新年度の新天地
朝凪 凜
第1話
四月。それは季節の始まり。それは新たな出発。
今日から新しい学校だ。
新学期。そして、入学式。
小学校の頃はあまり良い思い出も無かったけれど、これと言って悪い思い出も無かった気がする。普段からあまりしゃべらないから黙っているとお人形さんみたいといわれていた。
それは多分この肩までかかる長い髪のせいだろう。
まっすぐ伸びた髪に真っ黒な髪とやや青白い顔。
背はあまり高くない。140cmくらいで前から数えた方が早いくらいだ。
中学生になったら新しく変わろうと思っていた。それが今日だ。
家族以外で周りに知っている人はいない。三月の終わりに引っ越してきたのだ。
だから自分が何者なのか、周りはまだ知らない。新しくなるなら今がチャンスだ。
制服は昨日のうちに用意した。パジャマを脱ぐと少し肌寒い。春というにはまだ朝の寒さが残っている。
インナーシャツを着て、横ファスナーを開いてセーラー服を上から被って着る。なんとか着れたら胸当てを直して、ファスナーを閉じる。リボンは結んだものが付いている。袖のカフスがフックになっていて付けるのに少し苦労した。
姿見で前後を見ると後ろのセーラー襟がめくれ上がっていたからそれを丁寧に直す。髪で隠れていた白のラインが三本、紺色の制服に映えてよく見える。
プリーツスカートはだいぶ長めで、穿くとやっぱり膝が隠れるくらい長い。野暮ったい感じではあるものの、初日から短くするのは悪目立ちするかもしれないから最初はこの長さでいいかもしれない。
改めて鏡で確認する。準備万端。
小学校ではスカートを穿く機会があまりなかったので、新鮮だ。
白のソックスを穿いて、学校指定の鞄を肩に掛けて部屋を出る。
玄関で靴を履く。試着の時しか履いていない真新しいローファー。
いってきます、と声を掛けて、母親と一緒に出掛ける。
その一歩から新しい自分になった気がした。
新しい学校に到着すると沢山の人がいた。正門の前には入学式の大きな看板があって、みんな新入生なのだろう、その前で写真を撮ったりしている。
正門を抜けて昇降口の辺りで大きな紙が貼られている。クラス分けの紙だ。
自分の名前を確認して、親と別れて教室に向かう。
教室には黒板に「入学おめでとう」の文字が綺麗に装飾されて書かれている。
これが黒板アートっていうのかなと思いながら、自分の席に座る。名前順なので、苗字が書かれた紙が机の隅に貼り付けられていた。
そこに座って誰と話すことも無く待っていると、先生が入ってきて、入学式の案内をされる。
名前順で並んだまま体育館にぞろぞろと行き、入学式が始まり、つつがなく終わる。
そして教室に戻ってきて、わいわいがやがやとした教室内を見回す。小学校から一緒の人なのだろうか、小さなグループがいくつかある。
そんななか、後ろの女子から「おはよう」と声を掛けられる。
「おはようございます」
とか細い声で返事をすると、その女子が
「中学になって引っ越してきたから周りに友達がいなくて。よろしくね」
「あ、うん。自分も引っ越してきたから友達とか全然いなくて。こちらそこよろしく」
そんな話とぽつりぽつりとしていたら、先生が教壇に立って、話が始まった。
そして自己紹介をして、出席番号順から自己紹介が始まった。
28番目、自分の番になった。
「緑川那緒です。静岡から引っ越してきました。まだこの辺りの事も分からないのでよろしくお願いします」
そう挨拶すると、先生が一言付け加えてきた。
「ん? 緑川、お前男か!」
そう言うと周りから「わっ」という声が至る所で湧き上がった。その声を聞いて俯いたまま、にやりとした。
新年度の新天地 朝凪 凜 @rin7n
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます