第85話 海底神殿と水場戦闘
「キュー!」
「クオォン」
「あ、キュー太、ポチ!」
私が目の前の宮殿──《海底神殿》に驚いて固まってしまっていると、少し遅れてキュー太とポチが海壁(?)を突き破ってやって来た。
ポチ、こんなところまで潜って来れたの? 君陸上モンスターだよね? どういうこと?
まあ、細かいことは気にしても仕方ないか。
「キュー、キュキュー!」
「あはは、どうしたの? 私が振り落とされたことなら、いつものことだから気にしなくていいよー」
「キュー!」
足元に、膝下程度まで溜まった水を掻き分けるように、キュー太が素早い動きで私にすり寄って来る。
あはは、かわいいやつめ。
『お前が可愛い』
『イルカと戯れる幼女の図』
『永久保存だわ』
「はいはい。しかし、これからどうしよう」
いつものように煽ててくるコメントを軽く流しつつ、これからについて考える。
目の前には未知のダンジョン、後ろには海面も見えない深い海の底、正直進むも戻るも大変そうだ。
特に、ドラコは海に飛び込んだせいか、どうにもオロオロと落ち着かない。
こんな状態でまた海を突き破って帰ろうなんて言えないよね。
『まあ、ダンジョンなら最深部まで攻略すれば帰還用のポータルあるでしょ』
『狙ってみては?』
「うーん、そうだね。一人だと少し不安だけど、せっかく来たんだし……いっちょやってみよっか!」
私の宣言に、コメント欄も大盛り上がり。その言葉を待っていたと言わんばかりだね。
うちの子達も、キュー太とポチはやる気満々で付いて来てくれてる。
ドラコだけはちょっとテンション低いままなんだけど、大丈夫かな?
まあ、ついて来てはくれてるし、大丈夫か。
「というわけで、中まで来たけど……やっぱり歩きにくいね、これ」
じゃばじゃばと水を足で蹴り上げながら、私はぼやく。
この海底神殿、海の中にあるだけあって建物の中まで半ば水没していて、溺れるようなことはないけどすごく歩きにくい。
こんな状態でモンスターに襲われたら、逃げようとした瞬間転びそうだよ。
「仕方ない、キュー太、また乗せてくれる? でも、急に走っちゃダメだからねー」
「キュー!」
任せろと言わんばかりに向けられた背中に跨がり、スイーっと進む。
うーん、やっぱりこっちの方が楽だね。
またさっきみたいにはっちゃけられると、少し困るけど。
「あ、出たねモンスター」
そんなことを言っていたら、奥から三体のモンスターが現れた。
なんて言ったらいいんだろう、足が生えて二足歩行になったお魚が、槍を持ってる……みたいな見た目?
サハギンって名前のモンスターだけど、この海底神殿の警備員みたいな感じなのかな。
そんな私の予想も、そこまで的外れでもないのか。こっちに気付くや否や、猛然と襲い掛かってきた。
「よーし、それじゃあ早速、ポチとドラコで……ほげっ!?」
数の上では同数(私自身は最初からノーカウントだ)だけど、キュー太はまだ生まれたばかり。
ここはポチとドラコで倒して先に進もうと思って声を出した瞬間、キュー太は私は振り落として突っ込んでいった。
ばちゃーん! と派手な水飛沫を上げてずぶ濡れになる私を余所に、キュー太は素早い動きでサハギン達を翻弄し、《水鉄砲》スキルで果敢に攻撃を仕掛けていく。
うん、キュー太、その動きはすごいけど、少しは私のことも省みて欲しいな。急に走らないって言ったばっかりだよ?
まあ、あれだけ生き生きと戦ってるところを見ると、突っ込みを入れるのも野暮かなって気になるけどね。
『クレハちゃん、すぐずぶ濡れになるなw』
『こんだけ振り落とされてればそりゃあね』
『ここならいいけど、外だとすぐにまた溺れそうだな』
『これはやはり早急に水着がいる案件。それも泳ぐのに補正乗るようなやつ』
『ティアラちゃんに期待』
水を滴らせて戦闘を眺める私に、視聴者のみんなは口々に意見を述べる。
うん、そうだよねー。私の場合、海エリアだと見栄えとか云々より、シンプルに溺れないために水着がいりそう。
浮き輪みたいな機能がつくスキルとか、ないかな?
「クオォン!!」
私があれこれと考えている間に、キュー太の攻撃で勢いを減じたサハギン達に向け、ポチが襲い掛かる。
私がこれだけ苦戦してる水没した足場だけど、なんとポチは神殿の壁を駆け上がることでそれを解決、空から攻撃を仕掛けたのだ!
いや待って、そんなこと出来るの?
えっ、スキル《壁走り》? いつの間に習得したのそれ。
えっ、この前のイベントでレベル上がった時に覚えたって? うん、嬉しいけどちゃんと教えて! いや、チェックしてなかった私が悪いけど!
「ゴエェェ!?」
そんなポチの攻撃によって、三体いたサハギンはあっという間に全滅。
見事、海底神殿の初戦を大した被害もなく突破出来た。
「よし! ポチ、キュー太もナイス! よくやったねー」
「キュー!」
「クオォン」
頑張った二体を褒めてあげると、嬉しそうにすり寄って来る。
おーよしよし、後でご褒美のご飯あげるからねー。キュー太はそういえばまだ食べてなかったね、楽しみにしててね。
「ゴアァ」
「あはは、ドラコもさっき助けてくれたから、ちゃんとご褒美あげるよ、心配しないでね」
唯一戦闘に参加してなかった……というか、する暇もなかったドラコにそう声をかけるも、あまり反応がない。
本当、さっきからずっと反応が鈍いけど、大丈夫かな?
ゲームだから体調が悪いとかはないと思うけど……うーん、今回の冒険が終わったら、ドラコが好きなキラキラ光る宝石系のレアアイテムをあげようかな。確か、チュー助が拾ってきてくれたやつがいくつかインベントリに入ったままだったし。
そんなことを考えながら、私達は神殿の更に奥へと足を踏み入れるのだった。
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