第89話 宝石誘導と海竜テイム
「……あれ?」
いつまで経っても死に戻らないことに疑問を覚え、ゆっくりと顔を上げる。
すると、そこには私が適当にぶちまけたアイテム……特に、これが終わったらドラコにあげようかと思っていた宝石の一つを口の先で器用に掴み上げ、キラキラとした瞳でそれを見つめるアクアドラゴンの姿があった。
もしかして……アクアドラゴンもドラコと同じで、お宝に目がないの?
「なら、これを利用すれば……!」
ドラコみたいに、テイム条件が整うかもしれない。
そうでなくとも、うちのモンスターのみんなが復活する時間稼ぎにはなるかも!
「そうと決まれば……行くぞーー!!」
そんな希望を胸に、私は走り出す。
同時に、インベントリからまだ残ってる宝石を取り出して、目一杯上に掲げて見せた。
「ほら! あなたの大好きな宝石なら、まだまだいっぱいあるよ! 欲しければ私と遊びましょー!!」
「コオォォ!!」
「ひゃあ!? やっぱ無理かもーー!!」
アクアドラゴンが私の声に反応して振り向いた瞬間、掲げた宝石を遠くに向かってぶん投げる。
それに釣られ、勢いよく滑っていく水竜の姿を見送りながら、私は急いで倒れているモンスター達の元へ。
「えっほ、えっほ……!」
『クレハちゃん頑張れ! 走れー!』
『見ててもどかしくなるほどに遅いw』
『やっぱ水の中だと上手く走れないのかね』
『そりゃあ腰の辺りまで浸水してればな』
『もはや泳いだ方が速いのでは?』
『クレハちゃん泳げない件』
『せやったわ』
『てか水位上がってね?』
ばちゃばちゃと、水をかき分けながら一生懸命前に進む私に、視聴者のみんなは口々にそんなことを呟く。
確かに、この戦闘が始まってすぐの頃に比べて、水の位置が高くなってる気がする。
ってことは、これってあんまり時間かけたら私溺れて死んじゃう!?
「なら、まずはキュー太からだね! キュー太ー!」
「キュー……」
ヘロヘロになってひっくり返っているキュー太を起こし、ポーションをかけて体力を回復させる。
けど、どうにも最初ほどの勢いはなく、ぐったりしたままだ。
うーん、どうすれば……あ、そうだ。
「ほらキュー太、これ食べて元気出して!!」
「キュ……?」
いつもみんなが嬉々として食べている私の料理、その中でもお手軽に食べられて人気が高いキノコとアークミノタウロスのハンバーガーだ。
「コオォォォ!!」
「やばっ、もう来た!!」
移動に時間をかけすぎたのか、私が投げた宝石を回収し終えたアクアドラゴンが戻ってきた。
早くしないと今度こそやられる。
そう焦る私の手から、ハンバーガーをパクリと食べたキュー太は……。
「キューー!!」
「わわわ!?」
唐突に元気を取り戻し、私を乗せてその場を急速離脱した。
辛うじて難を逃れた私は、そのまま振り落とされないようにキュー太にしがみつきつつ、宝石を適当に投げて時間を稼ぐ。
「キュー太、今のうちにポチとドラコを助けるよ! お願い!」
「キュー!」
私のお願いを受け、キュー太が超特急でかっ飛ばす。
うん、振り落とされそうだからもうちょっと手加減をね!?
「コオォォォ!!」
「ぐえっ」
そんな私達に向け、再び放たれる水のブレス。それを、キュー太は急旋回で回避した。
当然、私は振り落とされそうになるんだけど……なんとキュー太は、私が水面スレスレになるまで体を傾けることで、遠心力に振り回されてもキュー太自身の背びれが引っ掛かって吹っ飛ばないように工夫してくれたのだ!
代わりに、慣性に潰されて変な声が出たけど。
まあ、ブレスが回避出来たからよしとしよう。
「キュー! キュー!」
「う、うん、今やるからね……」
今にも目を回しそうな水上レースを繰り広げる傍ら、キュー太がついにポチの前に滑り込んで急ブレーキ。
振り回され過ぎて頭がぐわんぐわんなりながらも、私は大急ぎでポチの手当てを終わらせた。
「クオォォン!!」
「コオォォォ!!」
復活したポチが、アクアドラゴンに再び立ち向かう。
けれど、さっきだってキュー太の援護があってようやくギリギリだった戦いだ。いくら私が宝石を投げて気を引いたところで、ポチ一人じゃ厳しい。
「ドラコーー!! ほら、いつまで寝てるの、早く起きなさーい!!」
「ゴアァ……」
なので、戦闘開始早々にダウンしてからずっと寝てたドラコを、ポーションできつけして、叩き起こす。
それでもいまいち反応が鈍いから、私は耳元で思いっきり叫んだ。
「もう、ドラコが早く戦ってくれないと、用意してたキラキラアイテム、全部あのドラゴンにあげちゃうよ! 寝てる間にもうほとんど投げちゃったし!」
「ゴアァ!?」
よっぽど驚いたのか、ドラコが一気に飛び起きる。
まるで遅刻寸前の子供みたいに大慌てで戦闘に戻るドラコだけど……うん、実際、宝石ほとんど残ってないんだよね。チュー助がまた拾ってきてくれることに期待して?
「よし、ドラコも戦闘に参加してくれたし、最後の仕上げ……! キュー太、あそこ目指して!」
「キュー!」
ドラコがまたボコされ、そんなドラコを囮にポチが奮戦している隙に、私が目指すのは中央の祭壇。
そこに奉られた、青い宝石だ。
「そこのドラゴンさんー!! あなたのお宝は頂いたー!!」
「コオォ!?」
水浸しでぴくぴくしてるドラコに今まさにトドメを刺そうとしていたアクアドラゴンは、私の言葉に驚いたように顔を上げる。
それにしてもドラコ、本当に水が苦手なんだね。ドラコが戦闘でいいとこないなんて珍しい。
まあ、そんな日もあるかと特に気にしないことにした私は、改めてアクアドラゴンに向けて語りかける。
「返して欲しかったら、私の仲間になりなさーい!」
「コオォォ!!」
「嫌でもなってもらうからね!!」
私に向かって大声で鳴くアクアドラゴンに、思い切り叫び返す。
いや、本当のところは嫌がってるのかそうじゃないのかわからないけど、流石に向こうからテイムされたがるなんてことないでしょ。めっちゃ攻撃してくるし。
「うりゃー!!」
そんなわけで、私は手にした宝石を上空に向かってぶん投げた。
その凶行に釣られたアクアドラゴンが顔を上げ、無防備になったところで、私は杖を構える。
時間稼ぎの甲斐あって、CTはもう開けてる。
さあ、行くよ!
「《炎精霊の杖》発動! 更に、《応援》!! ドラコ、ポチ、やっちゃえーー!!」
杖を使って、ランダム状態異常を付与。
その効果は……ドラコが《炎属性攻撃アップ(極大)》、ポチが《知力アップ(極大)》、アクアドラゴンが《防御ダウン(極大)》!
よし、完璧!!
「ゴアァァァ!!」
「クオォォン!!」
「コオォォォ!?」
ドラコの《バーニングバスター》とポチの《ライトバスター》が直撃し、アクアドラゴンの体力が大きく削れる。
まだ倒しきれてはいないけど、水面にバシャリと倒れ込んだその体に急いで距離を詰めた私は、今度こそとばかりに手を向ける。
「《テイム》!!」
『アクアドラゴンをテイムしました。名前をつけてください』
こうして私の、TBO二度目となるドラゴンとの対決は、無事に大勝利で幕を閉じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます