第12話 風祭グループ会長と

 はじめに話すことは決まっていた。

 あの会議の中で不可解と思っていたことだ。

 琴乃さんは、それに気づいてないのだろうか?


「最初に少しだけお聞きしたいのですが?」

 会長を真っ直ぐにみるとさっきまで纏っていた威厳というか厳格な雰囲気は消えていた。


「なんでもいいよ。隠すことはない」


 実にフランクな返事に少しばかり安心した。

 なら、気兼ねなく。


「それでは、はっきり言って、あれをする価値はあるのでしょうか?あれば教えてください」


「あれというのは会議のことかな?それなりにある。傘下の企業のプロジェクトを把握できる。それに各社の代表者も私と会うだけで気が引き締まる。それ以外にも……」


 …………なるほど、こりゃ酷い。

 このまま聴いているのは時間の無駄だ。


「いや、それ以上は結構です。簡潔に言わせてもらいますが、無駄が多いし、会議をする意味がない」


「……そうか。なら、おしえてくれ。どこを改善すべきかを」


 チラリと琴乃さんの顔を見ると、彼女はゆっくり、そしてしっかりと頷いた。

 ひでぇ事を言うことになるが、彼女からのOKが出たのなら言ってあげよう。


「一応、言っときます。容赦ないですからね」


「……わかった」


 会長の機嫌を損ねたかと思ったが、琴乃さんの顔に笑みが浮かんでいる。

 続きを待っているようだ。


「まず、説明に使用していた言葉の説明が省かれてましたね。全ての方が同一認識でとられていたか怪しいところです。アジェンダ、コンプライアンス、リソース、プライオリティetc。そこには共通認識があることが前提ですが、その説明がされなかった。それに各社とも部下がリモートビューイングで説明していましたが、それでは会議の意味は無いのと同じ。僕なら自分で説明しますよ。自分の上司に対してですから当然ですし、私が説明出来なければ、それは知らないことと同じです。グループ代表者への発表なら、各社とも特に力を入れている案件でしょう。それを説明できない企業の代表者は不用か無能と思います。それと良い部分のみの報告で終始していましたが、全く改善点や課題などには触れていない。つまり最も重要なことが欠落していました。それはリスク管理です。それ以外にも他社との連携を探り、グループとしての経営展開を打診することでしたが、そんな提案も主張もしなかった。……飾りのトップは目障りなだけです。私なら、ここで自分で説明し、グループでの協力体制を募り、リスクを明らかにして、上司たる会長の指示を仰ぐでしょう。まぁ、簡単ですが、こんなところでしょうか」


 一気に発言したので喉が渇いた。

 テーブル上のお冷やを勢いよく口に流し込む。


 会長は難しい顔つきで考え込んでいる。

 やはり、言いすぎたか。

 しかし、あれでもかなり抑えている。


「お父さん、葵くんは言わなかったけど、私にはまだまだ言いたいことがありますけど?言ってもいい?」


 椅子から立ち上がり、それこそ口を開こうとしている。

 いや、これぐらいにしておいてあげた方が良くないか?


「琴乃、おまえはだまっておれ。葵社長との話が先だ」


 そう言うと、会長は僕の空いている横の席にやって来た。


「少しだけ、我々だけにしてくれ。ああ、ツインズだけは残りなさい」


 ツインズと呼ばれたのはイケメンと美少女メイド。それ以外の給仕は音も立てずにスッと下がった。


 風祭会長は、僕の横に来るなり、椅子を少し引いて僕の方に向いて頭を下げた。


「この前は、すまなかった。それと今日は来てくれてありがとう。先程の指摘は至極的を得ている。私はとても恥ずかしい。これでは業績不振に陥るのも自業自得だ」


 会長は項垂れて、ついさっきまで血色が良かった顔色も今では冴えない。

 やはりショックだったのだろうが、グループ全体が傾く前に手立ては必要だし、その先陣を切るのは、会長たる風祭さんのお父さんだ。ここで迷っていても、後で後悔することになると予測がつく。

 だから、結果として良かったのだ。


「会長、まだ大丈夫です。あなたの娘さんを僕の会社から抜擢して、会長の専属にしてください。グループの運営が持ち直し、再び良い軌道に乗れば、僕の会社に戻してもらえると助かりますけど……。そうはならないでしょうね」


「それは嫌よ。私は葵くんのサポートしかしないし、そうなるべきよ」


 えっ?

 どういうこと??

 何言ってるかわからんぞ!


「わかってないわね。お父さん、葵くんをグループの会長補佐にして、私は葵くんの秘書をすれば一番いいと思うのだけど? 少しだけハードルがあるとすれば、葵くんのお姉さん、つまり私の親友の許可が必要となるんだけどね。少しばかりの出費で何とかするわ」


「…………わかった。葵くんもいいかね?」


 変な流れになりそうだとは思っていたが、なんて無謀なんだよ、この親子は!


「あいにく、ご辞退させて頂きます」


「いや、ダメよ。受けなさい」


 という訳で、手紙屋本舗代表と風祭グループ会長補佐に就任する高校生となってしまった。




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