ビリビリエビとひよこ水 ~コミヤマリツトは生き辛い~
かにかに
プロローグ 死への渇望
――痛い!
痛い痛い痛い痛い!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ……
呆然とした中で感じた熱さは、それが噛まれた傷によるものであると知覚してすぐ痛みへと変わった。
噛みちぎられた左脇腹と右肩は似たような形で抉り取られ、その欠損部はソフトボールがばっこりとはまりそうな半円型をしていた。
かつて経験したことがない激痛に意識が遠くなるような感覚を覚え、リツトはその流れに従うようにそれを手放そうとする。
「……あああああ!!」
しかし、世界はリツトの意識を手放さなかった。
気の遠くなるような痛みは同時にリツトの覚醒を促し続けていた。
痛みから逃れようと体勢を変えてみるが、それらは頑として離れてくれず、変わらぬ刺激を提供し続ける。
リツトがのたうち回る間、2体の●●はかじり取った肉を犬のような恰好で捕食していたが、無常にも、先ほど命を救われ、命を救おうとした●●●●であったものが走り寄り、右の太腿に食らいつく。
「―――!」
新たに生じた激痛に言葉にならない叫び声を上げるリツト。
許容を超えた痛みは再びリツトの視界を暗くするが、またしても光が戻り、逃げることを許してくれない。
少しでも痛みを抑えるべく、右太腿に噛みつくそれを残る左脚で蹴り倒そうと考えるが、それが●●●●であると気付き、蹴ることが出来ない。
●●●●を含め、●●した●●達はおおよそ同一人物とは思えないほどに狂気に満ちた表情をし、人ならざる凶行に及んでいたが、姿形をそのまま残したそれらを、化け物と考えきることがリツトには出来なかった。
特に●●●●は先ほどまで共に走り、守ってもらった恩がある。
その感謝を、今まさに自分が捕食されている瞬間でさえ忘れることが出来ない。
リツトは、今感じている痛みからも、これから味わうであろう痛みからも逃げることが出来ず、ただひたすらに叫び続けた。
それから●●●●が合流し、右の二の腕に噛みつく。
強く握られた際に右肘の骨が折れ、赤黒く変色する。
●●●●はただこちらを見つめ、よだれを垂らして狂乱を続けている。
5体の●●者に囲まれ、痛みに耐え続けるリツトであったが、出血が致死量に近づいていき、意識の消失が痛みによる覚醒を抑え始める。
次第に視界に映る色彩は淡くなり、霞がかるように色が抜けていく。
それは、これまで幾度と感じた「意識が遠くなる」とは似て非なるものであった。
痛みすら遠のくほどに思考はまどろみ、スゥーっと身体ごと沈んでいくような、ふわふわと空へ浮かぶような、これまで経験したことのない感覚。
リツトが感じたその感覚は、紛れもない「死」であった。
出血は既に致死量を超え、血の海に転がるそれは、まもなく肉塊となるであろうことが容易く分かるほどに生気を失っていた。
心臓の鼓動は次第に弱々しく、またその間隔が長くなっていく。
初めて経験する死を目前に控えたリツトが、まどろむ思考の中で持っていた唯一の感情は、
―――ああ、やっと死ねる。
他ならない安堵であった。
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