殺される

物語中毒者

第1話

○○日△時□分。

 最近引っ越したばかりの寮の玄関から飛び出し、門を抜ける

「……やめろ」

 『BOSS』と書かれた青い自販機に沿って曲がったら、緩い勾配の下り坂にさしかかった。

「……やめてくれ」

 あってもなくても気にならないレベルの坂だが、今はそれすらも煩わしい。

「……止まれ」

 急ぎ過ぎて転んだら本末転倒だ、と頭の隅で自分に言い聞かせながらそれでもスピードを落とすようなことはせず、街頭で照らされた一本道を駆け抜ける。

「……止まってくれ、頼む」

 なんとか転ばず走り切って通りに出ると、幸運なことにそこに人はいなかった。

「……お願いします」

 息をつく間もなく、また走る。

「……お願いします!」

 走る。

「……お願い、します」

 走る。

「……」

 なりふり構わず全力で走ったせいで、視界がチカチカし始める。

「……おい」

 しかし、その視界にとうとう人影が写った。

「……おい!」

 いつの間にか俺は、あいつの背中の前まで来ていたらしい。

「……おい‼ やめろっつってんだろ!」

 なんとか届けという思いを持って伸ばした手は、虚空を突き進み遂にあいつに届いた。

「おい聞こえてんだろ! なあ!?」

 あいつの肩を掴み動きを止めた俺は、右手に持っていた刃を振り上げる。

「?! これ以上、進めるなぁ!!!!」

 逆手で持った刃が肉を勢いよく突き破る、そんな嫌な感触が俺の体を巡った。

「……ぁ」

 再度振り上げた刃の液体に覆われていない部分が月の光に反射し、鈍色の軌跡が宙に浮かぶ。

 そんな光景が何度も何度も続いた。

「……」

 しかし、軌跡が宙に浮かぶ度にその輝きは鈍くなる。

 そして、とうとう軌跡は失われ、やはり奇跡は起こらなかった。

「……」

 俺は絶望し、その輝きを失った刃を自らの首に当て、

「……やる」

 全、力、で、

「……ってやる」

引、い、つか 必ず 『お前』を

「呪ってやる」

 殺してやる

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