第33話 ひきこもり、焼き肉を喰らう
TV放送された翌日、起きがけにスマホを開き、自分のチャンネルを覗いてみた。登録者が八千人を超えており、慌ててログインし設定を収益化に変更する。
動画のコメントの数も異常に伸びており、コメントの半分は、異世界の存在を訝しむ内容が書き込まれていた。百以上の応援コメントを読みつつ、全員にいいねボタンを押し終わると、思っていたより大きな事になっていると、じわじわと現状が呑み込めてくる。このまま数十万人の登録者数まで膨らみ、あぶく銭で生きていく自分を想像してしまい苦笑した。
それから数週間、一日に百人の登録者を獲得しつつ、一万人を突破して、テレビバブルは弾けた。まあ、弾けたといっても動画を上げれば数千人の再生数が稼げているので、登録者が伸びなくなっただけで、テレビの恩恵は大きいと言えた。
――――「乾杯ーーーーーーーーーーーーーーーイ!!」
俺と健ちゃんは焼き肉食べ放題『ワンカルビ』で祝杯を挙げている。
「本日、我が銀行にユーチューブから『異世界レジスタンス』の収益金が入金されました!!」
「ヒャッホー」
健ちゃんがぱちぱちと拍手を小さく鳴らした。
「一月に二回は、ここに来られるぐらいに、我が組織は成長しました」
「目的はお金ではないけど、見てくれる人が増えることは嬉しいよ」
「異世界の写真はまだ残っているけど、他のコンテンツを上げると動画再生数がグッと落ちるのは問題だ」
「最近始めた異世界語講座は、僕は良いと思うんだけど……」
「異世界語縛りで一月ほど、健ちゃんと馬鹿会話を続けたので、簡単な異世界会話が出来るまで上達してしまったよ。全く役に立たないスキルを増やしてしまった」
「アペルマテルペロリカ」
健ちゃんは網の上で変な形に肉を乗せ、それを箸で突いてみせる。
「ナナチナームルペロリカ」
俺がそう返すと、お互い顔を見合わせ大声で笑う。
※ 翻訳すると消される、エロ猥談です(笑)
「この店は食べ放題だけど、この4080円コースだと結構お高いので、『家族一番』の食べ放題店で僕は良いと思うんだけど」
「健ちゃんには悪いが、1580円の焼き肉、寿司、カレー、デザートを食べられる『家族一番』の食べ放題店では、もう俺の胃袋に喜びは感じなくなってしまったんだよ」
「なっ!?『家族一番』は、
「社会人になると、もっと美味しい物がこの世にあるんだよちみ……」
「ま、まこちゃんが、大人になっている!!」
健ちゃんは、すっとんきょうな声を上げる。
「ちなみに、この焼き肉店では牛肉塩タン、ワンカルビ、厚切りハラミを中心にメニューを組み立てるのが基本だ。ウインナーを注文するのは論外だ」
「ええ~ウインナーは外せないよ!」
「そう言わずに、まずはこの焼き肉三点を食べてから、他の肉を注文するか一考してくれ。もちろんこの店のサイドメニューも十分美味しいので、ウインナーでお腹を満たすのは、お勧めしないわ」
俺は食通漫画の主人公ばりに、うんちくを語る。
――注文を出してから数分後
「健ちゃん! 俺は焼き肉を(じっくり)育ててから食べる派なんで、残してくれぇ~~~~!!」
俺は彼が高速で動かす箸を見つめて絶叫する……。
「焼き肉は少しぐらい赤いほうが美味しいよ! それに、この店のお肉は最高だね」
そう言って、注文した肉を網一杯に重ね並べ、次から次に口に放り込んでいく。仕方がないので健ちゃんの胃袋が落ち着くまで、キムチ盛り合わせでビールを煽った。
「旨っ! このワンカルビ超美味しいね!」
一向に食べる勢いが衰えない……。
「こ、この陣地の肉は取るなよ!」
ついに俺は、網の上に大人げなく野菜の端で小さな囲いを作り、そう宣言せざる終えなかった。
ひっきりなしに定員さんが、俺たちの席に沢山のメニューを持ち込み、ラストオーダーぎりぎりまで健ちゃんは肉をむさぼり食った。しかも味変と称してウインナーやスープ、ご飯物と、信じられないぐらいのメニューを胃袋に納めていた。
「見事な食べっぷりだな……普通の焼肉店に連れてはいけないぞ」
俺は健ちゃんのぺろりと口に消えて行く食事風景を見ながら小さく呟き、地元にあるお勧めの焼肉店に、彼を連れて行かなかったことに安堵する。
「デザートは一回なのは残念だね……」
皿の上の肉が無くなり、手持ち無沙汰になった健ちゃんが、俺の肉を裏返しながら吐息を吐く。
「俺のデザートをやるよ」
やれやれと首を振りつつ、天使の言葉を彼に投げつけた。
「えっ! 健ちゃんも甘いものは、嫌いじゃないよね」
頬を紅潮させ、遠慮がちに尋ねてくる。
「今日は酒が入っているので、大丈夫だ」
彼はそれを聞いて、嬉しそうにメニューに目を通して濃厚クレームブリュレとパフェを注文した。俺は最後にビールを一杯追加し、この大食漢の笑顔をつまみに食事を終えた。
「あー食った、食った。
食べ放題後にありがちな言葉を吐いた。
「ゴチになりました」
健ちゃんは嬉しそうに俺に向かって頭を下げる。店から出ると、呼んでいたタクシーが店の前に止まり、俺たちは焼き肉臭をまといながら、車内に乗り込む。
「タクシーなんか使わずに、妹を呼んだのに……」
「最初に誘わないのも気まずいし、どうせこのまま俺の家でしょ!」
「そうだよね……まだ朝まで時間はたっぷりあるし」
俺は運転手に行き先を告げた。
――――「運転手さん、この先にあるコンビニで止まって下さい」
タクシーが家の近くま近づいたとき、健ちゃんが鼻歌交じりに運転手に伝えた。
「なっ! まだこいつ食べやがるのか」
俺は見た目は学生、実際はおとなの健ちゃんの横顔を、唖然と見つめるほか無かった……。
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