第1部 第2章夢拾い

第1話 小さな依頼者

「彼を探してください。」


思いつめた小さな声が聞こえた。


依頼人のその女性は小柄で、ショートカットがよく似合っていた。


大下萌美(おおした めぐみ)28歳

保育園で保母をしているという。


真円まあるく少しタレ気味の大きな瞳

同じく真円まあるい頬と小さな鼻

年齢より幼く見えて

ちょっと色黒だが、活発そうに見えるので

保育園児には、格好の遊び相手にされそうな

可愛らしい女性だ。


調査対象者 剣 聖光(つるぎ あきら)30歳ぐらい?ぐらいってなんだ?


「悪いが、うちは浮気調査専門なんだ。

 人探しは出来ない。」

かわいそうだが、所の方針だし、看板にでかでかと「浮気調査専門」と

打ち出しているから例外は認められない。ことになっている・・・・


「はい。でも彼が居なくなってしまって・・・・・」

 

見た目とは似つかわしくない覇気のない声で答え

またひと回り小さくなった気がした。


「つまり浮気相手と駆け落ちしたってことか。」

俺がついそうつぶやくと、彼女の大きな瞳が少し潤むのが分かった。


私見だが浮気調査の依頼人には大まかに2種類いると思う。


一つは彼女のように、藁にも縋る思いで来る者。

浮気を疑っているが、そうでないようにとも祈っている。


もう一つは吸血鬼ヴァンパイアの俺が

縮こまるぐらいの物凄い剣幕で来る者。

絶対に容赦しないと誓っている。


後者には浮気の原因がある程度推測できるが

彼女の場合、調査前の憶測だが原因は根が深いかもしれない。


「駆け落ち・・・でも・・これを置いていったんです。」

彼女が大切そうに、カバンの中から二つ折りにされた一枚のメモ紙を

両手でゆっくりと差し出した。


"?"


その二つ折りにされたメモを開いて読もうとすると

彼女が泣きながら読んだのだろう。

涙で濡れてしまい、よれてしまっていたのを

なんとか皺を伸ばそうとしたのか

かわいらしいクマとうさぎと象のイラストと

黒のサインペンで書いた文字がかすれていた。


そこに書かれた彼の文字は、お世辞にも上手いとは言えない筆跡だが

彼女への思いが伝わる文言であった。


確かに浮気して駆け落ちをする奴が残す言葉じゃない。

メモを読んで、この言葉の意味が知りたいと単純に興味心が湧き、俺も気が変わった。


人探しは所の業務にはないが、調査対象者を探さなきゃ浮気調査は出来ないよなあ。

今日もどこかに外出していて相談できないが、まああの所長でも承認してくれるだろう。

事後承認は今回が初めてじゃないし、売上にも計上されるし・・・・・


心配そうにこちらの顔色を窺がっていた彼女に

「旦那との出会いから教えてくれ?」

俺はやる気を見せて質問した。


「そんな前からですか?あのそれと・・婚約はしましたが結婚はしていないんです・・・」

すこし恥ずかしそうにそう言って、左手くすり指の物を隠した。


俺はため息をつきながら

「婚約も結婚も契約だから同じだろ。過去を調べるのは、君と出会う前からその相手と

関係があった、なんてこともあるんだよ。」

ちょっと彼女には残酷だが結構普通にある話しだ。


彼女は唇をかみしめていた。

見る見る間に真円まあるく少しタレ気味の大きな瞳が

涙でふたたび潤んできた。それをカバンから出したハンカチでぬぐうと

また消え入りそうな声で話始めた。

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