第12話 異世界
王宮に戻るとナービスさんが僕を迎え入れてくれた。
「勇者様、タブラス村奪還の成功おめでとうございます。たった一人で魔人を殲滅したそうで、素晴らしい働きにアンディシャル王も、大変お喜びになっておられます」
「なんとか初陣を飾れて、ホッとしました……」
胸に手を当て、彼女に真情を吐露した。
「本日、王様が宮中で戦勝祝いの晩餐会を催すので、お疲れだとは思いますが、ご参加お願い致します」
彼女は僕に頭を下げて参加を促した。
「礼儀作法とか知らないので、出来れば遠慮……」
「それは私目にお任せ下さい、勇者様に恥を掻かせることは決してさせません。長旅の疲れを落として、ゆっくりお休み下さい」
僕は返事をしないまま、メイドに連れられて旅の汚れをお風呂で落とすことになった。一応一人で洗えますと抵抗したが、数人のメイドに全身を洗われてしまう。湯船には一人で浸かれたが、風呂から上がり着替えるまで、メイド任せの辱めを受けた。
「恥ずかしくて、嫌になったよ」
と、ナタリアに不満を吐いた。
「勇者様に尽くすのが誉れなので我慢して下さい。明日からは私も勇者様のお身体を綺麗にさせて頂きますので宜しくお願いします」
(一人増えたよ!)彼女は僕の顔をじっと見つめて、チャーミングに笑った。
「からかわないで下さい!」
僕は顔を真っ赤にして、彼女に抗議した。
「まだ晩餐会の時間まで、大分あるのでどう致しますか?」
「夕方まで寝かして貰います。ナタリアもそれまで、ゆっくりと旅の疲れを癒しておきなよ」
「まあ気を遣って頂きありがとうございます。それでは晩餐会までに起こしに来ますので、何かありましたらテーブルの上にあるベルを鳴らして下さい。それまで勇者様のお言葉に甘えて、ゆっくりさせて頂きますね」
彼女は僕の部屋から出て行った。ベッドに横になると、どっと旅の疲れが押し寄せてきて、あっという間に深い眠りに落ちていった。
* * *
「勇者様、勇者様……起きて下さい」
ナタリアに身体を揺すられ目が覚めた。目覚めた瞬間、危うく自分の妹の名前を呼びそうになり、一人で赤面してしまう。ベッドから起き上がると、当たり前のように服を着替えさせられる。宝塚歌劇団の男役が着るような、黒い布地に銀の刺繍が施された宮廷衣装に袖を通すと、気恥ずかしい思いをした。
「勇者様、もう皆様がお待ちになっていますので行きましょうか」
ナタリアに急かされ、部屋から飛び出した。
「それなら、もう少し早く起こしてくれれば良かったのに」
そうぼやいて長い廊下を駆け抜ける。
「主役は遅れてくるのが、礼儀となっておりますので」
ナタリアはしれっと答えた。
納得出来ないまま、僕は大人しく彼女の後ろをついて行くと、大広間へと辿り着く。中に入るや否や、大きな拍手で迎え入れられた。するとアンディ王がすっと近づき、僕の肩に手を掛け、声を上げた。
「今宵は勇者の凱旋を、盛大に祝おうじゃないか」
場内は割れんばかりの歓声に包まれた。王の横にいたので、ひっきりなしに招待客が集まってくる。一時間ほどその人たちと挨拶を交わし、へとへとになった。このまま晩餐会が終わるまで、挨拶が続くのかと悲観すると、どうやらアンディ王のほうが疲れたらしく、僕を解放してくれた。
「想像以上に、酷い目にあったな……」
今まで見せた事のない渋い顔で、大さな溜息を一つついた。
ナタリアの案内で、目立たないところまで場所を移し、ようやく食事を口にすることが出来た。
「勇者様、飲み物を取ってきました」
大きなお盆に、沢山の飲み物を載せ僕の後ろに付く。
「ナタリアは、優秀なメイドで助かるよ。これからも僕の力になって下さいね」
彼女の顔が真っ赤に染まった。僕は良い感じで壁のシミに徹していると、突然、女性に声を掛けられた。
「勇者様がこのような隅で食事を召し上がっているなんて、お父様ったら失礼にもほどがありますわ。私が代わりに謝罪させて頂きます」
女性は心底申し訳ないと言う顔を作って、僕に頭を下げる。
「お、王女様ですか!? 初めまして、僕は佐川健二と申します」
慌てて、ぺこりとお辞儀をした。
「あら、私としたことが、名乗りもせず大変失礼しました。アンディシャルの娘、カトリーヌと申します」
光るような金髪を腰まで伸ばし、清楚で青い目をした人形のような女性が、優雅に挨拶をしてきた。
「僕が進んでここに居たから、謝る必要はどこにもないよ」
「あら、勇者様はお優しいのね。異世界から召還された勇者と聞いてたので、蛮族な男を想像して見に来たけど、イメージと違いましたわ」
そう言って、悪戯っぽく笑い声を上げた。
「王女様、アンディシャル王がお探しになっております」
付き人の女性が、彼女の耳元で用件を伝えた。
「まあ、お父様ったら、ここにいなくても私の邪魔をするなんて……。勇者様、またどこかで会いましょう」
彼女はそう言って、人混みの中に消えていく。
「なんて綺麗な人なんだ……」
僕はゲームの世界からから飛び出してきたような、カトリーヌ王女に見惚れてしまっていた。
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