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のののなの!

第1話 謀られた!


 これはまさかの話ではない。

 普通の高校生2年生の僕が代表者、つまり代表取締役社長ということだ。


 少しばかり経歴を紹介させて頂こう。

 僕、佐藤 葵《さとうあおい》の立案で中3の頃から細々と始め、某方に声をかけたのだから、発起人としては仕方ない訳だが、……この短期間でまさかの急成長となった。


 手紙屋本舗サービス社から

 letters comunity & association company

 Lc&a.com というネーミングに今年から変更する議題を却下した。


 どうやら前々から古参社員の要望であった横文字のネーミングへと改名したかったらしく、その理由は単純なことだった。


 彼女らは横文字の名称にお洒落なイメージを持っていて、憧れていたらしいのだ。


 この会社を上場するのをいいことに僕が知らぬ間に取締役会の議題に社名の変更を取り上げた上、それを却下するのと引き替えに問答無用とばかり、僕が代表者に就任という議決の採択をされた。

 まあ、数の暴力で押し切られたというわけだ。


 今までは、姉と姉の親友との共同経営だったのだが、これからは僕が代表者となる。

 結果として、僕が社長で姉は副社長、姉友は専務に退いた。


 どうも、雑多めんどうごとなことを押し付けられた感がとても強い。

 ひでぇ、あんまりだ。


 どちらに転んでもWin Winという結果なのだろうう。……姉達には。


 心情を表すと『ちくしょー!』というのが最適だ。


 という訳で、不本意ながら社長に決まった。

 もっと言えば、厄介な役割を役員達(姉の友達ら)に押し付けられたということな訳だ。 



 ⭐︎初の取締役会


 気が重い会議が始まった。

 内容は定例会と同じであるが、雛壇に座っているみたいだ。


 ──胃がキリキリする。


 社長就任後、初の役員会において

 粛々と会議は進行し、滞りなく終わるように思えたが、一つ誤算が生じた。


 最後のパート及びアルバイトの採用の採決について、僕は珍しくも異論を挟んだ。


 ちなみにだが、この会社ではアルバイトと言えどもしっかりと人なりを見て選んでいる。というのも後で色々と面倒なことが起こる場合があるからだ。なので役員会での議題とし、最重要事項に位置付けをして取り扱っている。


 この措置は、僕の提案なのだが、実のところ現時点で人材的に頭が痛い事があるから特に慎重になっている。


 人は宝とはよく言ったものだ。

 これが我が社の唯一の社訓である。

 決めたのは、僕ではないけどね。


 前に読んだ本の文中での言葉をパクらせてもらい、さも座右の銘のように掲げている。

 会社という組織には、こういったものが必要なのだ。


 ほぼ3センチは有ろうかという議事録資料をパラ見すると僕の目に止まったのは友坂聖ともさかひじりという名前を見つけ手を止めた。


 そこまで珍しい名前ではないが、香南学園高校という学校名を確認したからだ。


「風祭さん、何故でしょう?」


「何がでしょうか?」


「いや、僕は同じ学校の方を採用しないようにと言いましたよね?」


「はい、そう聞いております」


「なら、どうしてこうなったのですか?」


「社長からは、『なるべく』と言われていましたし、アルバイトやパートさんが足りないのはご存知でしょう?」


「いや、しかし、他に候補はいませんか? 結構な応募があっているみたいですけど」


「確かに他にも応募者はいますが、私はこの方がいいと思ったのです」


 じっと風祭さんの顔を見ていたが、当の本人は至って真面目な顔をしている。


 時間の無駄か、仕方ない。


「……まあ、いいです。僕のことをバラさないなら」


「ええ、承知しました…….。しかし、いずれはわかることでしょうし」


「……その時はその時だよ」


 僕が折れた瞬間、ほんの僅かな瞬間だが、真顔を崩し、ニタりと微笑む彼女の意地の悪い顔には心底参ってしまう。


 こうして、アルバイトの採用は決まった。

 誰も風祭さんの意見に異論を挟む人はいないのだ。


 僕は自分の顔が憮然とした表情になっていることを自覚する。もう少し和かに対応すべきだとも思うのだが、いかんせん対人関係は不得手なため申し訳ないと心の中ではいつも反省している。


 そんな僕を常にカバーしてくれるのが、風祭琴乃かざまつりことのさん。

 今日は意地悪されたが、かなり有能な女性である。


 黒髪ショート、頭の上にはいつも天使の輪が光るほど髪がサラサラで綺麗だ。ショートな髪型は顔立ちがはっきり見える分、その際立った容姿に自信があるのだろう。


 スレンダーなのだが、女性らしさはしっかりと強調されている。そんな彼女に憧れている社員もかなりいるとの噂を聞く。


 とはいえ、会社創設時からのメンバーで専務取締役総務部長兼秘書室長と社内では無双なのだが、若干20歳の大学生という若さ。


 ついでに有名雑誌の読モもこなす、ずば抜けたお洒落さんなのだ。


 それに加え、ダメ押しとばかり都内の国立大学に通う才女でもある。

 ここまで揃えば、普通はおひとり様一直線と断言できるのだが……。


 いかんせん、この人はあざとい。

 それを武器に男性社員からも絶大な人気を誇り、ついでに僕には、親友の弟ということでなのか、単に年下だからか、うざ絡みする。


 一方、うちの会社では、基本的には副業禁止としている。というのも、多くが学生で構成されているからだ。


 しかし、それだからこそ時給を高くしているし、フレックスや在宅勤務も導入している。


 業務内容によっては、大企業のお偉いさんから中学生のギャル、芸能人やスポーツ選手と年齢層も業種幅も広いから、人材確保が大変なのだ。


 風祭さんの読モのアルバイトは彼女の実家と関わりがあるため、これは例外扱いとして処理している。


 ただし例外とする条件として、うちの社のイメキャラとなってもらったが、それを言い出す前に僕の姉からの提案でもあった。

 このことは社内でも周知の事実だ。



 そんな有名人で目立つ存在の彼女の専属アルバイトが僕ということになっている。

 これも社長を引き受ける時の条件で、僕が社長と分かれば明らかに業績が落ちるだろうし、部下の指揮にも影響するからだ。


 だが、社長と秘書の関係で必然的に近くにいなければ、お互いに仕事にならないから、僕と一緒にいる理由を無理矢理ひねり出した結果、この案が1番シンプルで説明しやすいため、採用された。


 まさか僕が彼女の上司だとは、役員と少しの関係者以外は夢にも思わないだろう。


 さて、彼女の説明はここまでとしよう。


 そろそろ仕事場に行こうと、会議室から出ようと重厚な扉のドアノブを掴む時だった。


「社長、どちらへ?」

 すかさず風祭さんから質問が来た。


「仕事場に行くのですが?」


「私に勉強を教えてもらいたいという、お話しはいつになさいますか?」


「就業時間内はまずいと思うので、再度連絡します」


「はい確かに承知しました。しかし、本日は仕事の後に取材の予定があるので、伺うお時間が遅くなってしまいますよ?」


「それって、僕の家に来るということでしょうか?」


「いいえ、そうではありません。社内恋愛は禁止ではありませんが、私は真香まなかの家に泊まりに行こうと思ったまでです」


 ……まなかって、僕の姉さんでしょう!

 即座にツッコミを入れたくなったが、周りの役員がニヤニヤと注目しているから諦めた。


 スッと息を吸って、わざとらしい笑顔を作る。 


「そうですか、遅いのなら僕は寝てるかも知れませんので、その時は悪しからず」

「あっ、そちらの方がわたし的には嬉しいです」


 嬉しいのかいっ!

 うっわ〜、この人寝込みを襲う気なのか?

 鍵かけとこ。


「では、仕事場に行きますね」


「「「いってらっしゃいませ」」」


 会議室内の役員連中から送り出されるが、ほとんどが年上なため、僕で遊んでいるんだと思っている。


 適切な言葉にすると『弄られた』だ。

 その証拠にドアの外に漏れ聞こえる笑い声が心に刺さる。


 毎度のことだが、頭に来るより心を痛める。

 あ〜、胃が痛てぇ。

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