カクゼとヨムヨの創作日常~ブクマや評価はどうしたら増えるの? 底辺から駆け上がりたい若者たち~

川凪アリス

第1話 他の作品を読め!!


「私の作品、面白いのに読まれないわ!」


 僕の名前は正雪描世しょせつかくぜ。描世という名前は小説家の父が命名した。変な名前だと思うけど、僕はそれなりに好きだ。この名前のお掛けで友だちができたこともある。


 僕の部屋の僕のベッドで寝そべり、我が物顔で足をバタつかせている女の子がいる。

 名前は芸文詠代げいぶんよむよ。僕の幼馴染みだ。

 サラサラとした長い黒髪。パッチリとした二重、プックリとした赤い唇。幼馴染みの僕から見ても、詠代はかなりの美人だ。色んな人から告白されていると聞く。


「また言っているの?」

「だって、読まれないもの! 私の作品、面白いのに! おかしくない?」


 詠代が小説投稿サイトで書いている作品は『愛国の聖騎士アリス』。

 まだ投稿を始めたばかりで、作品の内容は少女が最強の騎士を目指す王道ファンタジーだ。


「まだ投稿を始めたばかりだよ?」

「描世は良いわよ。星やブクマも三桁を超えているから。私なんて星八でブクマは六よ」

「僕も最初は読まれなかったよ」

「本当!?」


 詠代は興奮して、僕の顔の前まで近く。髪がサラッと揺れて、シャンプーの甘い香りが微かにする。


「近いわよ!!」


 何故か僕が突き飛ばされた。


「近づいたのは君だよ!?」

「関係ないわ。で、描世どうしたら三桁行くの?」


 いつになく真剣な表情だ。

 詠代のそんな顔を見れるなら教えてあげるのも悪くない気分だ。


 僕は態とらしく咳をする。


「詠代、君は他の人の作品を読んだことがあるかい?」

「何言ってるの? 読むわけないじゃない」


 予想通りの答えが返ってきた。

 だから、詠代の作品も読まれないのだ。


「どうして読まないの?」

「だって、私は書いて読まれたいのよ。他の人の作品を読む必要はないわ」


 僕も最初はそうだと思った。

 でも、小説投稿サイトではその考えは違う。


「小説を投稿している人は皆、君と同じで読まれたいと思っている」

「だから?」

「君が他の作品を読めば、読まれた側も君の作品を読もうと思うよ」

「そうなの?」

「星、ブクマ、応援をしてもらった時、誰がしたんだろうと覗いたことはないかい?」

「…… あるかな?」

「そういうことだよ。読まれたいなら、まず読むことが大切だよ。それに他の作品を読むことは読まれるためだけにすることじゃない」

「他に何か理由があるの?」

「創作の参考になる。ある偉い人が言っていたけど、殆どの創作は完全なゼロからの始まりじゃない」


 詠代は首を傾げた。

 意味分からないという顔だ。


「ファンタジー作品に魔法使いって必須みたいだけど、どうしてだい?」

「どうしてって……」

「それは昔から魔法使いが登場するファンタジー作品があったからさ。しかも、その作品は色んな人に読まれ続けている。その作品を読んだ人は知らず知らずのうちに、魔法使いが登場するファンタジー作品の知識を蓄積しているんだよ。その作品の読者が別のファンタジー作品をもし創作するなら、その作品の知識は自分の意思とは無関係に参考にされる。他の人の作品を読むことは、知識の蓄えだよ。それをしないうちに、作品が読まれないって嘆くのは百万年早いと思うけどね」

「うーー! 描世のくせに!」


 イライラしている詠代は可愛い。

 僕は思わず詠代の頭をポンポンと軽く触れた。


「何してるのよ?」

「いや、これは……」


 僕は急いで手を戻した。

 すると、詠代は笑みを浮かべる。


「まぁ良いわ。私に読むことの大切さを教えてくれたわけだしね。許してあげるわ。これからも色んなことを教えてよね!」

「僕で良いなら」

「僕でって、あんたしかいないじゃない。頼りにしてるわよ、描世!」


 花のような笑顔を僕に向ける。

 まったくいつの間にこんなに可愛くなったんだ。

 僕の気も知らないくせに。


「何か言った?」

「いや、何も」

「そう。私、帰る。小説の続きを書かないといけないし。描世、また明日。明日、一緒に学校行こう。それじゃあ!」


 詠代は颯爽と僕の部屋を出ていった。


 どうやら明日一緒に学校へ行くことになるらしい。

 僕は机の下で小さくガッツポーズをした。























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