあげるメリットないしねー。
「なにか有用なアイテムでも!」
そうだなー。
ポケットをごそごそ。
これは美神からがめた万能化粧水乳液セットでしょ、死神から借りパクした死を司る鎌。破壊神からもらったなんでも壊せる釘バット。時空神からちょろまかした四次元ポケット。
いろんなものが出てくる出てくる。
んー。でも全部気にいってるから、やっぱあげなーい。
「そんな殺生な……」
じゃあ、バイバ──イ。
はい、こうして転生させられました。
どうなる、僕!
転移メンバー
①高校生、男、第一始祖
第一魔法──攻撃魔法。
伝授先、貴族。
貴族の血統に魔力が宿る。自身の魔力が尽きるまで行使可能。休むことで魔力が回復。
②シスター、女、第二始祖
第二魔法──回復魔法。
伝授先、教会。
教会に魔力が宿る。祈ることでその身に魔力が蓄えられる。敬虔な者ほど魔力を貯めておける。教会で祈ることで魔力を補給。
③格闘家、男、第三始祖
第三魔法──武技魔法。
伝授先、武芸者。
武芸者のみ行使可能。魔宝珠の魔力を空気に溶かした。空気中にある魔力を呼吸で取り入れて戦う。空気中に魔力がある限り戦えるので、持続力に優れるが瞬間的火力は第一魔法に劣る。大勢の武芸者で争いをする場合は空気中の魔力の奪い合いになる。一気に大量行使すると空間から魔力が一時的に欠乏して、使用不可。
④中学生、双子、第四始祖
第四魔法──技巧魔法。
伝授先、技術者。
魔力が魔造炉にて魔石になる。魔石をエネルギーとして動く魔道具の魔道回路を開発。
銀に魔力を流し込み、練魔銀として精緻な魔法回路を刻み込む魔法。それにより魔道具を動かす。魔法陣みたいなもの。
兵器から民間の道具まで幅広く利用されている。
始祖の死後、大罪人により魔造炉を破壊され、システムを改竄される。
⑤僕
無力転生。
そもそも生き残れるのか?
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