第108話 モンスター軍団VS巨大鮫

 クレハ達が、海底でクラーケンと対峙している頃──海上では、もう一体のフィールドボスが暇をもて余していました。


「ギョショォォ」


 三つの頭を持つ凶悪なサメ、トリプルヘッドシャーク。長いのでコメント等では三首鮫と呼ばれたりするこのモンスターは、普段ランダムに海エリアを遊弋し、近くにプレイヤーが現れれば即座に襲撃をかけるようプログラムされています。


 そんな三首鮫にとって、倒されるでも倒すでもなく、逃げられてしまうというのは屈辱だったのかもしれません。

 本来ならクレハ達がいなくなったらすぐに他の海域へ移動を始めるはずが、この時は少しだけその近くをフラフラしています。


 しかしそこへ、新たな獲物が現れたのを感じました。


「ギョショォ!」


 二度も取り逃がしてなるものかと、三首鮫は猛スピードで感知した獲物の下へ向かいます。


 けれど、それは三首鮫にとって悪手だったかもしれません。


 なぜなら、その先にいたのはプレイヤーではなく、モンスター。


 ドラミとドラコ、クレモン達が誇る最強のドラゴン夫妻だったからです。


「コオォォォ!!」


 開幕一番、ドラミの放った水のブレスが三首鮫の鼻っ面を捉えます。

 会敵早々思い切り弾き飛ばされた三首鮫は、怒りのままにドラミを狙って攻撃を開始しました。


 とはいえ、三首鮫にはブレスのような特殊攻撃はあまりありません。

 その強さの真髄は、海中に好きなだけ潜れる《超潜水》スキルを活かした、三次元の高速機動。

 いくら泳ぎが上手いプレイヤーであろうと動きが鈍るフィールドを活かした、強力な物理攻撃です。


「ギョショォォォ!!」


 本来であれば、それは十分な脅威足り得るはずでした。

 たとえ水棲騎乗タイプのモンスターに乗ろうと、その動きを手綱一本で完璧に操るには相当な慣れがいり、水棲戦闘タイプに戦わせるにしてもボスモンスターほどの軽やかな動きは人の指示で実現出来ないと、運営に判断されたのです。


 しかし、そこは我らがクレモンです。

 ドラミは運営の予想など軽く裏切り、プレイヤーの指示すら受けないランダム挙動でボスモンスターと互角以上の水中機動を見せ付けます。


「ギョショォ!?」


 これには、三首鮫も流石にびっくり。全ての噛み付き攻撃を華麗に躱され、逆に尾びれによる手痛い反撃を受けて海面まで跳ね上げられました。


 それを、空中でじっと待っていたのがドラコです。

 三首鮫の姿が見えるや否や、そこへ全力で《バーニングバスター》を叩き込みました。

 無数の炎が海面もろとも三首鮫を焼き、水蒸気を噴き上げながら大きなダメージを刻み込んでいきます。


「ギョショォ……!」


 たまらず、海中へ避難する三首鮫。

 しかし当然、そこにはドラミが待ち構えており、戻ってきた鮫にすかさずブレスを叩き込みます。


 上下から挟まれ、いいように嬲られるボスモンスター。

 この光景を何も知らないプレイヤーが見たら「わけがわからない」と頭を抱え、そのモンスターの主人の名を知った途端「まあ女神だしな」と諦観の念に至るのは間違いないでしょう。


 ですが、三首鮫にもボスモンスターとしての意地があります。このまま終わってなるものかと、相性的にまだ与しやすいドラコ目掛けて海面から飛び立ちました。


「ギョショォォォォ!!」


 イルカやトビウオ顔負けの、魚類とは思えない大ジャンプ。

 どこぞのB級映画のような面構えも相まって、迫力だけはとんでもないです。


 このままドラコに噛み付き、海中へと引き摺り込むことが出来れば、いかにドラコでもそのまま倒されてしまうことでしょう。


 けれど、そうならないからこそクレモンはクレモンなのです。

 飛んできた三首鮫の噛み付きをひらりと回避したドラコは、そのままがっしりと首を掴み、空中に吊り下げました。


「ギョ、ギョショ?」


 ビチビチと、空中で暴れる三首鮫。なまじ物理攻撃しか出来ないために、こうなってしまえば何も出来ません。


 そこへ、海面から顔を出したドラミが容赦なくブレス攻撃を浴びせかけていきます。


「ギョショォーーー!?」


 動くことも、反撃することすら出来ず、ただ一方的に攻撃されて体力を磨り減らしていくフィールドボス。


 無数に放たれるブレスはドラコにもかかってしまっていますが、一応は探索中となっているモンスター同士の間でフレンドリーファイアは発生しないので問題ありません。

 若干ドラコが涙目になっているようにも見えますが、きっと気のせいでしょう。


「ギョ……ショ……」


 そして、ドラコ以上に散々な目に遭った三首鮫は、もはや体力もあとたったの"2"を残すばかり。気絶状態でポイと捨てられ、海面に叩き付けられます。


 するとそこへ、遅れてモンスター達が現れました。

 犬かきをしながら器用に泳ぐポチと、その背に乗った二体のケマリンです。


「クオォン」

「ポン」「ポン」


 ポチに促されるように、二体のケマリン達は気絶した三首鮫に飛び掛かり、体当たりします。


 状態異常の効果でダメージに補正が乗ったこともあり、二体合わせてぴったり2ダメージを与えられた三首鮫は、見事撃破に至ります。


「ポン!」「ポン!」

「クオォ」


 ボスの撃破を成し遂げ喜ぶ二体を、ポチが労うように鳴き声を上げます。


 ぶっちゃけるなら、こんなラストアタックを取ったところで、大して経験値は入りません。同レベルのケマリンを自力で倒した方が、よほどレベルが上がるでしょう。


 しかし、この「水棲フィールドボスの撃破」こそが、実はケマリンの未知なる進化ルートの条件となっていたのです。


「コオォォ」

「ゴアァ」


 ひと仕事終えたドラゴン達も合流し、クレモン軍団と二体のケマリンは帰途に着きます。


 後に、このケマリンの主人であるどこぞの不幸な女の子が、突如生えた謎の進化ルートに目を丸くすることになるのですが、それはもう少しだけ後のお話です。

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