第8話 配信の挨拶とつまみ食い
「みんな、おっはよーー!!」
お姉ちゃんと朝ごはんを食べ終わった私は、早速TBOにログイン。始まりの町で配信開始と同時に元気よく挨拶した。
『おー、おはよー』
『今日も朝から元気だな』
『クレハちゃんかわいい』
『俺らの存在今日は認知出来てるかー?』
「うん、今日は設定弄ったから、みんなのコメントも見れてるよ。昨日は色々教えてくれてありがとね!」
『なに、いいってことよ』
『初心者は大事にしなきゃな』
『それより昨日の終わり頃に練習してた挨拶はしないの?』
『クレハちゃんでーす、きゃぴ☆ってまたやって欲しい』
「やらないから!! ていうかみんなも忘れてーー!!」
開始早々に黒歴史を掘り返され、私は思わず叫んでしまう。
一瞬にして『かわいい』で埋め尽くされるコメント欄を見てうぎぎと羞恥に震えながら、私は無理矢理話を逸らすことに。
「はい、その話はもうやめ!! それより、昨日は何も考えずに取り敢えず適当にやってみただけだけど、今日からはちゃんと目標決めてやりたいと思います!!」
『お、目標? なんだろ』
『てか昨日のあれ狙ってやったわけじゃないのね』
『あんな神憑り的な運ゲーを狙って勝てたら強すぎるわw』
こ、コメントの流れる速度が早い……!!
出来るだけ拾っていくつもりだったけど、とても拾いきれないや。申し訳ないけど、ある程度はスルーさせて貰おう。
「ずばり私の目標は、レベル1のまま最強になることです!!」
『おー』
『レベル1のまま最強か、出来たら強いな』
『ロマンあるねえ』
『前人未到の領域』
「ふふふ、でしょでしょ? やっぱりせっかく配信するんだから、唯一無二でなくちゃね」
思い切り胸を張りながら、私はどや顔を決める。
まあ、したり顔で語ってみたところで、偶然の産物であることに変わりはないんだけどね!
「ちなみにだけど、私以外に幸運に全部ポイント振ったプレイヤーっているの?」
『いることはいるぞ』
『大体みんな途中で挫折してるな』
『奮闘した人でも最初のフィールドボスで詰まる』
「フィールドボス?」
なんでも、《駆け出しの平原》を越えた先には二つ目の町があるんだけど、そこに行くために必ず倒さなきゃならないボスモンスターがいて、それをフィールドボスと呼ぶらしい。
『レベル20の相手でな。これまでの幸運極振りプレイヤーはみんな、レベル10以上差がついて言うこと聞かなくなったモンスターじゃまともに戦えなくて匙投げてる』
「レベル10以上? ……私、既にモッフルとレベル14も差があるんだけど」
たぬ吉とモッフルを呼び出して撫でてあげると、どっちも変わらず嬉しそうに私にすり寄って来てくれる。
うーん、かわいい!
『可愛いのはお前だ』
『おまかわ』
『いやほんと、なんで言うこと聞いてんの? クレハちゃん何かした?』
「特に何も? 私、生まれつき運だけは良いから、それが理由じゃないかな!」
『運の一言で片付けられてしまった』
『なんも言えねえ……』
『まあでも一応、昨日も今も言うこと聞いてるようで致命的な部分を避けて言うこと聞いてなかったから、確かに運なのか?』
「そうそう。……って、今も?」
はてと思い、改めて私の相棒達に目を向ける。
たぬ吉は変わらずそこにいるけど、モッフルがいない。どこ行ったの!?
「こらー! うちの商品食うんじゃねー!」
「あーー!! ごめんなさいーー!! モッフルダメでしょ、それ他人のだからーー!!」
いつの間にやら近くにあった屋台に突撃し、そこの商品を勝手にもぐもぐ食べ始めたモッフル。昨日といい今日といい、本当に食いしん坊だねこの子は!
大慌てで止めに入った私に、コメント欄ではまたも『かわいい』の単語が乱舞。呑気でいいね!
「ともかく、私自身はレベル1のまま、この子達やまだ見ぬたくさんのモンスター達を育て上げて、私は最強のテイマーになってみせるよ! さしあたり、最初の課題はまだ誰も突破してないっていうフィールドボスかな?」
『おー、がんばれ』
『その前にまずそのクエストこなさないとだけどな』
「言われなくても分かってるよぉ!!」
コメントから入ったツッコミに、私は涙目になりながら答える。
モッフルが屋台の食べ物をつまみ食いしちゃった分、私は当然弁償しなきゃならないわけだけど……それが出来るだけのお金はまだ持ってない。キノコ爺さんのクエスト報酬があっても無理だった。
結果、私は屋台の売り子として客引きをしなければならなくなった。うぅ、悲しい。
でも、このクエストをサボったまま一日経過するとクエスト失敗扱いになり……《カルマ浄化クエスト》達成まで町に入れなくなると聞いては、やらないわけにもいかないのだ。
『まさかこんな強制クエストがあるとはなw』
『報酬はモンスターの餌ね。なんとも微妙な』
「ほんとそれね!! お金は全部取られちゃったし……どうせなら、この売り子衣装が欲しかったなぁ」
屋台の店主さんは捻りハチマキに前掛けというスタイルなんだけど、私に渡された売り子衣装はメイド服に近いエプロンドレスだった。
色合いは青と白がメインだから、メイド服そのままってわけじゃないし、装備としての性能も初期装備と同じで全くのゼロなんだけど……なんでおじさん、こんな服持ってるの??
「私も配信者なんだし、目標も大事だけど見栄えも気にしなきゃだよね。ボスの前に、こういう可愛い装備整えようかな?」
『いいんじゃね? レベル1でも装備で盛れば多少は耐久つくでしょ』
『いやいや、何言ってんだお前、クレハちゃんに装備の更新なんて出来るわけないだろ』
「え、それってどういうこと?」
今お金を使い果たしちゃったって話なら、昨日モッフルが狩り集めたゴブリンの素材とか、たぬ吉が昨夜家の中で拾い集めてくれたアイテムとか色々あるから、売れば多少の軍資金にはなると思うんだけど。
ところが、どうやらそういう問題ではなかったようで。
『いや、性能アップの効果がついてる装備は、どれもみんなステータスやレベルで装備制限がついてるからな。レベル1、筋力1、器用1のクレハちゃんがつけれるまともな装備なんてないぞ』
「えっ……えぇーーーー!?」
思わぬ情報に、私は素っ頓狂な叫び声を上げ。
サボってるんじゃねえと屋台のおじさんに怒られながら、どうすればいいのかとひたすら頭を悩ませる羽目になるのだった。
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