【壱】

@BB-JIG

第一話

気が付いたらいつもの塾にいた。

兄弟に憧れて小学校に入るのと同時期に親にねだって入れてもらった【そろばん塾】だ。

そこでいつものように靴を靴箱に入れて手隙な席に座る。

座るときに入り口を見ると夜のようで、でも空にはどこか朱がさしている。

(クレヨンしんちゃんのシーンみたいだな…)

ぼんやりとそんなことを考えて横開きのドリルを開いてそろばんを出す。

初めに手前に傾けて机に置き、指で上の珠をスッとなぞっていく。

 カタカタカタカタ―――

きちんとそろっているかを確認して黙々と解いてゆく。

ふと顔を上げると横にはこの塾で一番偉い【うんち先生】が立っていた。

このふざけた呼び名は自己紹介の時に、

「うっちー先生と呼んでくださいねー」

と言っていたのを年上の男子が勝手に変えて言ってから定着したらしい。

それからは大体みんな本人の前では【うんち先生】と呼んでいる。

首を少しかしげて無言で疑問を投げかけると

「何でもないよ。ちゃんと解いてるようで偉いね。」

と言ってほかの生徒を見回りに歩いてゆく。

一つ頷いて問題に戻る。

(褒めてもらえた。珍しい…)

普段はあんまり人を褒めることをしない人に褒められると照れくさくてうれしくなる。

しばらくたって、解いたドリルを丸付けしてもらいに前に持って行く。

すでに何人か並んでいて、先生は【うんち先生】と若い女の【きよか先生】だった。

優しいこともあって、【きよか先生】のほうが多く並んでいたが、さっき褒められたこともあって【うんち先生】の方に並んだ。

すぐに順番が来て少し会釈をしながらドリルを差し出す。

先生は受け取ってパッパッと答え合わせをして返してくれる。

隣の方が遅いのに対して

(流石だなー)

と思いながら受け取り、隣の部屋に行く。

ガラガラ――

何人かは横目で見てきたけどすぐに元に戻る。

こっちの方が年上が多くて緊張するし、みんな友達と話して遊んだりしている。

さっさと後ろの方に座って時間になるのを待つ。

本当は何人かしゃべりたい奴がいたけど兄ちゃんも姉ちゃんも何もせずに待っていたので僕もじっと待つ。

4時きっかりになると先生が咳払いをしてよく通る声で

「さんいちがさん、にいちがに、はちいちがはち―――――――。」

と続けてゆく。

僕は言う通りにそろばんを弾いてゆく。

終わると前から答えが回されてくる。

受け取って丸付けをし、教室を出るときに先生の横にある回収ボックスに入れていく。

あとはママが車で迎えに来てくれるまで、友達と遊ぶだけ。

靴を履いて塾前の空いているスペースに行くと、珍しく年上の、それも中学か高校に行っているであろう人がうつむいて何かをしていて、みんなその周りに集まっていた。

「え、どうしたのー?」

そう言って駆け寄っていくと友達が

「この人メタルギアやってんだよ!」

と嬉しそうに言って輪の中に入れてくれた。

画面をのぞき込むとスネークが橋にいる奴らを静かに倒していく姿が映し出されていた。

(いいなー……)

そう思いながらその人にいくつも質問をして、答えてもらう。

PSPというらしいそのゲーム機は、僕らはほとんど持っておらず、いとこがやっているのを見たり貸してもらって少し遊ぶくらいしかできない希少なものだった。

(あれ、なんでこんなに暗いんだ?)

ふとそう思って、上を見上げると【赤くて青く】て牙を生やした何かがじっと僕を見下ろしていた。

「え?」

そう思わず声を漏らすとニヤリと嬉しそうに顔を歪ませて肩に乗せていたナニカを掲げる。

何が何だかわからずに必死に塾に入るとそのまま【うんち先生】を探しに行く。

急いで奥の扉を開けるとなかには【青くて赤い】のが立っていて僕のことを見てにやりとまた表情を歪めていく。

怖くて怖くて、裏口から必死に出るといっつも車で通ってる道を駆け出してゆく。

ふと後ろを振り返ると【赤くて青い】のがすごいスピードで走ってきていた。

とっさに

(間に合わない)

と思うと角を左に曲がって家のにわを抜け、塾の横、倉庫の陰にじっとうずくまる。

耳も目も、口も鼻も、何もかも塞いでじっと時間がたつのを待つ。

しばらくしてからそろそろと動き出す。

恐怖でおびえながらも周りを見渡してみると誰もいない。

それどころか車も人もおらず静寂が広がっていた。

(え……?)

見知った場所のはずなのにまるで始めてきた場所のような感覚がある。

多分ここは僕の知らない場所なのだろう。

(まるで【千と千尋の神隠し】みたいに迷い込んだのかな?)

あまりの日現実感にボケっと現実逃避を行ってしまう。

すると塾のほうからドシドシという音がする。

(アイツだ。探してるんだ…! すぐにこっちに来てしまう!)

急いで道路に出て家のほうに向かう。

一生懸命走っても音は止まない。

後ろを振り返っても真っ黒な闇が広がっているだけだった。

(さっきまで赤い光が照らしていたはずなのに…!)



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これは最近夢に出てきたものを簡単にまとめて供養しているものです。珍しくはっきりと覚えていたので書き出してみました。

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