第102話 宝玉集めと裏取引

「なるほど、それでどうすればいいか分からなくて困り果ててると」


「そうなの。スイレンなら知ってるかなーって」


 スピカ王女に大見得を切った私は、海エリア攻略中だったスイレンをホームに呼び寄せて、ティアラちゃんと一緒に今後の方針について相談を持ち掛けていた。


 というのも、《七海宝物》と一口に言っても、まだその在処は全部分かっていないらしい。どんだけ広いの海エリア。


「今場所が分かってるのは、クレハが見付けた海底神殿の《海竜の宝玉》と、海エリアをランダムに回遊してるフィールドボス、《トリプルヘッドシャーク》から獲れる《海王の牙》、それに《南海諸島》エリアにいる人魚姫のクエストを達成したら貰える《海姫の涙》の三つだけだね。《南海諸島》エリアはイベントが始まるまで影も形もなかったらしいから、イベント開始と同時に実装されたんじゃないかって言われてる」


「へー……」


 人魚姫はいいんだけど、トリプルヘッドシャークってなに? 頭が三つあるサメってことだよね? どんな見た目か想像出来ないんだけど。


「そうなると、残りの四つは自力で探さないとダメかー」


「王女様のクエスト自体、クレハが最初の発見者だしね。《七海宝物》なんて単語自体初出だし、これからみんな本腰入れて探し出すんじゃないかな?」


『宝玉クラスのアイテムを七つも要求するクエストだしな』

『どんな報酬か気になる』

『ゼインも狙ってみるって言ってたぞ』

『あいつは王女様が好みだったからじゃね?』

『割りとロリキャラだったしな』

『クレハちゃんほどじゃないが』


「あははは……」


 ゼインさんのイメージ、凄いことになってるね。普通に良い人なんだけどなー。


「じゃあ、ひとまずもう見付かってる二つを狙いながら、他の隠しエリアを探していく感じかな?」


「まあそんな感じだね。隠しエリアじゃなくて、クエストになってる可能性もあるけど」


「うーん、適当に探し回るしかないのかな? 大変そう」


 まあ、簡単にクリア出来たらイベントの意味がないんだけど、何のヒントもなしじゃ難しいよね。


 そんな風に思っていたら、スイレンに生暖かい視線を向けられてしまった。ほわい?


「海エリア実装初日に、ノーヒントで海底神殿を見付けた女神様はどこのどなただっけ?」


『クで始まってレが間に入ってハで終わる幼女だな』

『幸運の女神さすがである』


「誤魔化す余地くらい残してくれてもよくない!?」


 みんな突っ込みがえげつないよ、私の少ない語彙じゃ何も言い返せないじゃん。


 微妙に拗ねて頬を膨らませていると、そんな私へティアラちゃんが励ましの言葉を贈ってくれた。


「大丈夫、クレハちゃんならヒントなんてなくても、誰よりも早く宝物コンプリート出来るよ!」


 ただし、私への期待がぶっちぎりで重い方に。


 うん、ティアラちゃんは私をなんだと思ってるのかな?


「あーもう、とにかくまずは、《南海諸島》に向かって人魚姫に会うんだよね? 後のことは後に考えるとして、目の前のものを取りに行くよ!」


『クレハちゃんのそういう後先考えないとこ好きよ』

『行動力あるよね』

『発想はおバカなのになぜか上手く行くからな』


「おバカ言うなーー!!」


 いや、実際私はバカだけども! それでももうちょっとオブラートに包むとかさ!


「よーし、それなら《南海諸島》には私が案内しようか。いいよねクレハ?」


「うん、いいよ」


「え!?」


 私が頷くと、ティアラちゃんは首が取れそうなくらいぐりん! と勢いよく私の方を見た。


 あれ、なにかマズイこと言った? ……あ、二人きりでイベント攻略したいって話してたの、すっかり忘れてた。


「ごめんねティアラちゃん、埋め合わせはまた今度するから」


「う、うん、大丈夫」


 大丈夫とは言うけど、やっぱり少し残念そう。


 うーん、埋め合わせ、どうしたら喜んでくれるかな……?


「まあまあ、そう落ち込まないでティアラ。私にも少しくらいクレハの水着衣装拝ませてよ。代わりにクレハの……ごにょごにょ……あげるからさ」


「っ……!? ほ、本当ですか?」


「もちろん、私はクレハの幼馴染でもあるんだよ? 余裕余裕」


「スイレンさん、お姉様と呼んでもいいですか?」


「オッケー!!」


 私が悩んでいる間に話が纏まったのか、スイレンとティアラちゃんががっちりと握手を交わす。


 よくわかんないけど、ティアラちゃんが納得してくれたならいいのかな?


「そ、その、クレハちゃん」


「うん? ティアラちゃん、どうしたの?」


 すると、ティアラちゃんはどこか顔を赤らめながら、私におずおずと声をかけてきた。


 ぼそぼそと聞き取りづらいから耳を寄せると、ティアラちゃんは意を決したように一息で叫んだ。


「い、いくら仲が良いからって……スイレンさんの前で着替えたりするのは危ないと思うの!!」


「?????」


 唐突過ぎて意味がわからないそれに首を傾げる私と、それはどういうことかと盛り上がり始めるコメント欄。


 混沌とする状況が落ち着いたのは、それからしばらく時間が経ってからのことだった。

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