赤き女王と忍び寄る木々 〜前編〜
緊急の謁見を、予定よりも早めるようルージュが一声かけてからしばらく。
静寂に包まれた【謁見の間】では、訓練着から正装へ着替えたルージュが玉座で足を組み、肘掛けを指でコツコツと叩いていた。
そんな苛立ちを隠せないルージュの側に立つのは同じく正装へと着替えたルドルフだ。
使役する狼たちに指令を出し終え、【謁見の間】へ戻れば、目の前には檻に閉じ込められた獣のようにグルグルと歩くルージュの姿。
そんな彼女を落ち着かせるように、玉座に座らせたのがつい先程の話。
少しでも油断すれば、待ちきれない!と、外に飛び出していきそうな女王に、ルドルフは呆れながら張りを続けた。
『遅い……』
「落ち着きなよ。ルー」
二人はアルフレートが迎えに行った、謁見申請者である農家「紅」が到着するのを、今か今かと待ち侘びている。
ルージュの中で、城下町で話を聞いた時に紅が言っていた言葉が、何度も何度も繰り返された。
どうして声をかけられたあの時、部下に帰りを急かされ、それに従ってしまったのか、その場で話を聞いていれば………今、一体何が起こっているのか。
――ええい、らしくない!体を動かせ!!
『もういいっ! ボクが行く!!』
組んでいた足を戻し、痺れを切らしたルージュがルドルフの説得に耳も貸さず、マントを波立たせながら入口へとカツカツと音を立てて歩き始めた。
残念ながら、ルドルフの予想が的中したようだ。
ここでアルフレートと入れ違いにでもなってしまえば……イラついたルージュには睨まれ、アルフレートには説教を食う。
当然、いい事など一つもないのが目に見えている。
「ダ、ダメだって! ルー! 落ち着いて!!」
何としてでもルージュの暴走を止めたいルドルフが慌て縋るように、ルージュの肩を掴んだ、その時。
――ギィィ……
重々しく謁見の間が開かれた。
取っ組み合い状態のルージュとルドルフが反射的に入口へと目をやれば、照らされた光の中から一人の女性が深々と頭を下げてから中へと入ってきた。
「突然の謁見、大変申し訳ありません。女王陛下……!」
『紅さん! 良く来てくれたね!』
ようやく到着した待ち人に、ルージュはルドルフの手を振り払い、部屋の入り口まで駆け寄った。
掬い上げるように紅の手を握り取ると、彼女が怪我などしていないかそっと目配せし観察する。
「アルフレート様にお迎えまで来ていただいて……!」
「構わない。ルーの指示だ」
『そうだよ! 紅さん! 何かあったらすぐに来てってお願いしたのはボクだよ……?』
ひとまずは、彼女の無事と無傷を確認。
人知れず胸を撫で下ろしたルージュは、握っていた紅の手にギュッと力を込めて、そのままコツンと自身の額に当ててから祈りを捧げるように瞳を閉じた。
『突然の謁見申請だって、すぐにボクを思い出してくれたって事でしょう?』
ゆっくりと瞳を開きながら、真っ直ぐと紅の瞳を見据えて、ルージュは琥珀色の瞳を静かに輝かせた。
『ありがとう紅さん、話聞かせてよ。力になりたいんだ』
「ありがとうございます…! 陛下!」
『もー! ボクは女王だけど、【ルージュ】だよ!』
いつになったらすぐに名前で呼んでくれるのさ!と安心したように笑い飛ばしたルージュが、玉座に戻り座ったところで、改めて謁見の時間が始まった。
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