レオの行方は1

 セーフハウスの代わりに用意されたホテルの一室はびっくりするほど広かった。洋風の寝室が二部屋に広いリビングとバスルーム、ミリアが想像してた以上に居心地がいい部屋だった。

 バッグを部屋に持ち込むと、ミリアはあのぬいぐるみに話しかけた。

「アンタ、レオの居場所は分かるんじゃないの?」

 なぜかミリアには確信があった。モググはベッドの上に移動すると、ミリアの言葉に悲しそうに首を振る。

「ダメモグ。今行っても組織のやつらにつかまっちゃうモグよ」

 ミリアはモググを厳しくにらみながら言い募る。

「早くいかないとレオがどうにかなっちゃうわ! 知ってることは全部吐きなさい!」

 ぬいぐるみを脅すミリア。知らず知らずのうちに声が大きくなる。

「ミリア、うるさい」

 ノルンが急にドアを開けて寝室に入ってきた。思わずノルンの方を振り返るミリアとモググ。そしてノルンはモググを見て目を見開く。

「ぬいぐるみが動いてる・・・!」

「あんた、これが動いてるのが分かるの?」

 ぬいぐるみが動いていることを他人に知られたのは初めてだった。それがまだ中学生にもなっていない子供だったことに納得できない思いはあったけど。

「ミリアが魔力で動かしているんじゃないの? すごい魔力が込められてるよ」

 前回の襲撃の際も感じたことだが、ノルンの目には魔力の流れが見えているようだ。他の人にはぬいぐるみが動いている様子は見えない様子だったが、彼女にはそれが通用しない。

「! 組織の刺客? ミリア、離れて!」

 そう言うと厳しい目でぬいぐるみを睨むノルン。両手を前に突き出すと火球が生まれ、攻撃態勢に入る。

「この子に攻撃しないで!」

 ミリアがぬいぐるみをかばうように立ちふさがる。ノルンは焦った様子で魔法を止めようとする。

「ダメ、もう止められない!」

 火球はミリアたちの方向に向け動き出す。少しずつスピードが上がるような様子だったが、何者かに干渉されて唐突に消滅する。いつの間にかミリアとノルンの間にはモニカが立っていた。そして部屋の入り口には、アイラが戦いに備えている。

「ノルン、下がっていなさい。ミリアもそのぬいぐるみから離れて。ノルンの言う通り、組織の刺客かもしれないですわ」

 厳しい表情でモニカは言う。ミリアは必死にその場をなだめた。

「ちょっと待って! よくわかんないけどこの子は敵じゃない。私を何度も助けてくれたの!」

 モニカを何とか止めようと言葉を尽くす。厳しい表情のモニカに、ミリアは成人式の後の出来事をあたふたと説明する。

「つまり、銃を召喚したのがこの子で、あなたにもこのぬいぐるみが何なのかわからないということね」

 モニカが厳しく言う。ノルンが続く。

「そのぬいぐるみから、巨大な魔力の渦が見える。何か危ない魔法が込められているのかもしれない」

 2人とも、ぬいぐるみを怪しむ目で見ている。ミリアは焦り、それでもなんとかモググをかばおうとする。

「いや、私にもよくわからないけど、この子は組織とは関係ない。むしろ危険から私を守ろうとしてくれるんだって」

 ミリアは体全体でモググを2人から隠す。そんなミリアを見て、あきらめたようにモググは語り始める。

「モグは・・・・・、あの日の朝に生まれた使い魔モグ。組織からミリアを守るために作られた存在モグよ」

 力なくそう答えると、その場の全員に自分のことを話し始めた。

「モグがどうやって生まれたのかは正直分からないモグ。でも、このままだとミリアが大変なことになるのは分かるモグ。それを阻止するために行動してきたモグよ」

 語りだしたモググ。魔法対策7課の面々は女子部屋のリビングに集合し、モググに質問を重ねた。

「君を作ったのはだれか、わかるかい」

 間々田がぬいぐるみを興味深そうに見ながら尋ねる。しかしモググは首を振る。その様子を見てアイラが予想を口にする。

「使い魔といえば3人目の……『予言の魔女』だな。宙に浮かぶほうきが使い魔だったっけ? 確か作ったのは魔女本人だったけど、最初はなぜ動いているのか、だれが作ったのかわからなかったんだよな? 結局後日自身の破滅の予言を回避するために無意識で作ったのが分かったと言われている。こいつが言ってることが真実なら、ミリアが無意識に作ったってことか?」

 使い魔は、魔女の無意識から生まれるとされている。3番目の魔女はほうきが使い魔だった。愛着のある道具が意識を持ち、彼女を守るようになったという。ミリアにとってはそのぬいぐるみが、大事なもので、無意識に自分を無意識に守らせたというのだというのだろうか。

「魔力の色は少し違うようだけど、ミリアの魔力とそのぬいぐるみの魔力はよく似ている。魔力量は膨大で、私でも同じ量の魔力を籠めるのは難しい。魔女が作ったもので間違いないと思う」

 ノルンが同意する。

「そのぬいぐるみはいつから使っているの?」

 モニカが尋ねると、ミリアは少し考えこむ。

「たしか…小学校に入ったばかりのころに友達からもらったものだと思うけど、誰だったかは分からない」

 ミリアは振り返る。10年も一緒にいたぬいぐるみなのに、誰からもらったものかは思い出せなかった。

「10年間、愛着を持って使っていたものだからこそ、無意識に使い魔にしちゃったかもしれないね」

 間々田は考えこみながらそうつぶやく。

「そんなことよりレオよ! あんた、レオの場所わかるんでしょ?」

 鬼気迫る表情でミリアはぬいぐるみに詰め寄った。

「い、言えないモグ。一人で行ってもつかまっちゃうモグよ!」

 必死の表情で拒むモググ。そんな2人に割って入ったのはスクワーレだった。

「警官隊を派遣するという手もある。情報だけでも教えてくれないか」

 3番目の魔女の使い魔は、動きを止めるまで身を挺して魔女を守ったとされている。この使い魔もミリアの安全を第一に考えている。彼女の無事が確保されていれば、情報を提供してくれるかもしれない。

「・・・・、魔女の館モグ。あそこでミリアを攫う準備をしていると思うモグ」

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