第60話 ダンジョン攻略と桜特攻

「ピーたん、ポチ、やっちゃえ!」


「キュオオ!」

「クオォン!」


 もはや、最近じゃスキルの名前すら口にすることがなくなった私の指示(?)を受けて、二体のモンスターが猛然と飛び掛かっていく。


「ク、クエー!?」


 襲われたカモネギバード達は、ポチやピーたんの鉤爪攻撃を受ける度、桜色のエフェクトを散らしながらあっさりと打ち倒されて逃げていく。


 カモネギバード、他のモンスターと違って倒しても体がポリゴン片にならないんだよね。何か意味があるのかな?


「さあ、私も行くわよ~!」


 私が些細な疑問を覚える横で、お姉ちゃんも派手に無双していた。


 持ち前の身体能力で、本来騎乗出来ないはずのバトルウルフに跨がり、農場を縦横無尽に駆け回りながら手にした金棒──以前私がプレゼントしたやつ──でカモネギバードを倒している。


 うーん、やっぱりお姉ちゃんはカッコいいなぁ。


「ふう、一階層目はこんなところね。お疲れ様、クレハちゃん」


 しばらくカモネギバード達を相手に(私以外が)乱闘した後、クエスト達成時に鳴るような軽快なメロディが耳に響き、次の階層へ続くポータルが現れる。


 同時に、それまでの凛々しさはどこへやら、緩んだ顔で私の体を思い切り抱き寄せるお姉ちゃんに、思わず苦笑を漏らした。


「お姉ちゃんこそ……というか、私はただ突っ立ってただけだけどね」


 杖はCTが長いから、ここぞって時以外はあまり使いたくないしね。

 《応援》くらいならしても良かったんだけど、ぶっちゃけそれもいらないくらいみんな強かった。


「モンスターの力はクレハちゃんの力だからいいのよ。というか、本当に強くなったわね、このエリア、本当ならもう少し歯応えある感じになってるはずなんだけど」


「みんなレベルも上がったし、何なら知らないうちに新しいスキルを覚えてたりするからね。ていうか、そう言うお姉ちゃんも大概ボコボコにしてたよね?」


 とても歯応えある相手に対する戦いぶりじゃなかったんだけど。


 そう言うと、お姉ちゃんは「あはははは」と誤魔化すように笑った。


「上司からも、お前を中心に調整したら誰もクリア出来なくなる~とかって言われてるのよねー。上級者の基準にはなるからそれはそれでいいとも言われてるけど」


「お姉ちゃんは最強だもんね」


「ふふ、ありがとうクレハちゃん。でも、そんな私について来れてるんだから、今やクレハちゃんもその"最強"の一人よ」


「うーん、そうなのかな?」


 私自身は弱いままだし、正直よくわからないや。

 でも、うちの子が強いって言われるのは悪い気はしないよね。


「でも、まだガナーファルコンから進化していないってことは20レベル前後よね……それにしては攻撃の威力が随分と……攻撃中に桜色のエフェクトが出ていたけど、何かそういうイベントスキルが……なんだったかしら……」


「お姉ちゃん?」


「あ、ごめんなさい、なんでもないわ。……ちなみにクレハちゃん、知らないうちに新しいスキルを覚えてるって言ってたけれど、あの二体は何か覚えたの?」


「ピーたんとポチ? 特に覚えてないと思うけど」


 戦闘してたら急に知らないスキルを使われて驚くことはあるけど、この二体はまだそういうのは見てないなー。それがどうしたんだろ?


「そう、ならいいの。さて、あまりのんびりしてる時間もないし、次のエリアに行きましょうか!」


「おー!」


 まあ、お姉ちゃんがいいって言うならいいんだろう。


 そう思い、私はお姉ちゃんと一緒にポータルに入って、二階層目に。

 そこには、先ほどとあまり変わらないエリアと、少し多めのカモネギバード。そして、


「あれ、たぬ吉だ。こんなところに探索に来てたの?」


「ポン」


 エリアを徘徊するたぬ吉の姿があった。

 珍しいところで会うねー、と私がたぬ吉を撫でていると、後ろではなぜかお姉ちゃんが頭を抱えている。

 どうしたんだろう?


「待ってクレハちゃん。え、探索? 探索は自分が行ったことのある場所しか行けないはずよ。というか、そもそもこのエリアは探索エリアとして指定出来ないはずなんだけど、どうやってここに?」


「そうなの? とは言っても、私はこの子達に探索場所を指定したことないし……」


 いつも勝手に探索しに行くからね、うちの子。


「あ、でも、お昼前に料理を作ってあげたら、《探索範囲拡大》のスキルがついたから、もしかしたらそれで?」


 ふと思い出して呟くと、お姉ちゃんは「それかぁ……」と項垂れた。


 だ、大丈夫かな?


「《探索範囲拡大》は行ったことのあるエリアと繋がってる隣接エリアが拡張範囲だから……ここも始まりの町の隣って認識されちゃったかー。それでもプレイヤーの選択肢に入らないようにしたはずだけど、レベル差によるモンスターの自己探索は盲点だったわ……」


「え、えっと……ごめんねお姉ちゃん、なんか迷惑かけたみたいで」


 また私のやらかしでお姉ちゃんの仕事が増えた気配を感じて謝ると、お姉ちゃんは私をぎゅっと力任せに抱き締めた。ぐえっ。


「大丈夫よクレハちゃん、私の仕事はどっちかというとこういうバグを見つけることにあるから! むしろクレハちゃんがそういう隙間をぶち抜きまくってくれると検証の手間も省けて助かるってものよ! ……同僚のプログラマーは死ぬかもだけど」


「お姉ちゃん、今最後に不穏なこと言わなかった?」


「気のせいよ」


 笑顔のまましれっととんでもないことを口にするお姉ちゃんに、私はなんとも言えない曖昧な笑みを溢す。


 名前も知らないお姉ちゃんの同僚さん、いつも迷惑かけてごめんなさい。


「というか、たぬ吉がここにいるのがバグなら、放っておいたらまずいの……?」


「まずい……と言えばまずいのだけど、だからってクレハちゃんがどうすることも出来ないし。まあ、気にしなくても大丈夫よ」


 ポンポン、と安心させるようにお姉ちゃんは私の頭を撫でてくれるけど、ちょっとばかりモヤモヤする。


 うーん、バグってことはズルみたいなものだしなぁ、特に誰の影響もない普段の探索ならまだしも、ランキングに影響するイベントでそれをそのままにするのも……。


「さて、そういうわけで二階層目の攻略に移りましょうか。よく考えたら早く倒さないとクエスト失敗に……って、あら?」


 悩む私を余所にお姉ちゃんが振り返ると、既にそこにはカモネギバードが一体も残っていなかった。


 どういうことかと思い辺りを見渡せば、そこにはカモネギバードを撃退した戦利品であろう野菜を咥えるポチとピーたん、そして周辺の野菜を勝手に収穫していくたぬ吉の姿が。


 ……みんな、早いね。それとたぬ吉、私達それを守るためにこのエリアにいるって設定のはずなんだけど、収穫しちゃっていいの?


「……やっぱり、クレハちゃんのモンスター、レベルの割に強すぎないかしら? 本当に何か変なスキルない?」


「んー……あ、そういえば《探索範囲拡大》と別に、《桜特攻》ってスキルもあったよ。料理でついたんだけど……何かまずかった?」


 たぬ吉の件もあるから少し不安になって聞いてみたけど、今回はそうでもなかったのか、お姉ちゃんは首を横に振る。


「いえ、そっちはまずくないわ。まずくないけれど……桜野菜の特級を使って調合して、それでも五割くらいしか付与されない、ほとんど同僚のお遊びで実装されたスキルだった気がするのだけど、やっぱりすごいわねクレハちゃん……」



スキル:桜特攻(イベント限定スキル)

効果:モンスターの筋力、知力アップ(小)。イベントモンスターへのダメージアップ(極大)。イベントアイテムドロップ率アップ(大)



 特級野菜を要求するスキルだからという理由で、めちゃくちゃ強力な効果が付与される《桜特攻》。


 一応、時間制限つきとはいえ、結構気軽に特級野菜を材料に使える私にとって……ついでに、1/2くらいの確率ならほぼ負け知らずの私にとっては有用過ぎるその効果を聞いて、私は戦慄するお姉ちゃんに対してどうリアクションしたものか、しばし悩むのだった。

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