第77話 アホの娘クレハと決死の特攻
「空だ、空を狙えーー!!」
「レタスは降ってくる前に撃ち落とせ! そうすりゃ後はボスをボコるだけだーー!!」
「やれやれーー!! ……ん? ちょっとまて」
「どうした?」
「女神、何しようとしてるんだ?」
地上でワイワイと戦闘が繰り広げられるのを横目に、私はスイレンと一緒に王様の頭上にまでやって来ていた。
「ねえクレハ、本当にやるの?」
「やる! もうお空のジェットコースターはお腹いっぱいだから、ここで決着つけるの!」
「いくらバフ乗せても、クレハのステータスじゃ無理だと思うなぁ」
「やってみなきゃわからないでしょ!」
ふんす、と鼻息を荒くしながら、私が構えるのは《呪怨の大剣─カースドバスター》。
調合料理による《桜特攻》スキルに加えて、《魔力回復薬・毒》によるランダム状態異常で、《筋力アップ(極大)》と《バーサーカー》を引き当てた。
ついでに、地上で戦ってるティアラちゃんには、タイミングを合わせて同じく毒を飲みまくって、どうにか《防御ダウン》系の状態異常を一瞬だけでも王様カモネギに付与して貰うよう頼んでおいた。
いくら私のステータスが低くても、これだけやればダメージも通るでしょ!
「それじゃあ、お願いねスイレン!!」
「りょーかい。……ジェットコースターが嫌だから降ろして、じゃなくて、嫌だから最後の一回で勝負を決めようって発想がクレハらしいよね。アホの子というか」
「スイレン、何か言った?」
「なんでもない」
笑顔で振り返ると、スイレンはデレ、と表情を緩めながら否定の言葉を紡ぐ。
……おかしい、笑顔で脅したつもりだったのに、なぜか喜ばれてしまった。
私の笑顔に迫力は宿らないのか。ぐぬぬ。
「それじゃあ、行くよクレハ。体は私がしっかり堪能……こほん、押さえておくから、剣を離さないようにだけしっかり構えておいてね」
「うん!」
真横に向かって私が剣を伸ばすと、そんな私の体をスイレンがガッシリと抱き締める。
ちょっとスイレン、ちょっと強すぎて苦しいよ。あと首元でそんなに鼻息荒くされるとくすぐったい。
「スカイ、GO!!」
そんな私の内心の苦情など知る由もなく、スイレンはスカイに指示を下す。耳元でうるさい。
それに合わせ、再び始まる急降下。
怖いけど、これがラストだと思えば踏ん張れる!
『ティアラちゃん、お願い!!』
『う、うん……!!』
降下に合わせてフレンドチャットの通話機能を使い、ティアラちゃんにタイミングを合わせて貰う。
ティアラちゃんは……言ったらアレだけど運が悪いから、作戦にこのデバフを組み込むのはよくないんじゃ、と懸念を口にしていたけど、きっとどうにかなる!
「グエー!」
姿は見えないけど、ティアラちゃんのデバフが刺さったんだろう。王様にステータス異常が発生する。
その効果は……《防御ダウン(極大)》! おお、完璧だ!
「グエッ、グエー!」
デバフを受けたことでピンチだと思ったのか、迫る私達に向かって王様から繰り出される野菜投げ。
一発でも直撃を貰ったら死に戻りそうだけど、ここは回避を最小限にしてスピード重視。
なんでも、このゲームのダメージは当て方とか速度とかでもほんの少し補正が入るらしいから、それを最大限活かす腹積もりだ。
……この速度で激突したら、まず間違いなく落下死の判定入ると思うけどね!
でもまぁ、大丈夫。私には《不死の加護》があるからね、一発だけなら耐えられる!
「いっけぇーーー!!」
そんな感じの公算で王様の頭に突っ込んでいくと、奇跡的に野菜投げの軌道が逸れ、私達には全く当たらなかった。
なんだか、今日はいつにも増して運が良い気がする、これなら行ける!!
確信を抱きながら、私は王様の頭へと全力全開の一撃をお見舞いする。
大剣と王様の巨大な頭が激突し、当たり判定が発生。果たして結果は……!?
ダメージ:1
やった、初めてモンスター相手にダメージ通ったーー!! ……って、低!? これだけやってたった1ダメージ!?
ちなみに、参考までにドラコやスイレン達の攻撃によって発生するダメージを教えておくと、5000とかそのレベルだよ。うん、全然違うね。
あまりにも酷い、そしてある意味予想通りの結果に、トホホ、と肩を落とし……そんな私に、叩き付けた剣が跳ね返って来た。
「ほえ?」
一応、激突の衝撃で落下死しないよう、本当にギリギリすれ違うようにスイレンは飛んでくれていた。
だから、そのダメージは発生しなかったんだけど……私の筋力じゃ、剣を支えきることが出来なかったみたい。
勢い良く弾かれた剣は、そのまま私の顔面に激突。当然、そのままダメージが発生し──私の視界は、暗転した。
「ほえ?」
ぱちくりと、目を瞬かせる私の前に広がるのは、中央広場の景色。
何が起きたのか、いまいち掴み損ねている私に対し、ログは正確にそれを教えてくれていた。
──You Died
「え?」
見渡せば、すぐ傍には戦っていたはずのうちのモンスター達が。
どこか困惑した表情を浮かべるその子達に見つめられ、ようやく私は状況を認識した。
私、死に戻っちゃったみたい?
もしかして、《不死の加護》が不発になっちゃった?
うん、なるほど。
「えぇーーー!?」
完全に予想外のオチで、肝心なところで戦線を離脱してしまった私は、中央広場で思い切り絶叫を上げるのだった。
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