第87話 安定攻略と水の竜
海底神殿に出現するのは、基本的にサハギンばかりだった。
奥に進むごとに、サハギンソルジャーとかサハギンアーチャーとかのバリエーションが生まれ、連携とかもするようになってきたけど……うちの子には及ばない。
元気よく泳ぎ回りながら戦うキュー太、壁を駆け抜けながら援護するポチ。
そして、何か吹っ切れたように大暴れするドラコ。
「ゴアァ!!」
放たれる《バーニングバスター》によって、サハギン達が一瞬で蒸発する。
属性の相性は悪いはずなんだけど、そんなことお構い無しのこの威力。
うーん、さすがうちの子でも最強のモンスターだね!
『ドラコ強すぎなんだよなぁw』
『やっぱり俺もフレアドラゴンのテイム挑戦しようかしら……』
『あれは沼だぞw』
『そもそもクレモンのドラコを見て普通のフレアドラゴンをテイムするのはやめとけ、同じ動きなんて出来っこないから』
『せやな……』
コメントにも、ドラコを褒め称える(?)言葉が続き、なんだか私まで嬉しくなってくる。
ふふん、私は弱いけど、うちの子は強いからね! もっと褒めて!
「それにしても、随分奥まで来たけど……そろそろボスかな?」
きょろきょろと辺りを見渡しながら、私は呟く。
サハギン軍団はうちの子が全部処理してくれたし、ダンジョンということで罠があったりはしたんだけど、例によって私が踏んだら悉く動作不良で機能しなかったから、今のところ苦戦らしい苦戦もしていない。
『新エリアなのにクレハちゃんすごくこう安定感あるな』
『転移罠とかモンスターPOP系の罠踏んでも作動しないんだからそりゃあな』
『凶悪な罠が結構あるのに何一つクレハちゃんに通じないの笑う』
『これが女神の力』
『これはこれで見てて面白いけどほんと自分の攻略の参考にはならないw』
『これはボスも余裕か』
『運営涙目』
「あはははは……」
いやうん、罠を考えた運営の人はごめんなさい。わざとじゃないんです。
正直、作動しなくて助かってるからなんとも言えないけど。
「でもまあ、流石にボスは苦戦するでしょ。……するよね?」
思えば、ドラコをテイムしてからはボス相手でもあまり苦戦らしい苦戦はしてない気がする。
イベントの最後に戦ったカモネキングは大変だったけど、あれは例外みたいなものだし。
その前にやったレタスカイザーなんて、ドラコ一人で倒しちゃってたしね。
油断はよくないけど、少しくらいは気楽に構えていてもいいかもしれない。
「っと、ここがボス部屋……なのかな?」
そんな風に、何なら鼻歌交じりで攻略を進めた私は、ついに開けた場所に到達した。
これまで同様、膝下くらいまで浸水してるのはそのままで、何本もの柱が並び立つ玉座のようなその場所は、中央に何やらこれ見よがしに宝石みたいなものが奉られている。
あれ、このエリア攻略の報酬だったりするのかな? それとも単なる演出?
そんな風に考え込んでいると、神殿内部に甲高い咆哮が轟いた。
「コオォォォ!!」
ビリビリと神殿が震え、天井からパラパラと石屑が降ってくる。
雨漏りというには多すぎる量の水が降り注ぎ、それに合わせて一体のモンスターが舞い降りた。
まず目につくのは、ドラコとよく似た大きな体。
背中に生えた翼は空を飛ぶというより海を泳ぐヒレのような印象を見るものに与え、全身を覆う鱗も爬虫類というよりは魚に近いぬらりとした光沢を放つ。
攻撃的で力強いドラコに比べ、細身で流麗なシルエットは綺麗とか美しいって言葉が相応しいけど、不埒な侵入者たる私を睥睨する縦長の瞳には、王者としての貫禄が宿っていた。
アクアドラゴン。
ドラコと同じ、このゲームでも最強クラスのモンスターの一角が、私の前に現れたのだ。
「これ、ひょっとしてヤバいんじゃ……?」
ドラコがいれば大体のボスはなんとかなるでしょ、と思ってたけど、さすがに同じドラゴン相手、それも属性相性で負けてるとなれば辛いかもしれない。
ドラコも同じ気持ちなのか、心なしかアクアドラゴンを見て震えてる気がする。
とはいえ、ボス戦が始まっちゃった今、逃げることも出来ないしなー。どうしよう。
『まさかのドラゴンか』
『これドラコと同じ枠?』
『ワンチャンテイム出来るのかな』
そんな時、視聴者のみんなからそんなコメントが付けられた。
そっか、ドラコの時みたいにテイムしちゃうのもありなのか。
それなら、倒すよりは簡単かもしれない。
「行くよドラコ、勝てなくてもいいから頑張って!」
「ゴ、ゴアァ……」
「《応援》! それから、《炎精霊の杖》発動ーー!!」
ひとまず、いつものコンボでドラコを支援し、開幕一番の先手を取って貰おう。
そんな考えで発動した杖の結果は……。
アクアドラゴン:炎耐性アップ(特大)
ドラコ:炎属性攻撃ダウン(大)
キュー太:敏捷アップ(小)
ポチ:筋力アップ(中)
「ぶーーー!?」
『なん……だと』
『女神がランダムバフに失敗した!?』
『こ、このアクアドラゴン……出来る!!』
思わぬデメリットが発生し、ただでさえ不利だったドラコが更に不利になる。
けれど、そんな結果だからと相手が待ってくれるはずもない。
アクアドラゴンは大きく口を開け……そこから、激流を伴うブレスを吐き出してきた。
「コオォォォ!!」
「ゴ……ゴアァ!!」
それに対抗するように、ドラコもまた《バーニングフレア》のスキルを使い、炎の塊を放つ。
けれど、属性不利の上にデバフまで乗った状態で、ボスの攻撃に勝てるはずがない。
一瞬拮抗したかに見えた炎のブレスはあっさり打ち消され、水のブレスがドラコを直撃した。
「ゴアァァァ!?」
「ドラコー!!」
まともに受けたドラコは大きく吹き飛び、体力ゲージを一気に半分以上削られてしまう。
結果、《気絶》の状態異常に陥ってしまい、完全に行動不能となってしまった。
『やべえ、クレモン最強のエースが一撃でやられたぞ』
『これは……流石にクレハちゃん、詰んだのでは?』
未だ無傷のアクアドラゴンに対し、こちらは一人欠け、一人は生まれたての赤ちゃん(?)イルカ。
そんな状態でつけられた極自然なコメントに、私は反論の言葉が何一つ見付けられず、乾いた笑みを浮かべるのだった。
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