女子高生は異世界の方が気楽

発電キノコ

第1話 やまない雨がある国

 やまない雨が降り続ける国。

 明けない夜はないけど、やまない雨はあるんだなあ。そう呟いたセーラー服の女子高生は、傘がないので果物を売ってる露店の軒先を借りて雨宿りをしている。


「お嬢ちゃん、珍しい服を着てるねえ。旅人かい?」


 軒先を貸してくれた主人は獣人のおばさんだ。この世界ではいわゆる普通の人間型、獣人型、エルフ、ドワーフが存在していて、この国は全ての人種が混在している。

 たまに人種差別をする人もいるが、現世に比べると圧倒的にほぼゼロと言っていいレベルだと女子高生は思っている。


「うん。セーラー服って言うんだよ。職業は旅人じゃなくて、女子高生かな」

「へええ。聞いたことないねえ。服の名前も職業も。名前は?」

「マリ。あだ名は、マリモ。あんまり呼んで欲しくないけど」

「あはは。じゃあ、呼ばないよ。マリ、この雨はやまないから、宿屋までは勇気を出して走るしかないよ」

「そうだね。ありがとうね、おばさん」


 マリはそう言って宿屋に向かって駆け出した。

 彼女がこの国に来た理由は二つある。一つは、やまない雨を見てみたかったこと。もう一つは、高名な占い師に会いに来たこと。


「あんた、この世界の住人じゃないねえ」


 宿屋の主人に話を聞いて、さっそく占いの館にやってきたら開口一番言い当てられる。暗い部屋に水晶玉にしわしわのお婆さん。これでもかというほどにステレオタイプな占いの館だが間違いはなさそうだ。


「うん。異世界から飛ばされたんです」

「面白いねえ。私も長い事占ってきたが、別の世界からきた客は初めてさね。どら、特別サービスだ。タダで占ってやろう」

「わあ、ありがとう。おばあちゃん」

「おばあちゃんはよしとくれ。私には、ガーミィという占いネームがあるんでね」


 そう言って、バチコンとウインク一発。ガーミィが水晶玉に手をかざすと玉がLEDなのかな? というぐらいに光り出す。


「ふむ。てっきり元の世界に戻る方法が知りたいのかと思ったらそんな感じじゃなさそうだね……」

「うん。ただ占ってもらおうと思って」

「戻りたくないのかい?」

「うーん。そうだね。戻らなくても、いい」

「そうかい。じゃあ、そんなあんたに言えることはただ一つ。西へ向かえ。そう出てるね」

「西……西には何があるの?」


 少女の質問に占い師はあっけらかんと答える


「さあね。そこまではわからない。私はこの国を出たこともないしね。ただ、地図上の話で言えば、西にはこんな小さな国ではなくて大国があるよ。巨大な街と大勢の人と、沢山の希望と絶望がある。それが大国さ」

「へええ」


 西か。別に何か目的があるわけじゃない。ただ道しるべが欲しくて、有名な占い師に会いに来ただけだ。

 そういう意味では、ここに来て大正解だと言えるだろう。西に行くという目的ができたのだから。


「わかった。西に行ってみる」

「はは。だけどね、こんな占いババアの言うことはあてにしちゃあいけないよ」

「なんで? 有名な占い師さんだって聞いてるよ」

「長くやってりゃ有名にもなるさ。でもね、私はずーっと外し続けてるのさ」

「占いを?」

「ああ。だって私は生まれてこのかたずっと言い続けてるんだ。やまない雨は無いってね。ほら、外し続けてるだろう?」


 外から、サー……という雨の音が聞こえる中、けっけっけと笑う占いババアの笑顔は皺でクシャクシャになる。


「傘を持っていきな。そのままじゃ風邪ひいちまうよ。馬車でも借りた方がいいよ。西への道のりは、なかなか大変だ」

「うん。ありがとう」

「その服、足が見えすぎてないかい?」

「これが、可愛いんだよ。多分。元の世界じゃあ、みんな短くしてた」

「ふうん。まあ、可愛いかもねぇ」


 そう言われて、ほんの少し嬉しくなったマリは、嬉しくなった分だけスカートをさらに短くした。

 元の世界に居た頃は、スカートは既定の長さから変えたことがなかった。

 マリは着々と異世界デビューを果たしながら、西へと向かう。

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