半異世界のような不思議な世界の物語!

疾風神威

第一 さあ、俺たちの革命を始めるぞ

黒の妖狐と黄金の妖狐

第1話 赤火牙裕人

まい!」


叫べ。


「舞!」


叫べ。


「舞!」


無我夢中で叫ぶ。左腕は切断されていて、耳だって切り落とされている。それでも尚、俺は立ち上がり、妹の名前を叫んでいた。


それほどの痛みと苦労を味わってまで…何故俺は立ち上がる?


回復術師がどうせ後で傷くらい治してくれるから? 否。


この傷を負わせた奴が憎いから? 否。


答えは一つ。妹を護るためだ。


炎一斬ほのおいちざん! 炎舞斬えんぶぎり!」


切り落とされていない右手で、紫色の刀身、黒い鍔と柄が特徴の刀……邪炎刀ムラマサを握り、妹を殺さんとする人間にその刃を振るった。




「……夢か」


俺は小さく息を吐いて言った。ったく…現実感って言うの? リアルすぎんだろ。


未来に起こることが夢になって現れるっていう考えを正夢とか言うけど…これはそれじゃあない。


だってこの夢は…俺の過去の経験なんだから。


布団から出て、洗面所に向かう。顔を洗ってから、姿見を見ても耳はあるし、左手もあった。あ、耳と言えば、俺の耳はふさふさとした体毛が生えていた。所謂獣耳って言うやつさ。こんくらい触り心地が良いと、中性的な顔立ちも手伝ってか女にも見えてしまう。


俺たちは…亜人と呼ばれている種族だ。


人間と違って獣耳を持っていて、あと尻尾もある。知能を持った獣。それが亜人だ。


数十年前のこと。この世界には…魔力と呼ばれる未知の物質が誕生した。出は不明。どこの国がどんな実験で作ったのか、なんて言われてたりするけど真相はわからない。


とにかく、その魔力を浴びて進化した動物が獣人って呼ばれてるんだ。


獣人の子供が亜人に当たる。ええと、俺たち亜人は、人間味が獣人と人間の間らへんなんだってさ。


とと、自己紹介がまだだったっけ?


俺の名前は赤火牙裕人あかひがゆうと。妹と二人暮らしをしている。


「お兄ちゃん?」


噂をすれば、ってとこかな。


「舞、おはよ」


「うん!」


何故か俺を訝しがな顔で見てくるこの少女の名前は赤火牙舞。青寄りの黒、藍色の毛色が特徴の、俺の妹だ。


「おかしいなあ…お兄ちゃんがこんな早い時間に起きてるわけないのに」


「え、今何時?」


「六時半」


「げ」


マジか。二度寝しても良い時間じゃねえか。


「二度寝しようかなんて考えてた? だーめ。せっかく顔洗ったんだし。お兄ちゃん、今日学校でしょ?」


「わかったわかった」


確かにそうだ。十七歳の俺は今日から高校に行く。なんで学校には行けないかって言うと…亜人差別ってやつだ。


だけど、ある人が俺たち兄妹を拾ってくれて、学校へ行けるようにも手配してくれたんだ。


舞は先に中学に通ってるし、今度は俺の番。入学初日から遅刻はしたくないし、早めに行っとくか。


「お兄ちゃん? もう行くの?」


「ああ。飯は行きながら食うよ」


「げ、下品だなあ…ま、いっか」


舞は渋々俺にトーストを一枚渡してくれた。これから味付けする予定だったのか、上には何も乗ってない。ま、そっちの方が俺は好きだけど。


「ちなみにパンを咥えたまま投稿しても可愛い子とは出会えないからね?」


「別にそれを狙ってるわけじゃねえっての」


変な心配をする妹を余所に、俺は家を出た。


すると、それを待っていたかのように


比喩とかではなく、これは空間を支配する者を自称するある少女の仕業だ。


運命さだめか」


俺は思い当たった少女の名を呟く。すると、それに答えるように空間がねじ曲がり少女の形を作っていき、最終的には本当にその場に少女を呼び出した。


「ご名答です、裕人さん」


「慣れないな…それ」


「慣れてください。貴方はもう普通の一般人を名乗れない状況下にありますもの」


くすくすと笑うこの少女は、必霧運命かならむさだめ。俺と舞を学校に編入できるようにした人の部下らしい。


ああ、その人たちは亜人救済隊と名乗って活動をしているそうだ。略称は亜救隊。


目的は亜人を差別から救うことであり、亜救隊に多大なる恩がある俺は、こうして運命に協力しているのだ。そのため、彼女が面倒だと判断した事件が起こった場合、こうして俺の所へ来ているわけ。


「また何かあったのか?」


「亜人劣性思想に少し怪しい動きがありまして」


亜人劣性思想とは…まあ名の通りの連中だ。偶に力を使って亜人を痛めつけるから亜救隊から危険視されているらしい。


「怪しい動きって……アイツらって所詮はゴロツキみたいなもんじゃないのか?」


「裕人さん。この世には知らなくて良いこともありましてよ」


「…………」


知らない方が良い…ね。


確かに俺もそう思う。このままなんとなーく恩を返して、なんとなーく平穏に過ごす。それが一番ハッピーに思える。


「運命、聞かせてくれ」


「……本当に、良いんですの?」


無言で頷く。


「………今はまだ話せませんわ」


「結局かよ!?」


「からかってごめんなさい、裕人さん。何せ、わたくしそこのトップでも何でもありませんので。貴方にさらっと機密情報を漏らして良い立場ではありませんの」


言われてみれば確かにそんな気がしてきた。運命は俺のお目付役ってだけで……


「うん、運命って幹部じゃなかったけ?」


「あら、気付くのが遅かったですわね」


「おい!」


「まあまあ良いではありませんの。気になるのならば芽生めいさんに聞いてくださいな。そちらの方が確実でしょう?」


芽生とは、先ほどから言っている俺と舞の入学を手伝ってくれた人だ。亜救隊の隊長で、両親がいない俺たちを気にかけてくれている。


「そだな。悪い、困らせた」


「……」


「どうした?」


なんで変な物見てるような顔をされなきゃならんのだ。


「い、いえ…これで普通謝ったりしないと思っただけですわ」


「そうか?」


「ええ。本当に、お優しい方なのですね。私には理解しかねますけど」


「ま、良いだろ。人それぞれってやつだ。で、劣性思想はどこに?」


「裕人さんの高校の近くで通りかかった亜人の少女を拉致して逃げましたわ。そこから先の行方は私には」


わかんないってことは車とかで逃げたのか。にしても拐うって妙だな。確かに運命が俺にわざわざ頼んで来たのもわかる。怪しいところは末端にやらせるって……まあ当たり前か。


「車の特徴は?」


「あら、車と察してましたか。その通りですわ。黒塗りの覆面パトカーです。騒ぎを聞いて駆けつけた警官の車を強奪して逃走したようです。パトランプは点灯したままですから…わかりやすいのでは?」


「わかった。正炎刀マサムネを」


俺は運命に向かって右手を差し出す。


運命は最初は迷ったような顔をするも、渋々指をパチッと鳴らした。


瞬間、俺の右手の平の上の空間が歪み、やがてその歪みは一つの刀の形を作った。俺の剣、正炎刀マサムネだ。流石に一般の学生が日本刀を常備するわけにはいかないので、お目付役の運命に預けているのだ。


真っ赤な刀身と、白い鍔と柄が特徴の刀。正炎刀マサムネ。俺はそれをにぎると空高く跳躍した。


俺は今日も、理不尽な力に打ちのめされている亜人を救う。







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