弱り心に絆されて
病は気からなんていうけれど。こういう精神論はちょっと古い気がする。まあ、思い込みで病気が治る
まあそれでも風邪ひいたら、誰だって気が弱くなるものなのは確実で。
「ケホッケホッ」
「全く愚弟は愚弟だね」
「風邪ひいてる時くらい、優しくしてよ」
「優しいだろ、こうして看病してるんだから」
愚弟が風邪をひいたのは、涙のデートについて行った日から一週間後のこと。両親は仲睦まじく旅行に出かけている。元々、留守番予定だったけど。愚弟が風邪をひいたことで、暇じゃなくなった。
元々予定があったかと言われればなかったんだけど。
ベットの上で横になっている愚弟は、顔が赤らみ吐き出す息は弱弱しい。
病院に行ったら風邪だっていうことで、薬をもらったけど。すぐに治るわけもなく。こうして愚弟の看病をしないといけないわけだ。
「食欲はあるの?」
「腹減った……」
「おかゆでも作ってくるから、大人しく寝てなよ」
料理は得意な方だ。卵がゆくらい作るのは難しくない。お腹が減ったから僕の分も一緒に作る。
味付けは薄めに。と言うか、出汁だけで済ませる。病人に濃い味付けのおかゆは良くないから。
十五分足らずで出来た、卵がゆをお盆に乗せて階段を上がる。本当は
「ほら愚弟、優しい僕が卵がゆを作ってきてあげたよ」
「あんがと、ねえちゃん」
「ずいぶん弱弱しい、感謝だね。ほら、愚弟の分」
ベットの隣にあるサイドテーブルに、愚弟の分の卵がゆを置く。
自分で作ったにしてはいい出来だ。ベーコンの塩味がいい風味を醸し出している。
「そっちは」
「これは僕のだ」
「そっちのほうがうまそう」
「愚弟の分はそこに、あっ」
「いただきます」
「はぁ、全く」
さっきまで食べていたお椀を奪い取られ、愚弟はそのまま食べ始める。味濃いベーコン入り卵がゆを奪われたから、味薄いただの卵がゆを食べる。
「うめぇ」
「それはよかったね、僕のは味が薄いよ」
男って生き物は味濃い食べ物が好きなのかな。そうなると僕は男にはなりきれてないのかもしれない。まあ、味覚とかは体の方に引っ張られんだろうから。間違ってはいないのかもしれない。
熱が出ている今は、この愚弟間接キスだとかも考えないんだろうね。いつもなら恥ずかしがるのかもしれないけど。
「ごちそうさま」
「おそまつさま」
「なぁ、ねえちゃん」
「ん?」
卵がゆ食べてベットに再び寝ころんだ愚弟が何か言ってる。
「おれ、ねえちゃんのこと好きだわ」
「は?」
風邪ってものは脳まで蝕む病気だったっけ。これは脳神経外科病院まで連れて行かなきゃいけないのか。この辺の脳神経外科病院ってどこ?
「優しいし、綺麗だし、好きだし、愛してるし」
「愚弟、本当に頭大丈夫?」
「うそじゃねぇ。いまじゃなきゃいえないんだ。いつもならねえちゃんはぐらかすだろ」
そりゃまあ、好きじゃないからはぐらかすに決まってる。その資格すらないし。
「風邪で頭がやられてるんだよ。寝言は寝ていいなよ。ほら寝た寝た」
「頭がおかしくなったわけでも、寝言でもねぇ」
「なわっ!?」
ベットの上で弱ってたはずの愚弟が、声に覇気を取り戻して。男特有の力でそのままベットの上に引きずり込まれた。
「俺、姉ちゃんのこと。本気で好きなんだよ」
風邪ひいてる時に無茶して、涙で顔をぐちゃぐちゃにして、顔を赤らめて。女々しい愚弟だ。
馬鹿で、どうしようもない、愚弟だ。
ベットの上で、顔と顔を付き合わせる。
「僕は愚弟のことを好きになれないって言わなかったっけ?」
「そんなの聞いた事ねぇ」
「そうか、じゃあもう一回言ってあげよう。僕は愚弟を好きになることもないし、愚弟が好きになるような人間じゃないんだよ」
「俺はそんなことどうでもいい!」
愚弟にはどうでもいいことでも、僕にはどうでもよくないんだ。
僕は醜い存在だ。
「愚弟にはどうで良くても僕にとってはどうでもよくないんだよ」
「何が姉ちゃんをそうさせるんだよ、何が姉ちゃんを縛ってるんだよ!」
「何ってそりゃあ、過去だよ。ちょうどいい聞かせてあげるよ」
愚弟の顔の両側に手をつく。壁ドン、いやベットドン?
そんなことはどうでもいいか。
愚弟を見下ろす、これからは僕が話す内容から逃げないように。
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