第44話 無事の生還と勝負の結果

「無事、帰還ーーー!! クエストも達成したし、お金も死守したぞーーー!!」


 《業火の坩堝》エリアを突破し、更にはフレアドラゴン──ドラコと名付けた──を新たな仲間にした私は、無事安全な第二の町へと帰って来た。

 いやー、今回は中々の大冒険だったね。


『おつー』

『いやあ、まさか本当にあそこから生還するとはw』

『クレハちゃんつよい』


「ふっふーん、どうだー!」


 空中に浮かぶカメラに向かい、思い切り胸を張って渾身のドヤ顔をかます。

 そんな私に集まる『可愛い』コメントの嵐。うん、なんか思ってたのと反応違う。


「まあとりあえず、これでホーム建てれるね!」


「最低限も最低限って感じだけどね。建てた後も拡張していけるし、いいんじゃないかな」


 私が手に入った軍資金を見てウキウキしているところに、スイレンがそう教えてくれる。


 最低限のホームだとまだ出しておけるモンスターの数は少ないみたいだけど、そこは今回みたいに資金集めして、おいおい拡張していけばいいかな。

 それに、ホームを持てばアイテムボックスが利用出来るようになるし。これでもし死に戻りしても、資金がなくならなくて済むよ。


「おめでとう、クレハちゃん」


「えへへ、ありがとうティアラちゃん。ティアラちゃんとスイレンが手伝ってくれたお陰だよ」


 私一人だったら、そもそも金策の効率的なやり方すら知らなかったしね。

 あのエリアの攻略だって二人の力が無ければ無理だったし、本当に助かったよ。


「えへへ……あ、あの、それで、その……結果は、どうだった?」


「ほえ? 結果?」


「ほら、あの……私とスイレンさん、どっちが活躍できるかって……」


「あー……」


 そういえばあったね、そんなの。途中からすっかり忘れてたよ。


「正直に言えば、どっちがいなくても攻略出来なかっただろうし、どっちも活躍したってことで……ダメ?」


「ダメ!」


 あ、ダメですか、そうですか。


 いつになく強い口調で否定するティアラちゃんに退路を塞がれた私は、しばらく悩んだ末……。


「あえてどっちか、って言うなら……スイレンかなぁ?」


 そう答えた。


 道中にしろ最後のボスにしろ、戦闘はほとんどスイレンに任せきりだったしね。攻略の比重で言えばスイレンの方が大きいかなぁ、流石に。


「う……そうだよね、やっぱり……」


 ズズーンと、この世の終わりを垣間見たかのように落ち込むティアラちゃん。

 何ならそのまま闇に呑まれて消えていきそうなくらい儚い表情を浮かべているその手を、私はぎゅっと握り締めた。


「だからね、ティアラちゃんにはその分、私のホームをデザインして欲しいなって思ってるの!」


「ホ、ホームの……?」


「うん! この服の時もそうだったけど、私、ティアラちゃんのデザイン大好きだから! だからホームを建てられるってなったら、お願いしようと思ってたんだー」


「っ……!!」


 ぶっちゃけ、私にデザインセンスなんてないし、せっかく建てるホームがデフォルトデザインのままじゃ味気ないからね。


 その辺り、ティアラちゃんのセンスなら信用出来るし、出来ればお任せしたいんだけど……当のティアラちゃんは、私のお願いを聞いてから顔をリンゴみたいに真っ赤にしたまま固まってる。どうしたんだろう?


「そ、そんな、クレハちゃん……大好きだなんて、こんなところで……う、嬉しいけど……」


「……んん?」


 今、なんか微妙にニュアンスが変わってたような? 気のせいかな?


「うん、わかったよ、クレハちゃん。ホームのデザイン、がんばるから! 待っててね!」


「……よろしくね?」


 ホームはあくまで、私のモンスター達を出しておくための施設として欲しがってるんだけど……その辺り、改めて説明した方がいいのかな?


 まあ、私も使うつもりだし、ティアラちゃんやスイレンを招くのも全然アリだし、別にいいか!


『なんだろう、ティアラちゃんも段々尊さより危ない空気が漂い始めた気がするの気のせい?』

『なんでや、ヤンデレっ子可愛いやろ』

『まだ病んでないから!! まだちょっと思い込み激しいだけだから!!』

『スイレンは変質者だし、どうなってるのか』

『変質者とヤンデレに好かれるクレハちゃんの受難の日々』

『お姉ちゃんはまだまとも……まとも? だっただろ、いい加減にしろ!』

『あれはあれで天然っぽい雰囲気あったが一番平和だな』

『今のところな』

『まだなんか本性隠してそう(偏見)』

『うーん、クレハちゃんがんば!!』


「???」


 なぜか視聴者のみんなに応援される私。なんで?


 良く分からないけど、応援ありがとうって言っておけばいいのかな?


「さて、それじゃあクレハのお陰で私の懐も温まったし、戦勝会しよう! 町の食堂でぱーっと美味しいもの食べに行くよ!」


「あ、いいねー、行こう! ティアラちゃんも!」


「う、うん! ……スイレンさん、クレハちゃんの隣の席は私ですから……!」


「おー? 勝負に負けたのにいいのかなー、そんなこと言って?」


「うっ……そ、それは……でも、ホームのデザインを頼まれたので相殺です! 引き分けです!」


「ふふふ、まあいいよ、クレハの隣は譲ってあげよう」


「本当ですか!?」


「代わりに、ティアラの隣は貰った。ティアラにあーんしてあげる」


「ふえ!?」


「あ、スイレンだけずるい。私もやる!」


「ふえぇぇぇ!?」


 やいのやいのと騒ぎながら、私達はお店に向かって歩いていく。

 その後、ティアラちゃんを挟んで私とスイレンが両側に座り、借りて来た猫のように大人しくなったティアラちゃんにひたすら餌付けしたり、逆に私が餌付けされたりしている間、切り忘れた配信がずっと垂れ流されていたんだけど……その時の映像が、過去一番の視聴者数を記録したのは、私の人生一番の謎だ。

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