スキルをよみ解く転生者

55.上級貴族として

ーー・・・コンコン。

部屋の扉が、ノックがされた。

丸顔の女性がドアを開けると、入ってきたのはギルベルトさんと同じ青色の髪もつ、優しそうな雰囲気の1人の男性。

服はギルベルトさんと色違いの黒いスリーピース。色とネクタイが違うだけの、同じ形のスーツだ。

「ギルベルト。珍しいメイクをするお客様が、いらっしゃると聞いたのだがーー・・・おや？」

その男性はギルベルトさんに話しかけながらこちらに歩いてきたが、私を視界に捕らえると首を傾げた。

え？なんなの？

私の顔に何かついてるかしら？？

じっと見られた事に戸惑っていると、男性が口を開いた。

「もしかしてー・・・ジルティアーナ様ですか？」

「！？」

「兄上、この方とお知り合いなんですか？」

まさか名前をあてられ、ただでさえ驚いていたのに、更にギルベルトさんがこの男性を“ 兄さん ”と言った事に驚いた。

髪色以外、全然似てませんね？

そう思って居ると、私の隣に座っていたリズが立ち上がり、男性に礼をとった。

「お久しぶりでございます、ローランド様」

「・・・！ エリザベス様、久しぶりですね。

最後にお会いしたのは、2年ほど前でしょうか？

・・・ということは、やはり貴女はジルティアーナ様なんですね。以前と雰囲気が違っていたので、最初誰か分かりませんでしたよ」

ローランド様は、ジルティアーナの知り合いなの？？

と、ジルティアーナの記憶を探してみると・・・

・・・！！

記憶の中でみつけた。

ローランド様はミランダさんの・・・旦那様ぁ！？

ミランダ様の旦那様のローランドさんとは、今まで2.3回ほど会っただけの関係のようだ。

ジルティアーナがオドオドとしてた事で、ミランダ様に一喝された際に、ローランドさんが庇ってくれた事でジルティアーナのローランド様に対する好感度は、なかなか高かったようだ。

もちろん恋愛として好きになった訳ではなく、単純に

“ こんな優しい男性と結婚できたら、幸せなんだろうなぁ・・・ ”

とミランダさんとローランドさん夫婦の事をジルティアーナは見ていた。

ミランダ義姉様の結婚相手としては、意外なタイプであったが、仲の良いふたりの様子を見て、結婚に憧れたのと同時に

ーー自分にはミランダ義姉様のような幸せな結婚はできないだろうな・・・。

と、将来を悲観してたジルティアーナの記憶を、思い出してしまった。

そんな考えを一瞬の間に巡らせたが、今は目の前にミランダさんの旦那様が・・・ジルティアーナの義理の兄が居ることを思い出し、混乱する思いを表には見せないように挨拶をした。

「ご無沙汰しております、ローランド様。

最後にお会いしてから2年も経っていますもの。私も成人し、色々と・・・変わったのですよ」

心の内を誤魔化すように、顔には貴族の仮面を貼り付け、ニッコリと笑った。

それに対し、ローランドさんも笑顔で言う。

「そうですね、貴女くらいの歳の女性にとって2年は大きいものです。

あまりに綺麗になられていたので、思わず見とれてしまいました」

「あら、ありがとうございます。

でもそれならきっと・・・シエルさんのおかげですわ。先程シエルさんにメイクをしてもらいましたの。きっとそのおかげですわ」

そう言いながら、シエルさん達の方をみると、私達が知り合いだった事に驚いたような顔をしていたギルベルトさんが、表情を笑顔に戻し言う。

「うちの従業員の腕をお褒めいただきありがとうございます。

私共はお嬢様の元々持っていた美しさを引き出すお手伝いを、させて頂いただけにございます。

それにしても兄上が“ 綺麗で見とれた ”なんて・・・ローランド兄上が、妻である義姉上以外の女性にそんな事を言うのを初めて聞きました。

・・・義姉上が帰ってきたら言い付けますよ？」

そう言って探るように、私とローランドさんを見つめた。

それに即座に反応したのはローランドさんだった。

「ギルベルト、誤解するなよ。

この方はジルティアーナ・ヴィリスアーズ様。

義姉上ーー・・・ミランダの妹だ」

「ジルティアーナ・ヴィリスアーズです。

よろしくお願い致します」

にこりと笑い挨拶をした。

・・・これでいいはず。

同じ上級貴族同士ならば義兄を立てるべきだが、ヴィリスアーズ家は上級貴族で、フェラール家は中級貴族の筈だ。

・・・・・・。

・・・うん、そうだった。

ジルティアーナがローランドさんの前でミランダさんに一喝された理由。

『貴女は上級貴族です。

義兄といえど中級貴族の者に対して、そのような気弱な態度でどうするのですか！？』

初対面の男性に緊張してしまい、気弱な態度でローランドさんに接して叱られたんだったわ・・・。

私はこの世界の常識について、ジルティアーナの記憶を頼りに動いているのだが。

何せ、社交についての経験が乏し過ぎる。

人と関わる事が苦手だったジルティアーナ。

リズ以外の人とは、会話することも苦痛だったようで、極力挨拶をする事も避けてきた。

なので、ジルティアーナの経験を活かし・・・ではなく、ジルティアーナの知識として持っていたものを活かすしかなかった。

先程までは、どこぞの下級か中級の令嬢だと思われるように振舞っていたので下手に出ていたが、ジルティアーナ・ヴィリスアーズだと知られたのなら上位者として振舞うべきだろうと思い態度を変えた。

・・・この対応でいいのよね？

と不安に思いリズをちらりと見ると、その心情を察してくれたらしいリズが小さく頷いてくれた。

それをみて私は、心の中で安堵のため息をついたのだった。