第61話 指揮官プレイとカモネギソルジャー

 第二階層をあっさり突破した私達は、そのまま第三、第四階層とサクサク進む。


 存在すら忘れてた《桜特攻》のスキルが思ったより強かったのと、うちの子達がその強化を無駄にせずめちゃくちゃやる気出してるのが大きいね。


 こういう時、いつもは最初やる気出さず、ここぞの時に活躍して話題をかっさらうのが定番だけど、今日はどうしたんだろ?


 ……調合で作った桜野菜料理が美味しかったから、もっと食べるために気合い入れて野菜集めしてるとか?


 だとしたら、本当に食いしん坊だねうちの子は。


「さて、次は最後の階層かー……ボスってどんなのだろ」


 そんなことを考えながら、呟くのは次に戦うボスのこと。


 いくら《桜特攻》がついてると言っても、流石にボスを瞬殺は出来ないだろうし。


 そうでなくとも、私がやられたらモンスターがいくら強くても意味がないから、どんな相手だろうと警戒するに越したことはない。


「ふふふ、それは出会ってからのお楽しみってことで。システムはともかく、敵の情報まで私が全部喋っちゃったら楽しくないでしょう?」


「まあ、それは確かに」


 お姉ちゃんもこのゲームの全部を丸暗記してるわけじゃないだろうけど、普通のプレイヤーが知らないようなことをいくつも知ってる。


 それを私が聞き出して自分の攻略に役立てるのは、ちょっと違うよね。

 お姉ちゃんと一緒にプレイしてる時点で今更かもしれないけど。


「それじゃあ、ボスが出て来たら私が指示を出すよ。いつもいつも、いてもいなくても変わらないみたいな扱いだからね。ここらで少し練習して、次の配信で指揮官としての素質があることをみんなに見せつけてあげる!」


 私の指示よりモンスターの自己判断の方が正しいとか、これまで散々な感じだったけど、練習すればきっと改善するよね。


 成長した私の姿に驚く視聴者のみんなを思い浮かべながら胸を張っていると、そんな私にお姉ちゃんはなんとも温かい眼差しを送る。


「ええ、そうね。クレハちゃんも頑張って練習すれば、指揮官プレイだって……きっと……いずれ……(私がフォローすれば)出来るようになるわ!! ……多分」


「うん、がんばる!!」


 お姉ちゃんにも素質あるって褒められた! よーし、やるぞー!


 拳を振り上げ、気合いを入れる私の頭をなぜか涙ながらに撫で始めたお姉ちゃんに首を傾げつつ、第五階層を進む。


 ここは今までと少しばかり趣が違って、畑というより草原に近い場所。

 そんなエリアの中心に、デデーンと鎮座する一体のモンスターがいた。


「クエッ、クエーッ!」


 見た目は、ほぼ普通のカモネギバードと同じ。

 ただ、そのサイズ感が全然違う。


 普通のカモネギバードが人の腰くらいの大きさなのに対して、このモンスターは人の倍くらいの背丈がある。

 一体につき一つしか持たないのが普通の野菜を両手(翼?)に持ち、桜ネギの二刀流みたいな攻撃的(?)なスタイル。


 目のところにも傷みたいなのが入っていて、ちょっとグレたヤンキーみたいな印象になってる。


 その名も、カモネギソルジャー。

 それが、このインスタントダンジョンのボスの名前だった。


「さーて、クレハちゃん。まずはどうする?」


「え? えーっと……」


 カモネギソルジャーを前にして、お姉ちゃんが私に指示を仰ぐ。


 そうそう、私が指示しなきゃ、指揮官じゃないよね。

 とはいえ、まだ戦闘が始まったばっかりだし……ここは……。


「とりあえず……全軍、突撃ーー!!」


「えっ」


「キュオオ!」

「クオォン!」


 私の指示を受けて、ピーたんとポチが突撃していく。


 正面から突っ込んでくる二体のモンスターに対し、カモネギソルジャーが取った行動はシンプル。

 手にした二本の桜ネギを振りかざし、迎撃のために叩きつけて来た。


「クエーッ」


 ズズンッ、と振動を立てて地面を叩く桜ネギ。でも、ポチとピーたんはそれをひらりと躱し、一気に懐へ。《切り裂く》のスキルで逆にダメージを与えた。


「ああ、うん、クレハちゃんのモンスターだものね、回避行動も勝手にやってくれるのよね。……じゃあ、大丈夫そうだし、私も気にせず突撃しましょ!」


 そこに一歩遅れて、お姉ちゃんも突っ込んでいく。

 相棒のガルルに跨って正面から突っ込むお姉ちゃんだけど、カモネギソルジャーは先に攻撃したポチ達に夢中で、お姉ちゃんには気が付いていない。


 その隙を逃さず、お姉ちゃんのスキルが炸裂した。


「《パワースタンプ》!!」


「クエーッ!?」


 巨体を殴り飛ばす金棒の一撃に、カモネギソルジャーは怯んでたたらを踏む。


 これ、絶対チャンスでしょ!


「今だよポチ! 《ライトバスター》!! ……あ、あと《応援》!!」


 分かりやすい隙を前に、私はすぐさま最大火力による攻撃を指示し……すっかり忘れてた《応援》スキルを後から使う。


 モンスターがスキルを発動した後からだと手遅れなんだけど、ポチが発動準備に入るのがなぜか一瞬遅かったお陰で間に合った。ふう、良かった。


 ……いや、良くないよ、そのせいでポチの《ライトバスター》が発動するより、体勢を立て直したカモネギソルジャーが攻撃する方が早い!


「ちぇすとぉ!!」


「キュオォォ!!」


 そこへすかさず、お姉ちゃんの棍棒とピーたんの風魔法がぶち当たる。

 度重なる攻撃でカモネギソルジャーは動きを止め、再度生まれた隙にポチの《ライトバスター》が炸裂した。


「クエーーーッ!?」


 光の砲撃をまともに受け、カモネギソルジャーの体力が大きく削れる。


 すると、カモネギソルジャーは僅かに動きを止め……まるで癇癪を起こしたかのように、その場で地団駄を踏み始めた。


「クエーーーッ!!」


「うわわ、何!?」


 怒りの程度を表すように、その体毛すら赤く染め上げたカモネギソルジャーが、その翼に持った桜ネギを投げつけて来る。しかも、狙いは私。


 全く反応出来ずに立ち尽くすしかなかった私に代わり、飛んできた桜ネギをお姉ちゃんが金棒で叩き落とした。


「クレハちゃん、大丈夫!?」


「う、うん、大丈夫! でも、えーっと、次はどうしよう……」


 桜ネギを投げつけて、武器を失ったかに見えたカモネギソルジャーだけど、どこからともなく新しい桜ネギを取り出し、再度その翼に装備した。


 昨日戦ったボスレタスみたいに、無限に野菜を生み出して来るタイプかな?

 ともあれ、遠距離攻撃まで持ってるとなると、どう対処するか……うーん。


「クエーーーッ」


「クレハちゃんに手出しはさせないわよ!!」


 私が悩んでいる間にも、カモネギソルジャーのネギ投げ攻撃が繰り返され、お姉ちゃんがそれを次々と叩き落とす。


 ……とりあえず、攻撃はもうお姉ちゃんが抑えられそうだし、うちの子には攻撃に集中して貰おうかな?


「ピーたん、ポチ、来て!!」


 というわけで、私が取り出したのは《呪怨の大剣─カースドバスタ―》。ティアラちゃんに作って貰った、私の武器だ。


 この武器で攻撃された相手には、一定確率で《バーサーク》の状態異常に陥る。防御は下がるけど、その分攻撃力が大幅に上がる有用な状態異常だ。


 これでガンガン攻めちゃおう!!


「お願いね、二人とも。《応援》!! 一気に決めちゃえ!!」


「キュオオオオオオ!!」

「クオォォォォオン!!」


 魔力回復薬を間に挟んで回復しつつ、《応援》スキルをかけて大剣でモンスター達をぶっ叩く。


 スキルによる強化、それに大剣で付与されるバーサーク状態によって、二体のモンスターは大幅にそのステータスを上昇させた。


「キュオォ……オォォォォ!!」


 特に、ピーたんの状態がすごい。

 バーサーク、桜特攻、応援と三つ分のエフェクトに加えて、何だかよく分からない緑色のエフェクトまで出しながら、一気に大空へ舞い上がる。


「キュオォォォォォォォォォ!!!!」


 そうして炸裂したのは、風のマシンガン。

 ガナーファルコンという種族名の通り、弾丸のように降り注ぐ緑色の閃光が、カモネギソルジャーを地面に叩き伏せ、尚も続く猛攻となって襲い掛かった。


 え、本当に何その動き。私知らないよ?



スキル:エメラルドバルカン

効果:風属性の魔弾を雨のように連射する



 へー、ピーたん、そんなスキル覚えてたんだ。いつの間に?


 え、レベルアップで覚えた? 最近探索しかしてなかったのによく上がるね。一体私が知らない間に何をしてるの?


 そんな数々の疑問を余所に、強力なスキルで動けなくなったカモネギソルジャーへと、ポチが襲いかかる。

 防御に徹していたお姉ちゃんも、ポチと一緒にスキルによる猛攻をかけ、そして……。


「クエェェ……クエ~~~!!」


 ついに体力ゲージを失ったカモネギソルジャーが、桜ネギ二本を放り出して全力で逃げていった。


 ボスになっても、カモネギは体力なくなったら逃げてくんだ。

 まあ、私としては野菜をくれるならそれでいいけど、どういうことなんだろ?


「やったわね、クレハちゃん! 最後のスキルは良い采配だったわよ!!」


「あ、うん。ありがとうお姉ちゃん! えへへ、私だってやれば出来るんだよ!!」


 些細な疑問を覚える私に、お姉ちゃんはぐっと親指を立てながら褒めてくれる。


 正直、今回も私がした指示って、突撃とやっちゃえの二つだけだった気がするけど……まあ、細かいことは気にしたら負けだよね!!


 半ば無理矢理自分にそう言い聞かせながら、私は思い切り胸を張り……こうして、お姉ちゃんと私の二人によるたった一時間の攻略は、大成功の内に幕を閉じるのだった。

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