夜の女王のアリア
増田時雨
プロローグ 「ヴァルハラ」
賑やかな大通りから少し外れた小路に、その店はあった。
道に向いた大きな窓からは、整頓された店内の様子がよく見渡せる。
右側の壁一面は本棚になっていて、様々な種類、大きさの本が所狭しと置かれている。
平置きされた本の前には、可愛らしい手書きのポップがゆらゆらと揺れていた。
奥にはシックな色合いの木製カウンターがあり、その上に置かれたサイフォンからは湯気がのぼる。
サーッと朝の爽やかな風が吹き抜けた。
カランコロン、という音とともにガラス張りのドアが開かれ、コーヒーの香りが道いっぱいに広がる。
栗色の長い髪を後ろで結った男性が、黒板のメニューボードを表に出し、”Close"と書かれた看板をひっくり返した。
「さて!」
彼はそう意気込んで、店内に戻っていく。
書店兼カフェ兼代筆屋、そして、復讐代理店である「ヴァルハラ」の日常が、今日も始まる。
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