旅に出よう
俺は魔王を倒すためだけに生きてきた。勇者などと言う面倒な枷から解き放たれたのでスッキリして魔王の居なくなった世界を見て回ることに決めた。
魔王も倒したことだし危険は無いだろう。平和になった世界を旅するのは魔王目指して一直線に向かった旅とは違う風情があるはずだ。俺のことなど知らない人たちと交流をしながらのんびり旅をする。そんなものも悪くない。
別にちやほやされるのは嫌いというわけではないが。出会うと誰も彼もが俺の機嫌を伺ってくるような生活はうんざりだ。
一応手っ取り早く旅に出るなら転移魔法の『ポータル』を使えばいいのだが、この魔法は事前に設置した場所にしか出ることができない。つまりこの魔法を使うと俺が魔王討伐で関わった連中のところへ出ると言うことだ。
だから俺はポータルに未登録の場所へ向けて歩いていくことにした。馬車を使おうかとも考えたが食料と水は大量に収納魔法で保存してある。徒歩で旅をするというのも悪くない。
そして俺の住んでいた街を出て気が付いた。
「この髪は目立つな」
金髪でツンツンと逆立っている今の髪の毛は目立ちすぎる。俺は変身魔法で髪をストレートの黒髪にした。大体一番目立つのが髪の毛だったので黒髪ストレートに変えただけでもほとんどの人にはわからないだろうと思われた。
「さて、どこに行くかな……」
地図を広げた。王都以外で勇者の顔が割れている街はほとんど無い。どこへ向かってもいいだろう。
俺はその辺に一本落ちていた木の枝をポイッと放り投げた、運に任せた旅というのは初めてだが生活に困るようなことはないはずだ。枝は北西に向けてポトリと落ちた。
俺はそちらに向かって歩きながら地図を見る。小さめの街があると書かれていたので最初の目的はその町でいいだろう。
歩いていると魔王を失ったというのにザコの魔物が数匹出てきた。大体は俺を見るなり逃げ出していくのだが、大型の狼であるサベージファングなどは襲いかかってきたので『ポン』と軽く殴ると頭がガクンと揺らされた衝撃で気絶していた。
魔王がいたころならもう少し強かっただろうが、魔王の消滅で弱体化した魔物にはその一撃で十分気絶させるだけの威力になった。
殺す気はなかった。命のやりとりと言うほど危険ではないし、誰かに命令されたわけでもないのに命を刈り取るというのはなんだか気が進まない。俺は気絶した狼を見ながら自由であることをありがたく思ったのだった。
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