森の中の町
森の中を進んでいくとそこに木組みの家がたくさん建っている開けた場所に出た。こんなところに何故?
町だろうか? 村よりは人が多いように見える。獣人やエルフやドワーフも居る、オープンな土地柄だったか?
とりあえず人に聞いてみるか……
「あの……」
「はいなんで……ひっ!?」
逃げられてしまった。普通の女性だったようだが、俺に何かおかしなところがあっただろうか? 身だしなみとしてはごく普通の旅人の格好をしているし、血やごみも付いていない。
女性に声をかけたのがマズかったのか? じゃあおっさんに声をかけてみるか。丁度いい、ガタイのいい人がいる、さすがに俺にビビるようなこともないだろう。
「すいません……」
「なんだ……ひゃぅ!?」
足早に逃げていった。俺が一体何をしたというんだろう? 今までやったのは人助けだけだぞ。
俺の手についた今までの血が見えているんじゃないだろうかと思えるほどの逃げ方、しかしこんなところに俺の身の上の真実を知っている人がたくさん居るというのもおかしいな。
「そこの人……ちょっといいかの?」
ようやく俺に話しかけてくれる人が居たようだ。振り返ると老人が一人立っていた。腰も曲がってようやく歩いている様子だが……
「あの……」
「言いたいことは分かる、ここの事情を一言で言えば『納税できなかった町』なのじゃよ」
「納税できなかった町?」
思わずオウム返しをしてしまう。そんな奇妙な町など聞いたことが無いし、税金は皆平等に取られているはずだ。
「分かりませんじゃろうな……あなたには。我々は病気や怪我、魔物の繁殖、事情は様々ありますが税金を払えませんでな……ここに領主様から追い出された者達が集まって出来た町なんですじゃ」
なるほど、姥捨て山と言う言葉が頭に浮かんだが、失礼なので黙っておいた。
「あなたが町長ですか?」
「そうですの、ここでは一番の年長者なんですじゃ」
「なるほど、ここが誰にも知られていない理由が分かりましたよ」
「ほう?」
町長さんは首をかしげている。
「安心してください、誰にも言いませんよ。だからあなたがその仕込み杖を抜く必要もありません」
町長の顔がぐにゃりと歪んだ。
「信用しろと……?」
「俺も殺されたり殺したりはしたくないので信用していただけると助かりますね」
町長からは殺気がダダ漏れだった。たまたま町に迷い込んだ程度の人間なら口封じも可能だろうが、俺にはそれは通じない。
「あなたは何ものなんですかのう?」
「そうですね……俺があなた方のことを黙っておきますからあなた方も俺がここに来たことを秘密にしておいてもらえますか? どうにも俺も追われる身なんでね」
俺の情報は漏らしたくない。ここの連中ならお互いのメリットになるだろう。俺のことを信じてくれれば、であるが。
「ふむ……あなたのことを喋るとどうなるんですかな? 参考までに聞かせていただけますかな」
「追っ手が大量に来てここいら一帯を血眼になって探すでしょうね。あなた方もそれは望んでないでしょう?」
町長はしばし考え込んでしまった。信じさせるに足る理由を話すわけにはいかない。俺はあくまでもただのロードという一人の人間であって勇者などではないのだ。
「分かりました、信じるとしましょう。その代わり、このあたりに領主様の調べがおよんだら喋らせていただきますぞ?」
「ああ、それで十分だ。俺も自分のことを申告できるような身分じゃないんでね、わざわざ言うようなことはしないよ」
「お互い、沈黙は金と言いますからの」
「そういうこと! ところでこの町で食品を買っておきたいんですが良い店はありませんかね? 皆俺を怖がっていましてね」
「なるほど、ではご一緒しましょう」
そうして町長が付き添いだとちゃんと買い物ができ、飲食物の類いをまとめ買いしてしばらく持つ程度に用意して収納魔法でしまっておく。
「あなた、なかなかのやり手のようですがただの平民なのですかな?」
「その辺は知らない方がお互いに幸せですよ」
「ハッハッハ、そうじゃの……お主はここに来なかったしなにも知らない、そういうことですな」
「そういうことです」
俺としては宿に泊まりたいところだったが、町の人の迷惑になりそうなので日用品を多めに買い込んでから町を出てしばらく歩いてから野営をした。
あの町で買ったワインで肉を煮込んで食べた。昔は飲み水がないときにこうやってワインを代わりに使ったものだ。まさか上水道が普及してからやることになるとは思わなかった。
俺はホカホカの肉にフォークを刺して口に運んだ。アツアツの肉を食べることができたことに感謝をしつつ、あの村がコレからもそれなりに平穏で見つからないことを祈っておこう。
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